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データの分析・活用だけでなく顧客との「ハイタッチ」を重視する=全日本食品 平野 実 社長

全日本食品は、情報活用や店舗運営などを支援するリテールサポート機能を充実させるとともに、AJDやJA全農などとの業務提携を推し進めながら、店舗の競争力の向上を図る。競争環境が厳しさを増すなか、どのような成長の道筋を描くのか。2013年に全日本食品の社長に就任した平野実氏に戦略を聞いた。

地域のライフラインとして社会的使命を果たす

──現在の消費環境をどのように見ていますか。

全日本食品 代表取締役社長 平野実(ひらの・みのる) 1961(昭和36)年8月生まれ。84年3月日本大学農獣医学部卒業、4月全日本食品入社。2009年2月執行役員。12年11月専務取締役。13年9月代表取締役社長就任。
 

平野 昨年の消費税増税の影響が依然として続いています。それはお客さまの購買データにもはっきりと表れています。とくに今年3月の売上高は、昨年の駆け込み需要の反動もありますが、対前年同期比95?96%と苦戦しました。全日食チェーンの加盟店の多くは、店舗規模は小さいけれども、地域のライフラインとしての社会的使命を持っています。店舗を営業し続けることでその使命を果たさなければなりません。小さな店舗規模でも生き残っていくためのさまざまな施策を今まさに打っているところです。

 まずは、売価です。お客さまにとっては、実勢価格との差が5%未満であれば、許容していただける売価と捉えています。たとえば、実勢価格が100円の場合、売価が105円では高いけれども、104円ならば「高くない」と感じるということです。そこで、われわれは、以前からこの考え方をもとに、店舗の利益を確保しながら、最も値頃感のある売価を「厳選売価」として設定してきました。

──昨年、AJDやJA全農と業務提携をしました。ねらいは何ですか。

平野 「厳選売価」については、そもそもの仕入れ価格が上がってしまえば、値頃感の維持は難しくなります。そこで、仕入れのボリュームを大きくすることで、店頭売価を引き下げることが重要です。AJDやJA全農と業務提携した目的の1つは、このボリュームの拡大です。コンビニエンスストア(CVS)やドラッグストア(DgS)などが食品販売に力を入れ、業態間の垣根が低くなり、ボーダーレス化が進んでいます。AJDやJA全農との提携は、協同組合を母体とするもの同士で一緒に協力し合おうということからスタートしました。全日食の運営ノウハウを導入したAコープ店舗は今後、確実に増えていくはずです。

 ボリュームを大きくするという点では店舗数を拡大することも重要です。そのため、加盟店が単独店経営から複数店経営ができるように支援しています。出店コストを負担するのは、資金繰りに苦心している加盟店にとってハードルが高い。近年は本部主導型の店舗開発を行い、軌道に乗ったところで譲渡するケースもあります。加盟店が必要な資金を用意するのも大変ですので、分割返済などのスキームも提供しています。

 店舗展開における「1+5」モデルは、300坪程度の「本店」を軸に100坪程度の「支店」5店を運営することで、大型SMと等しい規模を実現しようというのがねらいです。店舗戦略では、狭小商圏型の小型店舗「マイクロスーパー」もあります。「1+5」モデルにおける支店もマイクロスーパーも、大手食品スーパー(SM)やCVSが進出できない立地に店舗を出すということですから、買物弱者をなくすという社会的使命も果たすことができます。とくに、事業規模の小さいマイクロスーパーは地方創生に貢献するという意味合いの強い店舗です。これらの店舗は、全日食チェーンだからこそ展開できるとも言えます。

顧客一人ひとりの購買行動を分析

──全日食チェーンといえば、情報活用に力を入れていることで知られています。自動発注システムはその1つですが、現在、何に重点を置いていますか。

平野 自動発注システムでは、店舗単位で商品ごとに発注点や発注数を出しており、高い精度で予測値を出すことができています。自動発注システムを導入することで、店舗運営を効率化できるという面だけでなく、発注漏れによる欠品をなくし、販売機会の損失が減らせるというメリットは非常に大きいと考えています。自動発注システムによって、過剰発注による在庫ロスも削減できます。また、スイーツなどの賞味期間が短い商品では、あらかじめ売り切れる日を設定することでロスを最小限にするロジックも使っています。

