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物流強化、データ活用、デジタル変革…変わる生協!コロナ特需を好機に“攻め”の投資

生協宅配大

宅配、店舗ともに再起!人手不足も解消傾向に

 新型コロナウイルス(コロナ)感染拡大による特需を受け、好業績に沸く食品小売業各社。そのなかでも好調ぶりが目立つのが、生協宅配だ。

 日本生活協同組合連合会(東京都:以下、日本生協連)によると、全国65の主要地域生協における供給高(小売業の商品売上高に相当)は、政府から学校への一斉休校要請があった2月末頃から大きく伸長。主力の宅配事業では、最も利用が増えた5月には対前年同月比23.2%増を記録し、4~8月累計では同18.6%増となった。もう1つの柱である店舗事業についても、4~8月累計で同10.2%増と大きく伸びている(図表)。

 コロナ禍以前の生協を振り返ると、宅配ニーズの高まりにより安定成長を続ける宅配事業が、出店競争の激化で不振にあえぐ店舗事業を補う事業構造が続いていた。宅配事業供給高は2019年度には同1.2%増の1兆8340億円まで拡大し、国内食品宅配市場の約6割を占める(矢野経済研究所調べ)。しかし直近では、社会問題にもなった配送員の人手不足が深刻化し、宅配事業さえも対前年同月比を割る月が増え、生協の成長に黄色信号が灯っている状態だった。

 そんな最中、図らずもコロナ特需が発生し、生協の宅配、店舗事業はともに一気に息を吹き返したのである。

 さらに近年の悩みの種となっていた配送現場の人手不足も解消傾向にある。『ダイヤモンド・チェーンストア』誌では全国の地域生協にアンケート調査を実施したところ、6割以上の生協が配送現場の人手不足が「改善している」と回答した(62~64ページ)。コロナ禍での不況により、求職者が増えて生協での職員採用が進んだこと、また離職者も減っていることが要因だという。

 近年、生協では配送現場の人手不足により、その欠員補充が必要とされ、それゆえ新規組合員獲得の活動に人員が割けなくなり、そのことが宅配事業低迷の要因の1つになっていた。しかしこの課題もコロナ禍によって払拭されつつあるといえる。

利用金額、継続年数、購入内訳いずれも生協宅配が圧勝!

 しかし、コロナ禍で成長したのは生協宅配だけではない。感染防止の観点から利便性が見直され、生協と直接競合すると思われる生鮮宅配やネットスーパーが勢力を拡大している。

 たとえば、小売大手のネットスーパーの20年度第2四半期売上高を見ると、イトーヨーカ堂(東京都)は同1.5倍に、イオンリテール(千葉県)は同1.2倍に伸長。また、ライフコーポレーション(大阪府)がアマゾンジャパン(東京都)の有料会員向けサービス「Prime Now(プライムナウ)」に出店し展開する生鮮宅配については今年7月、事業エリアを東京都から大阪府にも広げた。このように各社が一気に拡大する気運にある。

 それでは、生協宅配はその他競合と同じ立ち位置にあるのだろうか。そのことを確かめるため、本誌では、流通小売業界向けコンサルティング事業を展開するソフトブレーン・フィールド(東京都)の協力を得て、食材宅配とネットスーパーの満足度・利用動向調査を実施した(65ページ)。すると、「利用金額」や「利用継続年数」などの点で生協が群を抜いて支持が高いことがわかった。

 さらに購入内訳を見ても、その他のサービスが米や水など店舗では重たくて買物の負担となる商品が中心であるのに対し、生協は生鮮や日配、加工食品まで買われ、日常に必要なものを買い揃える買物ツールになっていることが明らかになった。

 つまり、他のネットスーパーや生鮮宅配と比べ、生協宅配の強さが際立っていることがわかったのだ。

 また、コロナ禍では、特異ともいえる生協の配送モデルも強みとなった。

 生協は週に1回の定期配送で、基本的に同じ配送担当者が商品を届ける。そのため毎週の仕入れや配送を計画的に行えることから、廃棄ロス低減や配送の効率化、組合員との顔の見える関係構築が図れる。

 この体制のもと、今回需要が集中し物流・配送のキャパシティを超えた際には、生協側は配送件数の多い曜日から少ない曜日に物量を調整するなどの対策をとり、組合員も配送日の変更などに対し協力的な姿勢を示す姿が取材を通じて窺えた。こうした対応は、競合他社に多い単発利用による即時配送モデルではなかなか難しいだろう。

