2020年のコンビニエンスストア(コンビニ)各社は分水嶺に差しかかった。セブン-イレブン・ジャパン(東京都:以下、セブン-イレブン)を傘下に持つセブン&アイ・ホールディングス(東京都:以下、セブン&アイ)は米国で2兆円超の大型買収を実施、業界2位のファミリーマート(東京都)は伊藤忠商事のTOB(株式公開買付)によって完全子会社化され、上場廃止となった。コロナ禍で苦戦を強いられる国内コンビニは、現在の状況をどのように打開していくのか。
衝撃が走ったセブン&アイの巨額買収
2020年、コンビニ業界の関係者の度肝を抜いたニュースといえば、セブン&アイによる、米コンビニチェーン、スピードウェイ(Speedway)の巨額買収だろう。約2兆2000億円という莫大な金額で傘下に収めたコンビニチェーンに対し、業界関係者からは当初、「それだけの価値があるのか」という声が各所であがった。
セブン&アイは買収した米国のコンビニチェーン、ひいては米コンビニ市場の将来性にそれだけの価値を見出したのだろう。というのも、米国コンビニ市場は、日本のような大手3社による寡占化状態とはかけ離れているためだ。
日本のコンビニ市場はセブン-イレブン、ファミリーマート、ローソン(東京都)の3社が9割超のシェアを握っている。しかし米国では、シェアトップの米セブン-イレブン(7-Eleven,inc)でもその比率はわずか5.9%、スピードウェイを買収したとしてもシェアは8.5%にしか高まらない。米コンビニ市場は飽和状態を迎えている日本と違い、いまだ未成熟であり、大きな可能性を秘めているのである。
5年後、10年後の国内コンビニ市場を考えると、画期的なイノベーションが起こらない限り、市場の成長は期待できない。国内では、ドラッグストアが台頭するなど異業種との競争が激化するばかり。それであれば、と“宝”が眠る米国市場で成長の糧を探そうとセブン&アイ井阪隆一社長は判断したのだろう。
セブン-イレブンはこれまで、セブン銀行の設立、公共料金の収納代行サービス導入などコンビニにおける新たなニーズを掘り起こすことで成長してきた。ファストフードや総菜、弁当という中食需要の取り込みも成長の原動力となっている。こうした取り組みがセブン-イレブンが起こしたイノベーションであり、米国でもこのイノベーションを起こせるかが焦点となる。
伊藤忠完全子会社、ファミリーマートのねらい
セブン&アイが巨額買収に成長可能性を見出そうとする一方、「サークルKサンクス」の買収により業界第2位に浮上したファミリーマートは、親会社である伊藤忠商事の完全子会社となった。
店舗数こそセブン-イレブンに次ぐ1万6656店(20年11月30日現在)体制となったファミリーマートだが、足元の状況を見ると、この規模を生かしきれているとは言い難く、平均日販をはじめとした経営指標に改善は見られていなかった。
かねて力を入れていた海外展開では、2010年に8000店を超え、国内の店舗数を逆転したものの、それから10年経った現在の海外店舗数は8200店弱と、拡大に成功しているとは言えない。海外のライセンス先との資本関係を含めた関係構築が希薄だったほか、提携先がコンビニ運営ノウハウを蓄積してファミリーマートから“独立”してしまうケースもあったためだ。
今後は、上場廃止となることにより、株主をはじめステークホルダーによるモニタリングがなくなり、経営の自由度は高まるとみられる。そうした環境で、セブン-イレブンに追いつくための事業の立て直し、あるいは体質転換を図るのが、完全子会社化のねらいとみていい。
セブン&アイは、巨額買収で米コンビニ市場を宝の山に変えることができるか。また、伊藤忠商事の完全子会社となったファミリーマートはチェーン全体を活性化できるか。コンビニの21年は、20年に起こったビッグイベントの成果が問われる年になりそうだ。