メニュー

コロナ禍の20年4月に社長就任 エバラ食品工業の森村剛士氏が語る「エバラらしさ」とは

2020年は、流通業界にとって新型コロナウイルス(コロナ)によって大きな変化を余儀なくされた1年だった。その多難・激変の年に新社長に就任したのが、エバラ食品工業の森村剛士氏だ。コロナ禍においても、消費者の変化に対応した商品を提供し続ける同社の戦略、今後の展開についてたずねた。

コロナで経営環境が激変
様変わりするニーズに柔軟に対応

──コロナ禍の2020年に社長に就任しました。

森村 20年4月の社長就任直後、政府の「緊急事態宣言」が発出されたため、コロナ禍による環境変化に対応し続けた1年、という印象です。

 経営環境は、文字通り激変したといってよいと思います。21年3月期上期の業績は、事業ごとにバラツキがありますが、主力の家庭用事業は、外出自粛による買いだめといった、いわゆる「巣ごもり消費」を受けて、需要が急増しました。その一方で、来店客数が減少した外食産業の影響を受け業務用事業は非常に厳しかったです。商品構成の変化や感染防止対策の徹底による一部経費の未使用により企業全体としては営業利益ベースで増益となっています。

もりむら・たけし
1979年9月生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。2005年11月エバラ食品工業入社。12年4月執行役員開発部門担当兼開発本部長。同年6月取締役開発部門担当兼開発本部長。13年4月取締役業務用営業部門及び海外事業部門担当、荏原食品(上海)有限公司董事長。15年4月常務取締役業務用営業部門担当。18年4月専務取締役家庭用営業部門及び業務用営業部門担当。20年4月代表取締役社長(現任)

──20年は、コロナ禍での商戦となりましたが、エバラ食品工業では、どのような商品戦略に取り組まれたのでしょうか。

森村 基幹商品である「黄金の味」シリーズでは、お客さまの嗜好が多様化していることを受け、20年2月に32年ぶりとなる新テイスト「黄金の味 さわやか檸檬」を発売しました。夏の「レモンブーム」も追い風となり、順調な滑り出しとなりました。また、「プチッと鍋」や「プチッとうどん」などのポーション調味料の育成にも注力しました。1個1人分の使いきりで、常温保存が可能といった利便性や、人数に合わせて家族でもお使いいただける点が支持され、秋冬だけでなく年間通じてご利用いただける商品群へと成長しました。また、秋冬については新商品の発売を1品に絞り、基幹商品の安定供給を最優先に事業を継続してまいりました。

──コロナ禍では、商品のニーズにも変化がありましたか。

森村 外出自粛や在宅勤務の普及によって、内食機会が増加し、調味料にはさまざまな料理に使える「汎用性」と手軽につくれる「簡便性」がこれまで以上に求められるようになりました。毎日の食事づくりに頭を悩ませているお客さまのお役に立てればと、「黄金の味」で手軽にできる汎用メニューをご提案するCMを制作したところ、反響がありました。また、昼食需要の高まりに伴い、うどんをまとめ買いされる方が増えたので、本格的な味わいのうどんが簡単につくれる「プチッとうどん」のCMを前倒しで放送し、店頭露出も強化しました。

──外食に出かける機会が減った代わりに、家庭での食事にこだわるようになった、といった傾向もあるようです。

森村 そうですね。たとえば、飲食店に出かけずに、宅配してもらうケースが増えています。業務用事業では、外食産業の得意先さまに対してテイクアウトメニューなど新しい生活様式に沿った提案を進めています。一方で、家庭においても外食店で食べるようなメニューが手軽につくれる調味料の提案や、新しい食べ方提案など、簡便性だけでなく、生活の質を高める提案を進めています。コロナ禍は当面続くと想定されるので、21年には、肉まわり調味料を中心とした新商品を拡充するなど、カテゴリーの活性化に貢献してまいります。

