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小売業は人のビジネス!従業員のやる気を引き出す=西友兼ウォルマートジャパンCEO 上垣内猛

米ウォルマート(Walmart)傘下の西友(東京都)は5月12日付で上垣内猛執行役員シニア・バイス・プレジデント(SVP)が最高経営責任者(CEO)に就任した。西友がウォルマートの完全子会社になってからのCEOは4人目。日本人は4年ぶり、2人目となる。上垣内CEOは西友の戦略をどう描くのか。

アソシエイトの会社への貢献意欲を高める

──5月12日付で西友とウォルマート・ジャパン・ホールディングスのCEO(最高経営責任者)に就任しました。CEO就任の打診はいつごろあったのですか。

西友CEO 兼 ウォルマート・ジャパン・ホールディングスCEO 上垣内猛(かみごうち・たけし) 1964年7月13日広島県生まれ。一橋大学卒。87年日本リーバ入社。日本リーバおよびユニリーバUK、ユニリーバ・シンガポール等にて要職を歴任。2007年、ユニリーバ・ジャパンで代表取締役社長兼北東アジアファイナンス担当バイス・プレジデントに就任。12年4月、西友執行役員シニア・バイス・プレジデントとして入社。店舗運営本部、お客様相談室、アセット・プロテクションを担当。15年5月12日、現任。
 

上垣内 ゴールデンウィークが明けてから、ウォルマート国際事業部(Walmart International)から連絡がありました。打診があったときは光栄に思いました。また、経営の継続性の観点からも、それまでのマネジメントチームの一員がCEOに就いたほうがアソシエイト(従業員)にとっても励みになると考え、受諾することを決めました。ウォルマートのダグ・マクミロンCEOからは「頑張ってください」と激励の言葉をもらい、とても励みになりました。

──入社したのは3年前の2012年4月です。これまでどのようなことに力を注いできましたか。

上垣内 西友の中でもいちばんの大所帯である店舗運営本部を約3年間担当しました。

 さまざまなことを手掛けた中で、いちばんよかったと自負できるのは従業員満足度(ES)調査の数値を大きく改善させたことです。

 調査は会社への貢献意欲を測る項目もあり、店舗運営本部の担当になってから約1年半で数値を約10ポイント改善させることができました。アソシエイトの会社に対する貢献意欲はそれまで約50%でしたが、60%近くまで引き上げたことになります。

──具体的には、どのような方法で従業員の満足度を高めたのですか。

上垣内 可能な限り店舗を訪問し、店長をはじめとしたアソシエイトと話すことに専心しました。約2年半かけて348店舗すべてを回りました。

 本部では、1週間のうち、週2日は外せない会議があり、店に行くことができる時間は限られています。日中の業務が終了した後や、土曜日や日曜日を利用し店舗を訪ね、アソシエイトと話す時間に充てました。

 そこでは、店長ともよく話をしました。店長は、店の経営者ですから、経営に携わる同じ仲間として、どんな考えを持ち、何を課題として認識しているのかなどに興味もありました。

 店長には、フランクに「何か本部ができることはありませんか?」「注目しているアソシエイトはいませんか?」と投げかけました。

 店には、魚を切るのが上手いアソシエイト、若手で頑張っているアソシエイト、売場づくりが上手いベテラン、同じ売場で一緒に働いている親子など、さまざまなアソシエイトがいます。売場の善し悪しではなく、店長のリーダーシップとアソシエイトの将来について話すことに時間をかけました。

──ダグ・マクミロンCEOは「ピープルビジネス」という言葉を使っています。上垣内CEOもアソシエイトをとても大切にしているのですね。

上垣内 そうです。私は西友に入社するまで小売業の経験がありませんでした。西友は前職に比べ、従業員が多く、組織の規模もメーカーのそれとは異なります。小売業は人のビジネスであり、CEOである私の役割はアソシエイトのやる気を引き出すことだと考えています。

 アソシエイトの満足度が上がらないと、お客さまを満足させることはできません。貢献意欲があまり高くないアソシエイトに接客をしっかりやろうと言っても、それは無理な話です。貢献意欲の高いアソシエイトは自分の役割を理解し、リーダーシップとやる気を持って仕事をしています。それは自分の会社に誇りを持っていないとできません。小売業とはそういうものだと考えています。

投資に対するアソシエイトの意識が変化

──店長をはじめアソシエイトの考え方が起点となった施策もたくさん出てきたと聞いています。

上垣内 14年末までに全店舗にLED(発光ダイオード)の照明を導入したのはその1つです。売場の照明の明るさについてお客さまからご意見があったとアソシエイトが教えてくれたことが発端になっています。また、フレッシュ感を打ち出せるような青果什器の導入もそうです。お客さまの声を聞いたアソシエイトの意見、要望を集約し、優先順位をつけて売場の改善に取り組んでいます。

 アソシエイトはEDLC(エブリデイ・ロー・コスト)の重要性を十分に理解し、ムダに対する意識がとても高いのですが、これまでは計画にないことは提案しづらいと考えるきらいがありました。そこで、店長集会などを通じて、お客さまが求めているのならば、予算化されていなくても実行し、売上アップにつなげて投資を回収していこうと伝えていきました。その結果、「効果が期待できる投資については、まずは、積極的に提案していこう」とアソシエイトの意識が変わってきています。

信頼を得るため価格、品質、利便性を重視

──新CEOとしてのミッション(使命)はどんなことだと考えていますか。

上垣内 5月12日のCEO就任日に、「仕事に誇りとやりがいを感じられる職場環境をつくるのが私の使命です」とすべてのアソシエイトにメッセージを送りました。

 ウォルマート全体の使命である「Saving people money so they can live better」や4つの信条((1)お客さまのために尽くす、(2)すべての人を尊重する、(3)常に最高をめざす、(4)倫理観を持って行動する)を大切にすることはこれまで通りですが、私は、CEOとして、アソシエイトに自分の言葉でしっかりと伝えたほうがよいと考えました。