 ただ、過去の販売実績に基づいて発注数を決める自動発注システムでは、週末や盆・正月といった特異日には対応できません。ですから手動で発注する必要があるのですが、店舗でその運用がうまくいっていないところもあることが課題となっています。

 自動発注システムは、これまで加工食品を中心に導入してきましたが、最近パンへの導入も開始しました。取引先とオンラインで結んで直接納品してもらっていることもあり、大きな効果を上げています。

 生鮮食品でも自動発注システムの導入を計画しています。従来は、全国で生鮮コードが統一されていない問題がありました。生鮮食品にはJANコードがないうえ、SKU単位では、キャベツ1つとっても、まるごと1個と、2分の1カットと4分の1カットとさまざまです。今年、10年来の課題であった生鮮コード統一ができる見込みです。これによって自動発注システムが可能となりました。生鮮コードが統一できた背景には、加盟店への納入経路が全日食の物流センターに集約されてきたことがあります。以前は、生鮮食品の半分は市場から、半分は物流センター経由でした。

 今後、自動発注システムの対象商品を広げるとともに、加盟店での自動発注システムの導入の促進を図りたいと考えています。

──もう1つの情報活用が、会員カードを利用したFSPです。

平野 POSデータはあくまで販売総数量であり、お客さま一人ひとりの購買行動を捉えているかというとそうではありません。会員カードの顧客IDと紐づいたPOSデータの分析が必要になります。全体総計から顧客の購買行動を推測するのではなく、一人ひとりの顧客の購買行動の積み上げから、MD(商品政策)を組み立てるという考え方がこれからはますます必要になってくるでしょう。

 たとえば、全日食チェーンの店舗を日常的に利用するお客さまとそうでないお客さまでは、データとして表れる数字がまったく違います。ですから、傾向をつかみたい客層に絞ってデータを見ていく必要があります。

 さきほどの消費税増税の影響についても、全日食チェーンの店舗を3年以上にわたり、月15回以上利用していただいているお客さまに絞って分析しました。そうすると15年4月の増税を境に、毎日のように全日食を利用していただいているお客さまでも買上点数を減らしている方の割合が増えていることがはっきりとわかりました。対象を絞り込んでデータを分析し、そのデータ分析の結果に裏づけられた施策が重要だと考えています。

──多くの小売業が取り組んでいる、年齢や性別などの属性による分析はしていますか。

平野 お客さまの買物行動は多様化していますから、属性で分析する意味は小さいと考えています。たとえば、30代女性、40代女性という括りの中でも、ライフスタイルなどによって購買行動はまったく違うでしょう。同様に同じ地区に住んでいるといっても買物の志向は多種多様です。消費者が多様化している今、属性による先入観によっては、MDがずれてしまう危険すらあります。

 これからは、Aさんの買物行動、Bさんの買物行動といったように、お客さまごとの買物行動に照準を合わせて分析し、MDを練っていく必要があります。

 販売促進においても、一人ひとりに照準を合わせなければ、思ったように成果は出せません。ふだんまったく買わないような商品の情報がいくらたくさんあっても、お客さまにとっては魅力がないからです。

 われわれが力を入れてきたFSPでは現在、一人ひとりの顧客に照準を合わせたチラシをレジでお渡ししています。たとえば、お勧めしたいメーカーの新しいシリアルがあった場合は、シリアルをよく買われるお客さまに対して、その新しいシリアルの買得情報を提供することで効果的な販売促進が可能になります。これは「個別特売チラシシステム」というシステムで、「ZFSP」と呼んでいます。顧客の年齢や属性からではなく、買物行動のみでお勧め商品を決める、ネット通販の「アマゾン・ドット・コム」が行っているレコメンド情報のロジックと似たような考え方です。

