山梨県内を中心に食品スーパー(SM)やショッピングセンター(SC)を49店展開するオギノは、1990年代から生鮮加工におけるプロセスセンター(PC)活用、またフリークエント・ショッパーズ・プログラム(FSP)の研究を開始するなど、先進的にオペレーションの作業効率化とデータ分析による顧客への提案強化に取り組んできた。今後、消費のさらなる冷え込みが予測される今、同社はいかなる手を打っているのか。荻野寛二社長に聞いた。
巣ごもり期間の長期化で「しっかり手作り派」が増加
──新型コロナウイルス(コロナ)感染拡大の影響によりSM各社は総じて売上が伸びています。オギノの利用動向はいかがですか。
荻野 当社ではFSPで得た顧客データをもとに、買物傾向のクラスター分析を行っています。分類方法は複数あり、たとえば、顧客クラスターを「しっかり手作り派」「簡単手作り派」「簡便派」「即食派」の大きく4つに分類する方法などを用いています。
4~5月頃は、手間をかけないで調理を済ませる「簡単手作り派」のお客さまの構成比が高かったのですが、巣ごもり期間が長引くにつれ「しっかり手作り派」が増えているのが特徴です。一方で、レトルト食品や冷凍食品を多く利用される「簡便派」もコロナ禍で増加しました。
業績は、その他のSM企業同様に、とくに4~5月をピークにお客さまの買い上げ点数が増え、同期間の既存店売上高は対前年同期比110%と伸長しました。
3~9月間のカテゴリー別でみると、食品と住居関連品が同1 0 9 %、衣料が同85%、全体では同107%となりました。
──コロナ禍の影響は長期化し、価格競争はますます厳しくなると予想されます。
荻野 山梨県は観光業とその関連産業のほか、自動車関連などの製造業に従事している人が多いです。これらの産業が回復するに至っていませんから、財布の紐はさらに固くなるでしょう。安さと買いやすさはますます重要になると思います。
当社では、価格競争に対する準備は数年前から進めてきました。たとえば、加盟するシジシージャパン(東京都/堀内要助社長:以下、CGC)のプライベートブランド商品や、CGCグループのスケールメリットを生かして仕入れるナショナルブランド商品を、ベーシックなカテゴリーに必ず組み込み、価格訴求を図っています。
PC活用を推進する一方レジの自動化は進めない!
──低価格の実現にはローコスト運営が欠かせません。そうしたなかオギノはPCの導入に業界でもいち早く取り組んできました。
荻野 93年に生鮮PCを立ち上げて以降、店内作業を徐々にセンターへ移管してきました。
現在では繁盛店での一部の作業を除けば、精肉は100%センターから商品を供給しています。センター化が難しかった鮮魚も、鮮度が落ちにくい魚種を中心に全体の約7割をセンターで加工できるようになりました。これにより鮮魚部門は数年後に黒字化を達成できる見込みです。
近年需要が高まる総菜でもPCでの一次加工を進めています。ベーカリーでは取引先メーカーさんと数年にわたって研究してきた冷凍生地の活用を広げています。
近年、人件費はますます上昇しており、これを低減できるように当社ではPCの機械化にいっそう力を入れていきます。このように生産性を向上させるための具体策が打てるのはPCがあるからこそです。この存在は当社の競争優位性になると確信しています。
中長期的には、PCだけではなく物流センターを含めたサプライチェーン全体の合理化も進めたい考えです。
とくに、取引先メーカーと当社の物流センターをつなぐ部分の物流にはまだ無駄が非常に多いです。こうした後方物流のシステム化が整っていない企業は今後生き残りが難しくなると思います。
──後方機能で効率化を図る一方、お客さまとの接点には人手をかけています。
荻野 そうですね。当社では、セルフレジもセミセルフレジも導入していません。山梨県の人口は約80万人と少ないうえに減少傾向にあり、こうした環境下では一人ひとりのお客さまを大切にしていかなければ事業が成り立たないと考えているからです。お客さまの中にはお体が不自由な方や高齢の方もいるため、お手伝いが必要なときもあります。お客さまの利便性を担保しながら、合理化を進めていくのが当社の方針です。
──お客さまの利便性という点では、ネットスーパー事業も展開しています。