デジタル活用を進める全国的なプロジェクトが稼働

 では、勢いづいた生協陣営はいかに次の手を打とうとしているのか。

 まずは宅配事業の物流体制強化だ。これにより主力の宅配事業で配送可能件数を増やしさらなる成長を図る。

 たとえば、競争の激しい首都圏を事業エリアとするコープデリ連合会(埼玉県)は、今年3月には東京都大田区に、5月には同荒川区に最新の物流センターを稼働した。これにより肥沃なマーケットが広がる東京23区内でのさらなる需要奪取を図る。同じく生活クラブ東京(東京都)も東京23区内への侵攻を強めるべく物流投資を進める方針を明らかにしている。

 食品から日用雑貨まで多いところで約2万品目を扱う生協では、物流センターでの商品の集荷・ピッキング(仕分け)作業が物流効率化のカギとなる。たとえばコープさっぽろ(北海道)ではAIを活用した自動ピッキングシステムを18年に導入し飛躍的な仕分け作業の省力化・効率化に成功している。このように最新技術を生かして物流センターの効率化を図る動きも広がっていきそうだ。

 次に、デジタル活用の推進だ。象徴的な動きとして今年4月、日本生協連主導のもと、全国の地域生協のデジタル・トランスフォーメーション(DX)を推進するプロジェクト「DXコーププロジェクト」が稼働した。

 これまで生協陣営は全般的にデジタル活用が遅れているといわれてきた。しかし、外部の専門家やスタートアップ企業の協力も得ながらいよいよ本腰を入れて取り組む姿勢だ。

 なかでも注目されるのが、スマホアプリをはじめネットを活用した決済手段や注文方法の進化だ。すでに先進的な事例も見られ、たとえばみやぎ生協・コープふくしま(宮城県)では、19年8月に独自のスマホ決済アプリ「CooPay(コープペイ)」を開発しており、この導入効果も後押しして現在、供給高に占めるキャッシュレス比率は5割を超えている。

 そうした先に生協が見据えるのが顧客データの活用だ。生協は新規加入時に口座登録を必要とすることなどから、多くの顧客データを有する。しかしその活用はあまり進んでおらず、多くの生協では宅配事業と店舗事業のデータの相互連携も行えていないのが実情だ。こうしたなかデータ連携や活用がDXにより進めば、組合員の特性に応じた提案力向上が可能になるだろう。

即時配送への挑戦や異業種との連携も!

 もう1つ生協が進めるのが、近年の重点課題としてきた若い組合員の獲得だ。

 前出のアンケート結果では、コロナ禍で最も利用が増えた組合員の年代は「30~40代」という回答だったが、同時に年齢の高い層も増えているため「組合員の高齢化」という構造は変わっていない。

 近年はオイシックス・ラ・大地(東京都)のように有機野菜やミールキットなどの品揃えで若い世代の支持を得るプレーヤーも台頭しており、着実に存在するこの需要をいかに取り込んでいくかが、生協の今後の伸びしろといえそうだ。

 そうしたなか若い世代の獲得に成功しているのが九州エリア最大の供給高を誇るエフコープ(福岡県)だ。同生協は若い世代にとって身近なツールであるSNSを活用した宣伝に注力し、組合員の高齢化に歯止めをかけている。今後は、エフコープの魅力を発信してくれる「アンバサダー」を子育て世代のなかから起用し、各アンバサダーのSNS「Instagram」を通じた情報発信にも挑戦する計画だ。

 そのほか、最近はこれまでの生協にはなかった動きも見られる。

 たとえばコープデリ連合会は、18年より注文から最短3日後の指定日に商品を配送する新たな配送モデルのサービスを東京都の一部エリアで実験的に行っている。

 また、コープさっぽろは19年12月にドラッグストアを展開するサツドラホールディングス(北海道)と包括業務提携契約を締結したほか、今後は道内の流通企業複数社で共同仕入れ機構も設立する考えで、異業種を含めて北海道内の流通企業と積極的に連携することで競争力向上を図っている。

 このようにコロナ特需で成長の原資を得た生協陣営が、宅配ニーズの高まりも追い風に競争力向上に向けた動きを加速させている。

 日本生協連の嶋田裕之代表理事専務は「コロナ禍による食品宅配の競争激化は生協にとって、“聖域”のない抜本的な改革を進める契機になる」と言及している。

 この言葉どおり、データ活用や若年層の獲得など実はさまざまな成長余地を残している生協がここで一気に改革を図れば、食品宅配市場での存在感はさらに高まるはずだ。今後の食品宅配市場をとらえるには、こうした生協陣営の動きをしっかり押さえておく必要があるだろう。

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