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利益激減のなかコロナ禍のライブコマースで起死回生 8か月で売上10倍にしたサトーカメラ、成功の秘訣

スマートフォンの普及で斜陽産業になりつつあるカメラ業界において、圧倒的な強さを誇るカメラチェーンが栃木県にある。宇都宮市内に本部を構えるサトーカメラ(栃木県/佐藤千秋社長)だ。カメラ販売シェア17年連続栃木No1、栃木県のカメラ・レンズ・写真の年間消費量を全国平均の3倍以上まで引き上げた実績を持つ、“最強”ともいえるローカルチェーンである。第2回は、苦境の中迎えたコロナ禍でサトーカメラが放った起死回生の一手、ライブコマースとその成功の秘訣をお伝えする。

(第一回はこちら

コロナ禍で迎えた一大転機

 フィルムカメラからデジタルカメラ(以下デジカメ)へと移行したのが2000年代、2010年代に入るとスマートフォン(以下スマホ)の普及によってそのデジカメも売上台数をどんどん減らしてきている。サトーカメラはそんな中でも、スマホやデジカメで撮影した写真をプリントして飾る楽しさをアピールし、デジカメ本体の売上ではなくプリントサービスなどに注力、努力を続けてきたが、デジカメ販売の落ち込みは深刻だった。売上の1割しか利益にならない状況に追い込まれていた2020年1月当時の状況を、「もうデジカメは限界かな、と正直思った」と佐藤氏は振り返る。

 しかし、そんな限界の状況だったサトーカメラに、一大転機をもたらしたものがある。それは意外にも、新型コロナウイルス(コロナ)の流行だった。コロナ禍で起こった消費行動の変化の一つに、対面購入から通信販売など非対面購入への移行がある。加えて、それまで旅行などに費やしていた娯楽費を他の趣味に振り替えたり、新たに趣味を始めたりしようとする人々が増えた。結果、“通販ではそれまで売れなかったような高額商品が売れる”という現象がコロナ禍では起こったのだ。

 この傾向を耳にした佐藤氏は「これだ!」と感じたという。通販なら、売上には直接繋がらない展示品を置く必要もなく利益を上げやすい。これまで、栃木県という地域に密着して展開してきたサトーカメラだが、通販で全国区に「打って出る」タイミングだと判断した。

起死回生の一手はYouTubeでのライブコマース

 実は、サトーカメラでは既に2003年から自社サイトでの通販を行っていた。しかし、「全く売れなかった。楽天モールなどに出店すれば売れたかもしれないが、それでは(手数料で)利益がなくなってしまう。かといって自社のオンラインショップでは知名度も低く売れない。このジレンマから長らく脱出できなかった」(佐藤氏)という。

 コロナ禍で再度、通販という方法で打って出るに当たって、佐藤氏がメーンの販促手段に選んだのはYouTubeだった。YouTubeチャンネル自体は2018年から開設していたもので商品紹介を配信しており、この時には登録者数2万6000人程度になっていた。ここに向けてライブコマースを行い、商品を売ろうと考えたのだ。

サトーカメラのYouTubeチャンネル。毎日さまざまな内容でライブ配信が行われている

 ライブコマースとは、ライブ配信上で商品説明を行い、視聴者がリアルタイムに質問をしながら商品を購入できる、新しいECの形だ。一般的には、ライブコマースで収益を上げるためには最低10万人〜100万人のチャンネル登録者がいないと難しいといわれているが、ここでも佐藤氏は常識にとらわれなかった。「文字と静止画像だけのECは飽きる。飽きさせないECであれば登録人数に関わらず売れるはず」(佐藤氏)との考えから、ライブ配信上でまずは中古カメラ、限定一台の販売を試みたところ、これが売れたという。それまで100万〜200万円/月だったECの売上が、ライブコマース開始以降の20年3〜5月は安定して300万円/月になった。その後、ライブコマースで扱う商品を新品カメラなどにも拡大したところ売上はさらに伸長。11月以降は2000万/月を安定して売り上げており、たった8ヶ月で売上が10倍以上になったというから驚きだ。

成功の秘訣は“1対1”

 なぜ、サトーカメラのライブコマースはここまでヒットしたのだろうか。その秘訣は、「店頭販売と接客のプロである、実際の店舗スタッフ1名だけで行う」(佐藤氏)ことにあるという。

 ライブ配信でありがちなパターンとして、複数人が出演し、主に商品説明を行う人、質問をする人、場を盛り上げる人、のような役割分担で進行するものがある。しかしこのスタイルは、「よほどのプロを連れてこないと茶番劇のようになり、見ていられないものになってしまう」(佐藤氏)という。さらに、このスタイルは視聴者の存在と関係なく番組が進行する。ちょうどテレビを眺めているような感覚に陥り、ただ見流すものになってしまいがちだ。

 そこでサトーカメラが取ったのが、前述の「実際の店舗スタッフが1名だけで行う」という方法だ。出演者同士で話すのではなく、スタッフが1人でカメラに向かって語りかける。これは一人ひとりの視聴者から見ると「自分に話しかけてくれている、接客されている」という感覚になる効果がある。また、台本がないため、視聴者からの質問や「(商品の)ここを拡大してよく見せて欲しい」といった要求にもフレキシブルに対応しやすい。この方法が受け、今では毎日のようにライブ配信を行い視聴者は常時200〜300人、2時間の配信で約2000人が訪れるという。

 また、サトーカメラのライブコマースには、「今までの客層とは異なる層の購入者が多い」という特徴がある。実店舗のメーン顧客層は20〜40代の女性だが、ライブコマースで商品を購入するのは30〜40代の男性が多い。ただ購入するだけでなく、サポートや“繋がり”を重視しがちな女性客とサトーカメラの実店舗は相性がよかった。しかし、自分で商品を比較厳選し、狙ったものを手に入れること自体が目的の男性客は、今まで家電量販店などに流れていた層だ。コロナ禍で実店舗を訪れることが難しくなったことで、新たな顧客層にもライブコマースを通じてサトーカメラを知ってもらい、さらに従来の顧客層以外にもサトーカメラ流の“接客”が有効だということがわかったのは、大きな成果だった。(第3回に続く)