 また、ウォルマートの株主総会後、CEO就任から9週間後に全アソシエイトに送ったメッセージがP58の左下になります。株主総会でのダグ・マクミロンCEOの発言などを自分なりに日本語に翻訳したものです。一人ひとりのアソシエイトにリーダーシップを持ってもらい、全員で「明日のウォルマート・ジャパンを創っていこう」と呼びかけています。

──新CEOが考える「明日のウォルマート・ジャパン」はどんな姿ですか。

上垣内 お客さまが住まれているところには、当社の「西友」や「LIVIN」「サニー」の店だけでなく、競合店も多くあります。お客さまは複数の店を利用します。ですから当社は、お客さまに最初に選択される小売業になりたいと考えています。

 また、お客さまから信頼される小売業でありたいとも考えています。商品やサービスが安いだけでなく、気持ちよく買物ができたり、当社の店がお客さまの生活の一部になれるよう、お客さま一人ひとりの信頼を勝ち取りたいのです。

 少子化や高齢化、人口減少、可処分所得の減少などのトレンドは急には変わりません。その中で、お客さまは価格や品質、利便性などの要素を大事にされており、よりおいしいもの、より鮮度のよいものを食べたいという思いも変わらないでしょう。

 ですから、当社は信頼を構成する要素として、価格、品質、利便性などを重視しています。信頼を100とするなら、たとえば価格が50、品質が30、利便性が20というように、それぞれを店舗の商圏特性に合わせて要素をミックスし、お客さまからの信頼を勝ち取りたいと考えています。同時に、西友のプライスリーダーシップ(価格優位性)をしっかりとお客さまに伝えていくことをこれまで通り重視しています。

──価格ということでは、「西友は安い」というEDLP(エブリデイ・ロー・プライス)政策が消費者にずいぶん浸透してきました。

上垣内 商品本部やマーケティング本部をはじめとしたアソシエイトの努力の賜物です。

 たとえば15年3月から展開している「プライスロック」(一部の商品を最低6カ月間、一切値上げをせず低価格で販売する)キャンペーンは、EDLPを強化する施策です。よい結果が出ていますので、パートナーシップを結ぶお取引先さまのご協力も得られています。これは、1つの差別化策になっているのは間違いありません。

──15年1月には、プライベートブランド(PB)商品とナショナルブランド商品の「味」を消費者に比較してもらう「横綱チャレンジ」キャンペーンを実施。「生鮮食品満足保証プログラム」のもと、4月からは生鮮食品売場の点検を全社で徹底する「鮮度チェックプログラム」を開始しています。

上垣内 これも、お客さまからの信頼を勝ち取るための施策と位置づけています。

 実は、「横綱チャレンジ」は比較対象のNB商品もよく売れ、結果的にはお取引先さまとわれわれ双方にとって“ウィン・ウィン”の結果となりました。今ではお取引先さまから逆に企画をご提案いただくケースも増えてきています。

 「生鮮食品満足保証プログラム」による鮮度強化の取り組みについては、地道にやるしかありません。日本の小売業は鮮度を語らずして商売はできません。店舗での鮮度チェックに加えて、7月には物流センターに青果を検品する専任のアソシエイトを配置するなど、川上での鮮度チェックを強化する仕組みづくりにも力を入れています。

核(コア)である既存店の強化を優先

──CEO就任後の記者会見では、「既存店の価値を最大限に高めたい」と話していましたが、これからどんな成長戦略を描いていますか。

上垣内 小売業にとっての成長は、既存店の成長、新規出店、そしてほかの小売業さんとの提携やM&A(合併・買収)がありますが、当社は「コア(核)」である既存店を強化することを優先します。

 なぜなら、われわれの経営のコアである既存店には、まだまだ成長の余地があるからです。つまり、まだ、最強と言える状態ではありません。

──新規出店やM&Aに対する姿勢を変えるということですか。

上垣内 そうではありません。もちろんオープンなスタンスを継続していきますが、既存店をしっかり育てていくことを優先すべきであると考えます。これはウォルマート国際事業部の各国のCEOが大なり小なり同じく認識していることです。

 既存店を強くしていった先に、もしかしたら「一緒にやりましょう」とほかの小売業さんからお声掛けをいただくこともあるかもしれません。そのときは、もちろん前向きに検討したいと考えています。

 ウォルマート国際事業部の中で西友の評価は高い。日本という成熟市場で、安定的に既存店が成長しているからです。しかし、そうした時こそ謙虚に「あれもこれも」ではなく、自分達が信じてきたことを継続的に実施していくことが大切です。

──強化の対象は、商品的には生鮮食品と総菜、そしてEコマース(ネット通販)になりますか。

上垣内 7月初旬に米国の新しい店舗をいくつか視察してきましたが、生鮮食品と総菜の強化に取り組んでいるのは日本と同じです。

 Eコマースにおいては、グローバル戦略として「店舗とネットの融合」を推進しています。この店舗とネットの融合では、西友は8月初旬にCEOの下にCOO(Chief Operating Officer:最高執行責任者)を置き、COOが店舗運営本部やマーケティング本部、西友ドットコム事業本部など6本部を統括する体制にします。店舗とネットのオペレーションを一気通貫するのがねらいです。

 さらに、お客さまの多様化するニーズに対応する施策も行っています。一例として「SEIYUドットコム」では、お客さまがネットでご注文された商品を店のロッカーでピックアップできる「うけとロッカー」を長野県松本市で試験的に運用しています。今後もお客さまの利便性を追求するなどして、信頼を勝ち取っていきたいところです。