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従来のやり方は通用しない「脱・スーパー」が生きる道=さえきセルバHD 佐伯 行彦 社長

2013年、セルバ(山梨県/桑原孝正社長)との経営統合により発足したさえきセルバホールディングス(東京都/佐伯行彦社長:以下、さえきセルバHD)は14年度、売上高550億円、経常利益11億円、経常利益率2%をめざす。長期的に年商1000億円を目標とするが、売上規模の拡大を優先するのではなく、5つの事業会社の競争力向上に軸足を置く。佐伯社長に同社の現状と今後の方針を聞いた。

消費税増税の影響は想定内

──4月1日から消費税率が引き上げられました。昨年5月1日にセルバとの経営統合により発足した、さえきセルバHDでは、消費税増税前後の営業状況はいかがでしたか。

さえきセルバホールディングス代表取締役社長 佐伯行彦(さえき・ゆきひこ) 1954年11月27日生まれ。86年2月さえき設立、代表取締役社長就任。2004年12月たんぼ原徳(現フーズマーケットホック)代表取締役会長就任。07年5月、協同組合セルコチェーン理事長就任。09年8月茨城さえき代表取締役会長就任。11年3月、グループの持株会社体制移行により、さえきホールディングス代表取締役社長就任。13年5月セルバとの経営統合により、さえきセルバホールディングス代表取締役社長就任

佐伯 報道で伝えられているとおり、3月は増税前の駆け込み需要が多少ありました。業界平均とほぼ同じで、3月の実績は対前年同月比で105~106%くらいでした。当グループの場合は、東京都、山梨県、茨城県、島根県で事業を展開していますが、都市部よりも地方の方が駆け込み需要の傾向が顕著でした。地方のほうが、購入した商品をストックできる住宅のスペースがあるからかもしれません。

 4月は、3月が伸びた反動で、前年同月と比べて多少マイナスも出ていますが、これは逆に都市部のほうでは反動はそれほど大きくありませんでした。全体的には、想定の範囲内と言えるでしょう。

 消費税増税よりもむしろ、2月、関東甲信地方に降った大雪のほうに、お客さまは不安を感じられたようです。かなり買い置き需要が増えました。

 2月、3月、4月は以上のような営業状況でしたが、消費税増税の影響よりも、われわれがもう少し学習しなければいけないと思うのは、お客さまの変化です。要は、お客さまの欲しいものが店にあるかどうかということです。そこに、店側が全力を傾けなければいけないと思っています。

大手にできない提案が必要

──3月12日に、さえき(東京都/長谷川徹社長)が10年ぶりの新店「フーズマーケットさえき多摩平の森」を東京都日野市にオープンしました。同月26日にはセルバが旗艦店「セルバ本店」を山梨県富士吉田市に出店しています。今年度の出店政策を教えてください。

佐伯 3月に、セルバが1店、さえきが1店、そしてフーズマーケットホック(島根県/南脇政文社長)が安倍店(鳥取県米子市)を全面リニューアルして、「旬彩館 ホック安倍店」をオープンしました。3月は、3店舗の出店が重なりました。

 今年度は、グループ全体で新店5店舗、改装6店舗を計画しています。ただし、震災後の復興事業や公共投資拡大による建設業界の人手不足、円安による原材料の高騰などから、計画を少し見直す可能性はあります。取りやめるということではなく、あくまでも計画の見直しの可能性です。

 グループの運営については、情報システムや物流、商品調達など効果を出せる分野で統合を進めています。店舗開発についても、店舗の基本設計などから建築にかかわる部分まで、HDの店舗開発部門が担当しています。

 ただし、商品政策については、店舗開発と違って、各事業会社が主導的に実施しています。「フード(食)は風土」と言っていますが、地域によって食文化は異なりますし、事業会社の展開するそれぞれの地域で出店立地や店舗規模に違いがありますから、そのマーケットに合った商品政策を各事業会社が決める必要があります。3月に出店した「フーズマーケットさえき多摩平の森」「セルバ本店」「旬彩館 ホック安倍店」の3店舗は、事業会社それぞれの特色が出ていると思います。

