苦境にあえぐ百貨店各社が業態の進化を模索する中、大丸松坂屋やパルコなどを傘下に収めるJ.フロントリテイリンググループのJFRカード(大阪府)が、新ポイントプログラムを軸にした百貨店の再構築に挑んでいる。グループ全体で進める「アーバンドミナント戦略」をお金の出所を拠点に包括し、顧客の滞留と循環を促す。その内容や狙いについて、JFRカードの二之部守社長に聞いた。
新ポイントプログラムで商圏拡充をバックアップ
百貨店各社が閉塞状況の打破にもがき、構造改革を含むさまざまな施策に取り組んでいる。そうしたなか、J.フロントリテイリングでは、グループのカード会社であるJFRカードが百貨店変革の一翼を担っている。
「当社が発行する『大丸松坂屋カード』の保有者数は約160万人で、50~70代の金銭的にゆとりのある女性が多いのが特徴。百貨店以外での利用も多く、その比率は5割強ある。J.フロントリテイリングでは、グループを挙げて『アーバンドミナント戦略』を遂行しており、当社はそのなかで、新たなポイント交換プログラム、特典強化によって、地域での利用促進を進めている」と二之部社長はその位置づけを説明する。
アーバンドミナント戦略は、大丸、松坂屋、パルコなどの店舗を核にエリアの魅力を最大化し、地域とともに成長する取り組み。現在、心斎橋、京都烏丸、神戸元町、名古屋栄、上野御徒町の 5つの重点地域で進行している。単に自社店舗の売上を伸ばすだけでなく、周辺開発の推進や地元と連携したイベントを開催するなどで地域に新たな賑わいを創出し、地域とともに、中長期的な企業価値の向上を目指す点で単なる販促とは一線を画す。
店舗単体でなく地域を商圏とするため、複数の店舗にまたがる消費を促進する仕掛けが必要となる。その役割を担うのが、お金の出どころとなる「百貨店カード」だ。
アマゾンや楽天が、会員特典やポイント還元で顧客を買い込んでいるように、同社はリアルを軸にした強みを生かし、商圏を他店舗も含む地域にまで拡充。利用可能な店舗をカードがハブとなり顧客を循環させ、つなぎとめる。
利便性高めた新ポイントプログラム
JFRカードは2021年1月、30~40代女性を新たに取り込むべく、「大丸松坂屋カード」を大きく刷新した。導入された新ポイントプログラム『QIRA(キラ)ポイント』は、そのための重要施策のひとつだ。「従来の百貨店ポイントに加え、日常のあらゆるシーンでカード利用によってポイントが貯まる。今後はポイント付与の連携先を増やすだけでなく、他のポイントに変換できるようにし、さらに利便性を高めていく」と二之部社長は語る。
同社のカード取扱高は、外部取扱高比率の上昇もあり、百貨店の売上が厳しいなかでも毎年微増傾向にある。ただし、今回のカード刷新に当たってはあえて年会費を上げることで、カード発行枚数を減らしている。同社カードのアクティブユーザー比率を高めるとともに、年会費収入の増加を原資に利用額の多い顧客のメリットを高めるのがねらいだ。
そのため、今回の新ポイントプログラムは他社のサービスを意識しつつ、かなり戦略的な内容となっている。
例えば、大丸松坂屋カードをクレジット利用すると大丸・松坂屋のポイントに加え、キラポイントも付与される。同ポイントは、優待やセール品も対象となるだけでなく、これまでポイント付与対象外だった、百貨店にテナント入居するラグジュアリーブランドの商品購入もキラポイントが付与されるようになる。
また、キラポイントはTポイントや楽天ポイント、Amazonギフト券に移行でき、使い勝手にも優れる。大丸・松坂屋のポイントへの移行も可能で、所有者が自身の購買特性に応じた柔軟な使い方が可能となっている。
リアルの強みが百貨店カードのポテンシャル
こうしたポイントカードとしての利便性向上に加え、同社はカードとしての所有欲をよりくすぐる特典も検討しているという。「当社はモノを売るだけでなく、お客さまの『くらしの新しい幸せを支える』のが使命。特に多い女性のお客さまへ向けた『きれいになれるカード』、『健康でいられる、あるいは健康に関する情報があるカード』という位置づけにしていきたい。具体的にはエステの割引をつけたり、人間ドックの割引をつけたりということを行っていく」と二之部社長は明かした。
変革を模索し、もがく百貨店各社だが、やはり強みはリアルにある。店舗での接客や来店傾向の把握。さらにカード利用が増えれば、消費動向の詳細なデータ解析も可能になる。消費全体がECへ推移する中で、リアルの良さを最大化しつつ、カード利用の促進で利便性やお得感を高められれば、百貨店が再び存在感を取り戻すことも可能だ。
コロナ禍でキャッシュレス化が加速したことでカードの存在価値が高まっている。「もっとあなたに寄り添い、パートナーとして求められる1枚」をめざし、1月に15年ぶりにデザインを変更し、サービスも刷新した大丸松坂屋カード。その普及が、なかなか突破口が見えてこない百貨店に次なる道筋をつける可能性は十分にありそうだ。