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小売業がデジタルマーケティングより先に始めたい!「デジタル時代のマーケティング」とは

コロナ禍に効くデジタルマーケティングの要諦とは――。小売にとって、密の回避が求められる一方で集客をすることは矛盾を孕み、身動きがとりづらい。小売業界のデジタルマーケティングに詳しいD2C dotプロデュース1部 プランナー/プロデューサーの菅原太郎氏は「こんな時だからこそ、SNSの運用見直しが有効だ」と述べ、コロナ禍のデジタルマーケティングの処し方を提示する。

metamorworks / istock

コロナ禍で激変した消費へのスタンスをどう取り込むのか

 新型コロナウイルス感染症拡大で、市場を取り巻く環境が一変した2020年。消費へのスタンスも様変わりした。デジタルマーケティングにおけるこれまでの成功事例も無力化しかねない中で、菅原氏は今後、消費者による小売店舗の選別がより熾烈になると指摘する。

 「コロナ禍で大きく変わったのは、消費の仕方です。それまでは街中をフラフラして美味しそうだからと店に入るようなこともあったが、そういうことがほとんどなくなってしまった。そうすると何が起こるかというと、本当に必要なものしか買わなくなる。選ばれるブランドと選ばれないブランドが明確になっていくでしょう」(菅原氏)。

 その上で菅原氏はこの難局への向き合い方として「SNS運用の見直しは一つの有効策」と指南する。その際のキーワードとして同氏が掲げるのが「人格」だ。

 「出費に対してより慎重になる消費者が何をもとに選別をするかといえば、それは売る側への親近感や思い入れ。大変な状況になってしまうと、消費者はよく知っていたり、好意を持つブランドを助けようと考える。そうした存在になるために重要なことは、例えばSNS運用においては、単に特売情報や出来事だけでなく、日ごろからそこに人格がにじみ出るような発信をすることです」と菅原氏は助言する。

すみだ水族館HPより

 具体例として、菅原氏はすみだ水族館(東京都墨田区)のSNS運用を挙げる。同水族館は緊急事態宣言発令後の2020年5月の連休にツイッター上で「緊急開催!チンアナゴ顔見せ祭り!」を実施。これは、同水族館で人気のチンアナゴが無観客の日常に慣れ、砂の中にもぐって顔を出さなくなったことから、来場が難しい人へ向けてオンラインでの“対面”を行ってもらうというキャンペーンだ。

 「この施策は水族館に行きたいけど行けない人にとって、オンラインでも高い満足感や一体感を持てる点で絶妙なんです。これに限らず、同水族館は、恋愛相談に独自の視点で回答したりもしていて、施設と来場者の関係を超えたごく自然な形でのコミュニケーションを実現。こうやって企業の人格が認知されると、思い入れも強くなり、来場が期待できるはず」と菅原氏はその効用を説明する。

デジタルマーケティングでなく、「デジタル時代のマーケティング」と捉える

D2C dotプロデュース1部 プランナー/プロデューサーの菅原太郎氏

 小売の場合は商品の特性上、こうした人格を投影した消費者とのコミュニケーションは簡単でないが、やり方はあるという。菅原氏が提案するのが、「GIVE」の徹底だ。

「小売業ではないですが、例えば警視庁は、防犯に役立つ情報をツイッターで淡々と発信。弁護士ドットコムは、弁護士がトラブルの解決策をサイト上で公開しています。両者ともそれぞれの強みを生かし、困っている人へ有益な情報を提供することで支持されている。こうした視点なら小売でも活路を見いだせるはずです。これをデジタルマーケティングというと少し違和感があるかもしれませんが、『デジタル時代のマーケティング』と捉えればしっくりするのでは」と菅原氏は、見直しのポイントを解説する。

 菅原氏はさらに、その運用において各SNSの特性を見極めた使い分けも重要と補足。「テキスト情報はツイッター、画像ならインスタグラムが相性いい。よりしっかりとメッセージを伝えるならnoteという選択肢もある。それらを自社の商品特性や発信内容を考慮して使いわけることで、メッセージがより適確に伝わります」とアドバイス。その上で、菅原氏は2021年にデジタルマーケティングを効果的に行うための心構えを次のように説く。

 「近年はデジタルマーケティングといえばDX(デジタルトランスフォーメーション)という潮流です。しかし、『人』を介したマーケティングがコロナ禍で成果を出しています。こんな時だからこそ原点に立ち戻り、経営哲学やビジョンついて改めて考え、企業として消費者とどういうスタンスで接していくのかを洗い直してみることが大切です。そうすることで、コロナ禍でもブレない情報発信が可能になり、それが自ずと企業の人格としてにじみ出ることになる。AI活用やマーケティング・オートメーションの実装ももちろん大事ですが、まず本当にやるべきことを選別し、施策の優先順位を明確にすることです」と菅原氏。

 いまだコロナは終息が見通せないが、菅原氏は「ピンチをチャンスに」と訴えかけ、原点回帰を促す。2021年の小売業のV字回復は、古くて新しい、そして、やっていたつもりがやれていなかったSNS運用を軸にした深化したデジマがカギとなりそうだ。