ヤオコーが都市型小型フォーマットの1号店「八百幸成城店」(東京都調布市:以下、成城店)を出店してから3年以上が経過した。オープン当初は「今後都心部への出店を加速させる」としていたが、2021年1月末時点で、2号店はいまだ出店されておらず、同店で実験を繰り返しているという。多くの業界関係者が注目したヤオコーの都市型小型店では現在、どのような売場づくりが行われているのだろうか。(調査期間:1月9~30日)※本文中の価格はすべて本体価格
約300坪の小型店「1つの型が見え始めた」
ヤオコーが成城店をオープンしたのは、2017年11月のこと。創業時の店名である「八百幸商店」を想起させる屋号を同社としてはじめて採用した同店は、業界の注目の的となった。
成城店は小田急線「成城学園前」駅、京王線「仙川」駅からそれぞれ約1.5㎞の場所にある。周辺は集合住宅や戸建て住宅が立ち並ぶ人口密集地で、典型的な都心住宅地域となっている。
売場面積は、同社標準の約半分となる962㎡(291坪)。いわゆるピロティタイプの店舗で、1階部分にある24台の駐車場は、週末は常時満車状態で、並んでいるクルマを観察しているとそのほとんどが高級車だった。
開店当初の年商目標は20億円。オープン時の会見で川野澄人社長は「1坪当たりの売上を2倍以上にし、標準店舗と同等以上の年商をめざす」としていたが、しばらくは売上が振るわず、苦戦が続いていた。それでも、20年末に行われた記者会見で川野社長は「1つの型が見え始めた」と発言。商圏内での認知度が徐々に上がり、それに伴って売上高は改善傾向にあるようだ。
競合店としては、約200mの近距離に「西友調布入間町店」、約1㎞離れた場所に「食品館あおば仙川店」がある。
売場スペースの構成比を見てみると、生鮮4部門(青果、鮮魚、精肉、総菜)が38%で、とくに青果にスペースを割いていることがわかる。日配部門の構成比は18%で、生鮮・日配の合計で56%、グロサリーの扱いがやや少なく見えるが、ほかの店舗よりも高さのある什器を採用しているので品揃えは十分に確保されている。
販促では、チラシは配布せず、全店で実施する月替わりの特売「厳選100品」をベースに、成城店独自の企画「スペシャルプライス」も実施している。
標準と変わらぬ商品構成
「鮮魚寿司」も健在
売場を見ていこう。1階入口を入ってエレベーターを上がったお客を出迎えるのは青果売場だ。最前面の平台に鮮度感あふれるみかんを大量に並べ、ひと目で旬を感じられる演出がなされている。2台めの平台も果実が陳列されており、3、4台めはトマトやキュウリ、白菜といった売れ筋の野菜が並ぶ。
精肉では壁面側24尺のスペースで牛肉・鶏肉など、その対面の主通路沿い16尺スペースで豚肉をそれぞれコーナー展開。平台ではスペイン産イベリコ豚、ニュージランド産ラム肉、冷凍肉などを扱う。商品構成はレギュラー店のものを踏襲しており、価格帯もほぼ同じであるようだ。ただ、鶏肉コーナーで徳島県産「阿波尾鶏」を販売するなど、成城店のみで扱う商品も一部見られた。
鮮魚売場は、壁面20尺のスペースに塩干品、入口から見て店舗奥側の壁面16尺にマグロやタコ、刺身を配置する。成城店では、鮮魚が生鮮部門の“核”となっているとみられ、「刺身4点盛」(1280円、1580円)、「6点盛」(1980円)、「10点盛」(2980円)と各種刺身を充実させるほか、「生本まぐろ大トロ」(100g1280円)、「中トロ」(100g980円)、「赤身」(100g698円)とサクも豊富に揃える。これも成城店独自の対応だと思われる。平台冷蔵ケースでは愛媛県産「天然真鯛」(1尾1500円)、北海道産「生ずわいかに」(1匹78円、4匹298円)、「真鯵1尾」(200円)と丸物も扱う。
さらに成城店では、同店独自の対応として、通常は総菜部門で扱う寿司を鮮魚部門が担当する。「10貫」(1000円)、「20貫」(1980円)、「30貫」(2960円)、「まぐろ尽くし10貫」(1280円)などネタの鮮度感あふれる商品をラインアップしており、週末に店舗を訪れると多くのお客が購入していた。
続く総菜は、店舗奥側壁面31尺のスペースと平台2台で売場を展開する。開店時は、量り売りのバイキングメニューを提供していたが、コロナ禍の影響もあって現在は廃止。パック詰めの商品のみの扱いとなっていた。
壁面では、「ほっけ塩焼」などの魚総菜のほか、唐揚げや餃子などを販売。平台では「ハンバーグ&カニクリームコロッケ」(498円)、「厚切ロースとんかつ弁当」「黒毛和牛使用牛めし」(各598円)など米飯類を販売。同じく平台のフライコーナーでは、「メンチカツ」(138円)、「ローストンカツ」「一口ひれかつ」(各398円)を揃えている。総菜はレギュラー店とほぼ同じ商品構成であるようだ。
直輸入ワインが好調!