新しい生活様式に対応
意思決定をスピーディーに

──店頭での販促が難しくなっています。商品の拡販のために、どのような手立てを考えていますか。

森村 ご指摘のように、コロナ禍では店頭販促が厳しい状況です。試食販売員による推奨販売が難しいため、店頭に設置された小型モニターにPR動画を流すといった施策を行っています。また、ダイヤモンド・チェーンストアさまとのタイアップで、10年前から「ディスプレイコンテスト」を開催しています。年々、ご参加いただける店舗さまが増えており、20年9~11月に実施した「鍋ディスプレイコンテスト」では1800を超える店舗さまにご応募いただきました。21年春に開催予定の「黄金の味 ディスプレイコンテスト」では、豊富な商品ラインアップと多様な什器を用意することで、店舗さまのアイデアあふれる売場づくりのバックアップを図ってまいります。

──次に、21年のマーケティング戦略についてはどのようにお考えですか。

森村 コロナ禍でホットプレートメニューの登場頻度が高まりました。そのため、「焼肉のたれ」のバリエーションで楽しむホットプレート焼肉の提案や、外食で人気のメニューを家庭で手軽に楽しめる提案など、毎日の食事づくりへのお役立ちを図ってまいります。家庭で楽しめる肉料理の広がりを訴求することで、焼肉のたれカテゴリー全体の底上げと精肉消費の後押しができればと考えています。

──さて、コロナ禍では、経営の舵取りもいちだんと難しくなっています。経営トップとして今、何が求められているとお考えでしょうか。

森村 企業を取り巻く環境が激変する中では、経営判断をスピーディーに行って社員に明確な方向性を示し、機動的な対応が取れる体制づくりが重要だと考えております。

5カ年経営計画でエバラらしさを追究

──エバラ食品工業は19年度より、中期5カ年経営計画「Unique(ユニーク)2023 ~エバラらしさの追究~」をスタートしています。

森村 基本とする戦略方針を「コア事業による収益強化と戦略事業の基盤確立」「“エバラらしく&面白い”ブランドへの成長」と定め、企業成長に向けたチャレンジを継続し、エバラの独自性、面白さに磨きをかけて、事業規模の拡大とエバラブランドの浸透を図るという計画です。

 現在は「Unique 2023」第1フェーズの2年目です。「コア事業による収益強化と戦略事業の基盤確立」に関しては、事業基盤の整備強化やコミュニケーションの進化を通じた多様な価値創造を推進し、「黄金の味」の売上伸長、ポーション調味料の市場拡大、業務用事業の収益力強化および戦略事業の基盤確立に向けた取り組みの強化を進めています。

 もうひとつの戦略である、「“ エバラらしく&面白い”ブランドへの成長」に関しては、コロナ禍において働き方やコミュニケーションのあり方が大きく変化する中、環境に応じて組織機能を見直すことで、従業員の働きがいにつなげていきたいと考えています。

──コロナ禍で発揮される“エバラらしさ”はどのようなものだとお考えでしょうか?

森村 当社は、「黄金の味」や「すき焼のたれ」「浅漬けの素」といったカテゴリーナンバーワンブランドを保有しています。計画的に短時間で買い物を済ませる傾向が高まる中、そうしたブランドバリューが力を発揮すると考えています。また、TVやインターネットといったメディアプロモーションや、商品サンプリング、消費者キャンペーンなどのコミュニケーション施策を活用しながらお客さまへのアプローチを展開してまいります。コロナ禍によりお客さまの「健康」「時間」「情報」に対する意識が大きく変化したととらえています。とくに「健康」という要素は「なくてはならないもの」なので、エバラらしいアプローチで「健康」へのお役立ちをお届けしたいと考えています。

──“健康”は多くの食品小売業も注目しているキーワードですね。

森村 「食べる」ことは体づくりに直結します。長引くコロナ禍により、食事を通じて免疫力を高めるといった「予防」意識の高まりがあり、そこから生まれるニーズに対して当社ができるお役立ちはあると考えております。

 今後も、変化するニーズを的確にとらえ、皆さまの心身の健康に貢献できる商品・サービスの提供、食育を含めた社会貢献活動を間断なく進めることで、お客さまに選んでいただき、小売店さま、流通さまをはじめとする食品業界全体に貢献してまいりたいと考えております。