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流通M&Aの深層 #6 オータニ統合はアークス関東進出の狼煙か

アークス(北海道)の“南下作戦”がついに関東にも及んだ。11月、アークスは栃木県地盤の食品スーパーのオータニを完全子会社化すると発表した。これにより、アークスの単純合算の売上高(21年2月期予想)は約5800億円となり、現在業界4位のポジションにあるイオン(千葉県)傘下の食品スーパー企業、マックスバリュ西日本(広島県:21年2月期の予想営業収益5500億円)を上回る見通しだ。

食品スーパー企業4位に浮上!

 「八ヶ岳連峰経営」を標榜し、中堅・中小スーパーの自主性を重んじながら手を組むことで業容を拡大し、地盤とする北海道を飛び出し、ついに関東にまで歩を進めたアークス。北海道や東北と比べて肥沃なマーケットが広がる関東圏で、今後勢力を広げていくのか。アークスの次の一手から目が離せなくなってきた。

 今回のオータニ買収により、食品スーパー業界におけるアークスの順位は、最大手ライフコーポレーション(大阪府)、2位のユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(東京都:U.S.M.H)に次いで、3位のバローホールディングス(岐阜県)に次いで業界4位に浮上すると見られる。

 現在3位のポジションにあるバローホールディングス(岐阜県)については、食品スーパーが主力ではあるものの、ドラッグストアやホームセンターとなどを複合的に展開しており、食品スーパー事業の売上高は約3730億円(20年3月期)。食品スーパーとしての純粋な規模はアークスが3位となる見通しだ。

栃木のローカルスーパー、オータニ

 今回、アークス傘下に入るオータニとはどのような企業なのか。オータニは栃木県を地盤とし、31店を展開する中堅の食品スーパー企業だ。アークスとは21年3月をめどに経営統合をめざし、交渉に入るとしている。

 オータニが地盤とする栃木県内は、セブン&アイ・ホールディングス(東京都)傘下の“東北の雄”ことヨークベニマル(福島県)が約30店を展開しているうえ、同じく名門スーパーのヤオコー(埼玉県)も商勢圏を拡大中だ。さらにベイシア(群馬県)、トライアル(福岡県)など他県出身の企業も出店に乗り出している。東京に近い“未開の地”として大手チェーンが狙いを定めており、今後の競争は一段と激しくなるのは必至だ。

 アークスの横山清社長はかねて「情報システムが本格的に稼働したら『一緒に組みたい』という話をもらっているところが複数ある」と発言していた経緯がある。システムが本格稼働したことで、これまで水面下で進んでいた話が具現化したと見られ、オータニもそうした1社だったのだろう。

 「売上高500億円くらいまでなら、いろんなことに目配りができる。しかし、それ以上の規模になると、システムやら物流センターやら、単独で投資していくには負担が重くなるし、目配りも難しくなる」

 ある食品スーパー企業のトップの発言だ。投資の問題に加え、最近は世代交代の時期を迎えている食品スーパー企業も少なくない。オータニとしては、アークスという強い“円”の弧になって業界内で存在感を発揮していくことを選択した格好だろうか。

関東圏で“同志”は増えるか

 アークスは中央集権的な経営というよりも地方分権的な経営を志向しており、これまでもM&Aした相手先企業の自主性を重んじてきた。看板を替えたり、人材を派遣したりといった経営手法ではない。ある流通コンサルタントは「食品スーパーは地域色が強い。地域で好まれている生鮮の仕入れ先も熟知している。こうした良さを最大限生かすことができるのもアークスと組む魅力ではないか」と話す。

 実際、アークスではM&Aをした企業に人材を送り込んだり、仕入れを統合したりといったことを急がない。自主性を尊重しているからこそアークスという“円”がジワリと広がっているともいえる。

 すでにアークスは関東から離れた中部圏のバローホールディングスと、さらに中国圏のリテールパートナーズ(山口県)の2社と資本業務提携を結んでいる。今後はアークスが関東圏で“同志”を増やしてくかどうかが焦点となる。中小スーパーの経営者は決断の時を迎えている。