成城店独自の商品も
総菜売場に続く、入口から見て店舗左奥壁面では、日配売場を展開する。壁面に和日配(豆腐、揚げ、納豆など)、洋日配(スイーツ、牛乳、ヨーグルトなど)、平場に漬物、練物、中華麺などを扱う。工夫が見られたのが平場のパンコーナーだ。成城店はインストアベーカリーがなく、そのうえ店舗のすぐ隣にパン専門店があるためか、天然酵母を使用した「白神こだま酵母」をはじめ、ほかの店舗では扱いのない付加価値型の商品を差し込み、品揃えにメリハリをつけていた。
酒類は、約13坪(歩測)とコンパクトなスペースで売場を展開。店舗からそれほど離れていない距離にある「成城石井成城店」「クイーンズ伊勢丹仙川店」など高質商品を扱う競合への対策として、ワインの品揃えにこだわっているようだ。中でも売場内で存在感を放っていたのが壁面の直輸入ワインコーナーで、多くのお客が購入していた。ワインの需要の高い地域であるのは間違いなさそうだ。
加工食品、菓子売場は、通常よりも背の高い什器を採用し品揃えを確保している。商圏特性を考慮してか、こだわり商品を随所に導入しており、たとえば、だしコーナーでは、大分県の「姫野一郎商店」、京都府の「福島鰹」などローカルの老舗メーカーの各種商品を取り揃える。
菓子売場では、輸入菓子に力を入れており、7段の3尺棚4本を使って92SKUを揃える。そのほか米菓も重視しているようで、大阪府老舗メーカー「井崎商店」をはじめ、ほかの店舗では見られないこだわり商品を差し込んでいた。
課題は「坪効率」
カギは付加価値商品か
成城店の開店から3年以上が経過したが、「八百幸」屋号の2号店はいまだ出店されていない。だが、ヤオコーの今後の出店戦略の中で、成城店で蓄積したノウハウ・経験が生かされるのは間違いない。
都市型小型店の運営においては、いかに坪効率を上げるかが重要となる。コロナ禍で客数を伸ばすことがますます難しくなる中で坪効率を上げていくためには、いかに客単価をアップさせるかがキーポイントとなる。そして、そのための方策の1つが付加価値商品の販売ということになるのだろう。
その点、成城店では、鮮魚部門で扱う「鮮魚寿司」、魅力的なラインアップの総菜、直輸入ワインをはじめとしたオリジナル商品など、付加価値型の商品を販売できる体制はすでに構築されているといっていい。チラシなしで販売にメリハリを付けるのは難しいが、お客の様子を見るに、そのノウハウも蓄積されつつあるようだ。20年末の会見の席上で川野社長は、都市型小型店について「物件があれば、2号店、3号店の展開も進めていきたい」とコメントしている。今後もヤオコーの都市型小型店への挑戦に注目だ。
八百幸成城店 店舗概要
所在地 | 東京都調布市入間町1-35-1 |
開店日 | 2017年11月7日 |
店舗面積 | 962㎡ |
営業時間 | 9:30~21:00 |
駐車台数 | 24台 |
駐輪台数 | 53台 |