 またZFSPも、生鮮コードの統一によって生鮮食品の買得情報も掲載するように変更します。その際は、お客さまがよく購入する2分の1カットのキャベツに購入特典を付与するといったように、SKU単位で情報を提供できますから、高いヒット率が期待できるでしょう。

 このように、顧客視点のワン・トゥ・ワンマーケティングを突き詰めていくことは、全日食チェーンの大きな割合を占める小さな店が生き残っていくうえで非常に重要です。顧客データの分析において、長年蓄積してきたノウハウは大きな武器になります。

効率化の先にある顧客との触れ合い

──今後の経営課題は何ですか。

平野 本部施策を徹底させていくことが大きな課題です。本部施策を徹底している店舗は成績がよく、徹底していない店舗の成績はよくないことが明らかになってきています。実際、本部施策を徹底している店舗の売上高は毎月、対前年比105%程度で推移しています。

 加盟店には、売価設定をはじめとした本部施策を守ってほしいと考えています。全日食チェーンは全体で3300億円規模の売上高があります。商品施策を徹底すれば、大手チェーンに負けない販売力をもっているのです。

 もちろん、VCという性格上、レギュラーチェーンやフランチャイズチェーンのような徹底力がないのは事実です。けれども、それを言い訳にせず、各店舗へ本部施策の導入を促し続けたいと考えています。全日食では全国の支店に総勢約100人のスーパーバイザー(SV)を配置し、各店舗への指導を行っています。また、本部と各SVの間では、毎週TV会議を通じて意思疎通を密に図っています。店舗の清掃をはじめとした基本的なサービスレベルを向上させていくことにも、しっかりと取り組んでいきたいと思っています。

 ただ、売価設定やデータに基づくマーケティング、自動発注システムを基盤としながらも、最終的にはお客さまとのふれあいが何よりも大事だと考えています。米国のSMを視察した際、お客さまとの接点を重視している地域SMは元気がいいと実感しました。

 いくらビッグデータの分析力がすぐれていても、最終的に商品を買ってくださるのは「人」ですから、売る「人」に感情の面で良い印象を持ってもらわなければ、次に来店していただけません。あなたのための特別なサービスを提示したうえで、フレンドリーな会話ができる、そういう店舗が最終的に選ばれると考えています。全日食では、このようなお客さまとの心の触れ合いを「ハイタッチ」と呼んで、実行すべき施策の大きな柱の1つに位置づけています。

──少子高齢化、人口減少と社会構造が大きく変化しています。どう対応しますか。

平野 これからは「御用聞き」のようなサービスの導入も視野に入れています。地域に密着した全日食チェーンの加盟店の従業員が、家を訪ねてくれたら非常に心強いと思います。もちろん採算ベースに乗せるのは難しいという現実はありますが、店舗には地域のライフラインとしての役割がますます求められています。われわれが取り組むべきサービスだと考えています。

 そのためにも、本部では発注システムやPOS、情報提供方法など店舗を支援するリテールサポートを強化することによって、店舗での作業負担を軽減し、店舗では接客や配達、地域づくりといった価値の提供へより注力できるような態勢を整えていきたいと思います。

 今後、少子高齢化が進み、買物難民や買物弱者がますます増えるでしょう。そのなかで、全日食チェーンの店舗がどのような店舗をめざすべきか。それについて今年、本部のこれからを担う30代や40代の若い世代を中心に、店頭、情報化、商品、サプライチェーン、本部体制の5つの柱から全日食チェーンの10年後のあるべき姿を考えてもらいました。そこでの議論を通じて、全日食チェーンの各店舗が生き残り、地域商業の灯をともし続け、地域のお客さまに毎日の食材と当たり前の食生活を提供し続けることが、われわれの使命であることを再確認しました。

 そのために、さまざまな施策を実行に移しているところです。厳しい環境ではありますが、全日食チェーンの未来は明るいと断言できます。