新型コロナウイルスの到来から1年が経過した。この間、これまで好調と言われてきた外食産業は大きなダメージを受け、未だ、その出口は見えない。では、この「食」のすべてに悪影響を及ぼしているのかと言うとそうでは無い。それはコロナ禍によって要請された社会変化と人口を背景にした日本の社会構造に大きく依拠している。では、この食に関してショッピングセンター経営はどのように捉えていけばいいのか、今号では明らかにしていきたい。
減少する国民消費支出とSCに関わる消費項目の推移
まず国民の消費支出はこの20年残念ながら低下傾向にある。近年、諸外国に比べ日本国民の収入が伸びていないことを報道で聞くことも多いが消費支出も漸減傾向にある。
ここ数年は、前・安倍政権下による経済対策も奏功して多少上向きになったものの、今コロナ禍によって2020年は大きく落ち込んでいる(図表1)。
では消費支出のうちショッピングセンターに関係する品目はどのように動いているのか。衣食住サービスの4項目からみていきたい。
2019年までは「被服及び履物」(衣)以外は好調に推移するも2020年にはコロナ禍によって食とサービスも同様に落ち込んでいる。しかし、唯一増加している品目が「家具・家事用品」(住)である。
緊急事態宣言で要請された外出自粛、通勤を制限する在宅ワークの拡大で在宅時間が増加、家具や家事用品などに関心が高まり、この分野の支出が増えたのである。
逆に大きく落ち込むのは、旅行を含む「教養娯楽サービス」いわゆるコト消費であり、営業時間短縮を要請された「外食(一般外食)」であり、不要不急の代表格「被服及び履物」である。
この「被服および履物」の低下はコロナ禍によって起こった変化では無く、2010年には外食に逆転されるほど低下を続けている。2000年当時、まさか被服履物が外食を下回る時代が来るなど夢にも思っていなかったがこれも現実である。
ここ数年、アパレル企業の破綻や縮小、ブランドの終了などが続いているが、この支出の状況を見ると頷けるというものだろう。
食料品と保険医療が売上を維持する理由
外食と同じ「食べる」カテゴリーの中でも落ち込みのない品目、それが「食料品」である。2020年、日本チェーンストア協会が5年ぶりにプラスになったと報じたようにステイホームは食料品をプラスに押し上げている。(図表3)。 もう1つ、支出が減少しない項目が、「保険医療」である。この食料品と保険医療、これらは、この連載4回目で指摘した、生きていくために必要な基礎消費分野である。
コロナ禍によって落ち込むもの、落ち込まないもの、これはこの1年間の社会的な要請を背景にした結果である。
その要請とは、外出自粛、在宅ワーク、ソーシャルディスタンス、非接触、消毒衛生などであり、これらによって国民の生活は大きく制限を受け、その制限によって取られたステイホームや在宅ワークやECの利用などの行動が上述した結果をもたらしたのである。
常に国民の消費行動は社会的な背景を投影するものであることをこの1年まざまざと見せつけられることになったわけだが、その中で国民が支出する分野の1つ「不要不急の浪費」だけが今も戻らないのである。
ショッピングセンターはどう変わっているのか?
これまで消費者側の動きを指摘してきたが、ショッピングセンター側の状況を見ると同様に被服等が低下し、食に関するカテゴリーが伸びている(図表5)。
なお本図表では、外食が伸び、食物販が低下しているが、これは前年までの状況を前提に開発された開業物件のデータであることによる
コロナが人口減を助長 消費は人口構造に裏付けされる
食が伸び、衣料品が低下する。これは我が国に限ったことではなく、国民の高齢化と経済の成熟化によって起こる必然である。今の日本の消費は、経済成長によって形成された中産階級による衣料品などの消費財に変わり、高齢化による食ニーズにシフトしている。
高齢化が進む日本では、この傾向は、ますます顕著になると予想する。図表6は国立人口問題研究所が発表した2030年の人口ピラミッドだが、コロナ禍によって妊娠届が減少、年間出生数の80万人割れが指摘される今、この予測より一層若年層は減少する。コロナ禍は人口問題にまで影響を及ぼしたのである。
「衣食住」から「食住衣」へ
今後、人口の減少と高齢化、所得の低下と中産階級の縮小等によって衣料品への意識はますます低下し、食及び住関連への意識が高まることは想像に難しくない。
最近の若年層は洋服での自己表現よりSNSを通した自己実現に価値を見出すことも知られており、この傾向に一層拍車をかける。そして、スティーブ・ジョブス、マーク・ザッカーバーグ、ジェフ・べゾスのような著名経営者たちも同じ洋服を着続けたり、非常にシンプルな装いだったり、洋服に多くの価値を求めていない。
このような状況変化、環境変化、意識変化を考えるとこれまで言われてきた「衣食住」ではなく、今や「食住衣」と考える必要がある。
しかし、いまだ百貨店では衣料品の構成比が高く、ショッピングセンターでは家賃負担力のあるアパレルへの賃貸を優先した上で収支計画を策定している。
だが、残念ながらこれからはそうはいかないだろう。従来売れていたものを再び売るのではなく、社会から要請されるものに売るものを変えることが重要だ。一日も早くマインドセットを変えて新たなビジネスを構築することが今、求められているのではないだろうか。川の流れを逆流させることはできない。
西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役
東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員、渋谷109鹿児島など新規開発を担当。2015年11月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒、1961年生まれ。