 それでも、事業会社共通で重視しているのは、より本物の商品を売っていくということです。

 たとえば、みたらし団子は、2本で88円、98円といった価格のナショナルブランドメーカーの商品のほかに、1本120円の昔ながらの食材と製法でつくった商品を販売しています。後者の商品は値段が高いのですが、高齢のお客さまにとって昔なつかしい味ですから、よく売れます。低価格の商品と、ちょっと値段は高いけれども高質の商品の両方の商品が必要ですが、重要なことはバランスです。それは出店エリアによってどちらの割合が高くなるかは異なると思います。

 大手小売業が販売している商品を同じように売るだけでは、地域のお客さまが当社の店舗に来店してくださる意味はありません。当社が地域のために役立つには、当店に来店してくださるだけの理由をつくることが重要になります。

──来店してもらう理由とつくるというのは具体的にはどういうことですか。

佐伯 食品スーパー(SM)に生きる道はあると思っています。私が考えている生きる道は、「脱・スーパー」です。

 戦後の約70年をみると、驚くほど世の中は変化しました。これから先の変化はだれにも予測がつきません。そうした環境の中で、これまでと同じように、出店して、チラシを撒いて、カード会員を募るといったやり方で、果たしてお客さまに満足してもらえるでしょうか。より健康的で、よりおいしく、より楽しくという消費者のニーズを満たすことができるでしょうか。従来の延長線でSMを追求していたのでは、SMは必要なくなってしまうのではないかと危惧しています。

 すべてのお客さまが満足されることはありえないにしても、もっと消費者のニーズを満たす提案ができないかと考えています。大手小売業は金融、サービスなど小売以外のさまざまな事業を展開しています。われわれにはそのような力はありません。しかし、歩いて来られるような近隣のお客さまに対してできることはあるはずです。

 それには、「食」という、われわれの事業の中核分野で、異業種とのコラボレーションが必要になってくるでしょう。何か具体的な取り組み始めたわけではありませんが、そういう方向感は持っています。10年先、20年先を考えると、「脱・スーパー」をめざした新しいSMづくりが必要だと考えています。

ネットスーパーより宅配サービス

──近年、ネット消費が拡大しています。SMでもネットスーパーのサービスを拡大しています。ネットスーパーについては、どのように考えていますか。

佐伯 15年ほど前に、当社の200坪、300坪の店舗で、大型店舗並みの在庫が持てるのではないかと考え、ネットを活用した商品販売を検討してみたことがありました。しかし、人的パワーがなかったこともあって実現はしませんでした。

 ネット販売に適した商品とそうでない商品があると思いますが、ネットでの販売は今後も伸びるでしょう。

 しかし、われわれの企業規模から考えて、今のところネットスーパーのサービスを導入することは考えていません。

 その代わり、宅配サービスを手がけています。さえきは青果商出身です。青果商のころは、世帯人数が多く、箱単位で購入される商品を配達するのが当たり前でした。世帯人数が減った今も自前の小型軽トラックを午後2便走らせ、自宅まで配達するサービスを実施しています。お客さまは来店して、自分の目で見て、手で触れて、商品を購入し、あとは自宅まで運んでもらうのです。所定の購入金額以上で配達料が無料になるサービスです。

 このサービスは高齢のお客さまに適しています。現在、日本の高齢者人口は2000万人(70歳以上)を超えています。その大半は元気で活動的な高齢者です。今後どうなるかはわかりませんが、現在の高齢者の実態に宅配サービスは合っていると感じています。

