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イノベーションの5段階ピラミッド 競争優位を保つためにはどのような種類のイノベーションが必要か

米国のコンサルタント企業「Strategos」の創業者でロンドン・ビジネス・スクール大学客員教授のゲイリー・ハメル氏は、イノベーションをピラミッドのような多層構造としてとらえ、5種類に分類して言及している。

istock/metamorworks

オペレーション、製品・サービスのイノベーションは長期的優位にはつながらない

 その最下層に位置付けるのは、オペレーション上のイノベーションである。
 大事なことではあるのだが、オペレーションでいくら頑張っても同業他社と長期的な競争優位は確保できないとしている。私なりに小売業に当てはめる(以下同)と、「バックヤードの整理・整頓」、「従業員のマルチジョブ化」、「コンセッショナリー(名前を出さない専門店)導入」などを挙げることができる。

 次の下から2番目のイノベーションは、製品・サービスについてだ。これは画期的な製品やサービスの開発を意味する。小売業では「プライベートブランド商品開発」、「棚割チェックロボット」、「ネットスーパー」、「宅配ロボット」などをサンプルとして挙げることができる。
 ただ、ハメル氏によれば、「今日、こうしたイノベーションは6ヶ月も経てば、真似されてしまう」という。

業界のルールを変える、ビジネスモデルのイノベーション

 3番目のイノベーションは、ビジネスモデルのイノベーションだ。「製品やサービスを超えて、それらを生産したり、顧客の手元に届けたりする際に、どんな新しい方法を用いるかというところに関わるもの」(ハメル氏)である。

 小売業で言えば、SPA(製造小売業)型のビジネスモデルへの取り組みを挙げることができ、個別企業では、ファーストリテイリング(山口県/柳井正会長兼社長)やニトリホールディングス(北海道/似鳥昭雄CEO)、良品計画(東京都/松﨑曉社長)、神戸物産(兵庫県/沼田博和社長)などが該当する。

 業界のルールそのものを変えてしまうために、競合他社は簡単に追いつくことができないことが特徴だ。上記4社はその典型で、いまから同じ手法で追いつこうとすれば、相当な時間がかかるに違いない。

日本の企業が苦悩する構造的イノベーション

 4番目のイノベーションは、構造的イノベーションだ。これは、産業構造自体を根本的に変えてしまうものであり、その代表格はアップルとアマゾン・ドット・コムだ。

 ハメル氏は、「アップルが音楽産業に対して行った(中略)イノベーションは〈iPod〉というハードウエアではなく、レコード会社を一堂に集めて、これまでにない法的な枠組みで楽曲をインターネット上で販売するのに同意させたこと」と喝破し、日本の企業が苦悩しているのは、構造的イノベーションができないことであると指摘する。

 私なりに解釈するならば、日本は、従来の既得権益や縦割りの産業構造が強過ぎるため、その壁を打ち破る発想はあっても、実現する前のどこかの段階で潰されてしまっているような気がする。ただ、既存の業際をどんどん突破していった、かつてのセブン-イレブン・ジャパン(東京都/永松文彦社長)の方向性などは、このイノベーションに極めて近かったと思う。

永続的な競争優位を可能にするマネジメントイノベーション

 最後の5番目は、マネジメントのイノベーションだ。「人間が働く、その方法自体を新しくすること」であり、「これに成功すると、永続的な競争優位を得ることができる」とハメル氏は言う。ハメル氏は、ゼネラルモーターズの部門組立構造やトヨタ自動車のカイゼンなどを例証に挙げ、半世紀程度は競争優位を保てるとしている。

 これら5段階についてみてみると、イノベーションの階層が上がれば上がるほど、モノマネされにくくなる一方で、実践にあたっての難易度も高くなっていることが分かる。
 そして5番目の最高域に達した小売業のイノベーションを寡聞にして私は思いつかない。

 さて、新型コロナ禍に揺れる日本の産業界でも、“働き方改革”が企業ごとにそれぞれ導入されるようになってきている。けれども、まだ個人任せのような部分が大きい。しかし実は、その方針と実践の中にこそ最大のイノベーションの芽が宿っているかもしれないことを経営者は胸に刻む必要があるだろう。

<ゲイリー・ハメル氏の既刊本>

『経営の未来』
出版社 : 日本経済新聞出版
発売日 : 2008年2月
価格:2420円(税込)

 

 

『経営は何をすべきか』
出版社 : ダイヤモンド社
発売日 : 2013年2月
価格:2420円(税込)