前回まで企業経営的な視点のテーマを扱ってきたが今回からはもう少しディティールに入り、プロモーションをテーマにする。ショッピングセンター(SC)運営では、プロモーションのことを「販促活動(略して販促)」と呼び、販促担当という社員がいる。しかし、この呼び方によって活動そのものを矮小化され、SCマーケティング戦略に大きな誤り(戦略の誤謬)を起こしていることはあまり知られていない。
今回は、なぜSC運営ではプロモーションのことを販促と呼ぶのか、販促と呼ぶことで効果的な施策が達成できない事実、そして、ポストコロナ、デジタル社会におけるSCプロモーション戦略のあり方について3回に分けて解説していく。
販促活動の目的と効果
販売促進活動の主たる目的は、書いて字のごとく「販売の促進」、すなわち売上を上げること。しかし、コトラーの言葉を借りれば「マーケティングの究極の目標はセリングを無くすこと」であり、売り込まずともモノが売れていくことがマーケティングの最終目標ならば販売促進活動など本来は不要なはずだ。
ところがSC運営では販促活動が日々行われ、当たり前のように毎年、何千万円、何億円もの巨額なお金が投下される。
しかし、コロナ禍で十分な販促活動を行わなかったことで「販促活動の効果は実はあまり無かったのではないか」という声が聞かれる。販促活動はやってもやらなくても結果にそれほど差は無いのでは、という課題感だ。
プロモーションはマーケティング活動の1つ
販促活動はプロモーションの1つ
販売促進活動は、マーケティングの視点で見るとマーケティングの4Pの1つ、プロモーションの一部を成す。
近年、4Pが事業者視点であるため顧客視点から見た4Cと表現することも多いが、本稿では単純化するため4Pを用いて進めていく。
4Pとは、「何を売るか(PRODUCT)」「どこで売るか(PLACE)」「いくらで売るか(PRICE)」「どうやって売るか(PROMOTION)」、この4つの頭文字を取ったものであり、販促活動は、この「どうやって売るか(PROMOTION)」に該当する(図表1)。
その活動は、目標を立て、ターゲットを決め、コミュニケーション方法を考え、実行し評価する活動に他ならない。したがって、販売促進活動はプロモーションとして考え、その他の「PRODUCT」「PLACE」「PRICE」と連携することでマーケティング目標を達成する。
ところが残念なことにSCは一度作ってしまうとそう簡単に改変が出来ない大規模装置産業のため、日々の活動を可変性の高い販売促進活動に負うことになる。
プロモーションはマーケティングの1つと説明したが、販促活動は、そのプロモーションの1つであり、言い換えればプロモーションの「1つに過ぎない」。ここで「1つに過ぎない」と言い換えるほど販促活動はプロモーションの一部であることをここでは理解しておきたい(この考え方は次号で詳述する)。
SC運営におけるプロモーションの活動領域と影響範囲
SCはリアル産業のため顧客が来店(来場)しないと始まらない。したがって、顧客がSCへ来るまでの行動すべてがSCのプロモーション活動領域となり、その活動すべてに対し効果的に影響を及ぼさなければならない。
SCプロモーションは、顧客にSCを認知していただき、理解していただき、顧客の大切な時間を使って出かけていただき、滞在して買い物や飲食を楽しみ、満足と共に帰路に着き、リピートする。そして、各段階の認知や経験を口コミやSNSでの共有(シェア)を促す。
この一連の活動をコントロールすることがSCプロモーションの活動領域であり影響範囲である(図表2)。
6段階をコントロールするSCプロモーション
このように顧客の行動が、「知ってもらう」「理解してもらう」「来てもらう」「買ってもらう」「また来てもらう」、そして「シェア」、これらの促進がSCプロモーションの役割と考えればその活動は自ずと決定する。
どの段階を伸ばしたいのか、どこのセグメントが今課題なのか、顧客の期待はどこにあるのか、こういったことを明確にしないまま販促活動を行っているのであれば残念ながらその活動の効果は望めないだろう。
では、SCプロモーションとは、何をどう実行していくのか。そしてポストコロナ、デジタル社会における効果的効率的なSCプロモーション活動はいかにあるべきか次号では、SCプロモーションの構造を解明するところから始めたいと思う。
西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役
東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員、渋谷109鹿児島など新規開発を担当。2015年11月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒、1961年生まれ。