消耗戦に入るSM業界 淘汰・再編は必至

──さて、セルバと経営統合して1年が経過しました。この1年をどう振り返りますか。

佐伯 経営統合のメリットを急いで追求すべきではないと考えています。

 さえきの創業は1979年、セルバの創業は83年。それぞれ30年以上の歴史があります。以前から両社には交流があり、良好な関係にありましたが、企業文化には違いがあります。互いのトップ同士は、それぞれの文化を理解していますが、現場の従業員はそうではありません。ですから、従業員同士の文化のすり合わせを1年かけてやってきました。また、会社によって規定や基準も異なります。経営統合時に発表したとおり、そういった微妙な相違を1年間かけてすり合わせてきました。

 現場の従業員同士の「顔合わせ」、「心合わせ」を行って、よい人間関係をつくっていく。そして、「力合わせ」を行う。ゆっくりと着実にいいものをつくっていこうというのが互いの考え方ですので、慌てず、急がず、けれど休まずに、統合を進めていきたいと考えています。

──さえきセルバHDは、SMの業界再編の、受け皿のひとつとして今後、さらにM&A(合併・買収)を進める考えですか。

佐伯 HDは、経営状態の厳しい会社を仲間に入れて再生してきた10年の歴史がありますから、客観的にはそう見られるかもしれません。確かにプラットホームはできましたが、今後さらにM&Aを行うか否かは、われわれの能力次第でしょう。

 SM業界は、コンビニエンスストア(CVS)業界、百貨店業界などと比べて、再編が一番遅れている業界です。CVSは大手3社、百貨店は大手5社ですが、SM業界は、ほとんどの企業が独立系の中堅・中小です。消費市場がこれから縮小していく中で、SM業界はこれから消耗戦に入ってきます。店舗閉鎖や企業淘汰が増えていくでしょう。

 ただ、M&Aは企業同士の政策の相性が大切です。成長戦略を推し進めるといっても、決して無理な成長をするつもりはありません。「売上規模が1000億円ないと生き残れない」などとよく言われますが、いくら売上規模が大きくても、売れない店が多かったら赤字が膨らむだけです。表面的な売上規模より内容が重要です。内容をよくするためにはSMとしての価値を提供し、お客さまの信頼を得て、売上と利益のバランスをとっていかなくてはなりません。

──政策の相性という点からすると、セルコチェーンの加盟社と手を組んでいく可能性が高いのでしょうか。

佐伯 当然、加盟社同士で情報共有していく必要はあります。そのために定期的に集まっていろいろな情報交換をしています。その中で問題が早期発見できれば、打てる手はあるはずです。経営統合もひとつの手ですが、場合によってはその企業の出店エリアでセルコチェーンに加盟していない他企業と統合する方がよりよい経営判断となる場合もあるでしょう。経営判断の解答はひとつではありません。ケースバイケースで、10通りのケースがあれば、10通りの解答があるのです。

 セルコチェーンの加盟社に限らず、あらゆるSMに共通しているのは、生き残れるかどうかという危機感です。今は、インフレもあって売上が毎年上がっている昭和の時代ではありません。当時は「儲け癖をつけろ」などとよく言いましたが、今は儲けるどころか、生き残れるかどうかの問題になっています。

 企業規模が大きいから安泰という保証はどこにもありません。大企業でも危機意識を持っているのではないでしょうか。

「食」の知識を持った販売のプロを育成へ

──さえきセルバHDの今年度の重点方針を教えてください。

佐伯 販売のプロとして、一つひとつの商品について、知識を持った人材を育てたいと考えています。

 お客さまの中には、従業員よりも知識を持った人が大勢いらっしゃいます。単に商品を購入するだけのお客さまもいらっしゃいますが、やはりお客さまが従業員と相対して買物するのは日本の文化です。食のスペシャリストとして生き残るために、従業員にプロとしての教育をしていかなければならないと考えています。

 現在、部門ごとの研修、主任研修など月間スケジュールを決めてエリアごとに教育をしています。また、営業会議で商品の試食も行っています。商品は全部食べて味わってみないと、お客さまに「おいしさ」を伝えることはできません。

 さらに、商人である前に人間であるべきと考え、「人間育成」も教育テーマに掲げています。「脱・スーパー」をめざす前に、まず「人」という基盤づくりをしていきたいと思っています。