荻野 2012年からサービスを開始し、現在では3店舗に各5人(1日8時間換算)の専任担当者を配置し、そこから甲府盆地の半分ほどのエリアに商品を届けられる体制を構築しています。
コロナ禍ではとくに4~5月に売上高が同160%に増えました。しかし、オギノの商勢圏で宅配マーケットが飛躍的に伸びていくとは見ていません。県内の主要エリアであればクルマで15分圏内には当社の店舗がありますし、クルマ社会の山梨県では、ネットで注文するよりも来店して自分で買物をしたほうが便利という人が圧倒的に多いです。
当社のネットスーパーを継続的に利用していただいているのは高齢者が多いです。そのため注文を忘れないように全体の3割ほどの方にはこちらから定期的に電話で注文を聞いています。注文を待つのではなく、こちらからご連絡するのは、事前に確認することで業務スケジュールを効率的に組むためです。
最近では「ネットで注文した商品を店頭で受け取りたい」という要望もあり、実験を計画しています。新たなビジネスになるかではなく、いかにお客さまのライフラインとしての機能を充実できるかで導入を判断したいと思います。
衣料品の改革に手ごたえ県外への出店も進める
──現在オギノでは、衣料品専門店併設店を18店展開しています。近年、衣料品の扱いを見直す企業が増えていますが、今後の展開をどのようにお考えですか。
荻野 価格を抑えた実用的な衣料品はお客さまのニーズが十分にあると考えます。今後の新規出店でも、食品と衣料品をワンフロアに組み込んだ店舗を積極的に開発する方針です。なぜなら、衣料品を併設している店舗のほうが食品平均売上高が高く、来店動機の創出につながっていると考えるからです。
同時に改革も進めています。今年からプロジェクトを結成し、お客さまの新しいニーズに対応できるように商品構成と販売方法を見直しており、かたちができつつあります。それを踏襲して7月に改装した「双葉店」(山梨県甲斐市)での実験では成果が上がっていて、この成功事例を新たに3店に広げる予定です。
──今後の出店計画を教えてください。
荻野 今後も年間1~2店のペースで新規出店する方針です。21年2月期は新規出店がないのですが、来期の22年2月期には大型店の開業を計画しています。
出店エリアについては、山梨県内でも、まだ一部、店舗網が少ないエリアがあるのでまずはその空白地を埋めていきます。
同時に進めていきたいのが県外での出店です。ただしPCからクルマで数時間圏内がよいと考えています。それより離れると、商品を鮮度の高い状態で届けられる1日3便体制をとるのが難しくなるからです。
データ活用でSM側の固定観念を払拭する
──最近は、生鮮を含む食品を強化するドラッグストア(DgS)やディスカウントストア(DS)の攻勢もあり、業態を越えた戦いが激化しています。
荻野 実は当社の店舗では、近隣にDgSやDSの店舗がオープンしても、開店からしばらくするとお客さまが戻ってくる傾向にあります。
お客さまのニーズは非常に多様です。安い商品だけでなく、ハレの日向けや小容量サイズ、地域性を反映した商品も求められます。しかし、こうした細かいニーズへの対応には技術が必要で、DgSやDSには難しいのではないでしょうか。
FSP分析によるお客さまの購買行動に沿った提案も当社の強みです。お客さまは、野菜から肉、魚と部門を横断して買物をされます。他方、販売するSM側はその組織構造を背景に部門別意識が強いまま売場づくりをしている傾向があります。当社でも改善に5年以上かかりましたが、縦割りの意識を取り払うとお客さまの真の姿が見え、買いやすい売場をつくれるのです。
たとえば、山梨県内のウナギ専門店ではウナギに奈良漬けを添えます。そこで、土用の丑の日には当社でも奈良漬けを併売していました。しかしFSPのデータを見ると、実はお客さまは奈良漬けではなく、シジミや刺身、カットフルーツなどを同時購買する傾向にあることがわかりました。このように真にお客さまが求める商品の提案には、売る側が固定観念と部門の垣根を取り払うことが必要だと考えています。
オギノ 会社概要
本社 | 山梨県甲府市徳行1-2-18 |
資本金 | 5000万円 |
設立 | 1953年9月1日 |
年間売上高 | 742億円(2020年2月期) |
店舗数 | 49店舗(20年9月時点) |