店頭の取扱い商品では群を抜くスーパー、成城石井。「スーパー冬の時代」と言われる中でも、この10年で店舗数は3倍。年商は2倍にまでなった。この成長を支えるのが品揃えを担うバイヤー、そして商品開発担当者だ。人気商品の買い付け、開発にはどんな経緯があったのか。上阪徹氏の「世界の果てまで、買い付けに。」からその一部を全3回にわたって紹介する。1回目は同社のリパック商品の先駆け「ナポリタンチョコレート」。
個包装されたチョコレートを大容量で仕入れ、リパック
成城石井のチョコレートの人気商品に「ナポリタンチョコレート」がある。シンプルで味わい深いダークとミルクの2種類のソリッドチョコレートがパッケージされた商品だ。チョコレートは、北イタリアの老舗チョコレートメーカーの製品である。
もしかしたら一度でも購入した人は、こんなふうに思われているかもしれない。そういえば、同じ商品を他のスーパーで見たことがないな、と。成城石井はチョコが包装された中身を直輸入し、自分たちでパッケージして出しているのだ。
話を聞いたのは、1999年に入社、成城店、ルミネ大宮店、アトレ恵比寿店で加工食品を担当し、バイヤーを経て今は商品本部長代行の立場と、成城石井の貿易を手がける東京ヨーロッパ貿易の社長も務める濱田智之だ。
「イタリアから直輸入したチョコレートは、1キロ、2キロという、ちょっと日本のお客さまだとなかなか消費できないくらいの量だったんです。日本のお客さまは、どちらかというと少量で、いろんな商品を召し上がりたいという方が多い。そこで、日本でお客さまがお求めになりやすい容量にリパック(小分けにして詰め直す)をして提供しているんです」
成城石井では今、単に海外から商品を直輸入するだけではなく、バルクと呼んでいる原料を大容量で輸入し、日本で成城石井の独自の商品に仕立てあげるという動きが積極的に行われている。
実は成城石井 ナポリタンチョコレートは、リパックの第一弾ともいえる商品だったのだ。濱田が菓子のバイヤーになって1年目、2011年のことだった。
「20年近く前までは、一般的な小売業の海外輸入は、商社を通じてというのが普通でした。そんな中で、成城石井は東京ヨーロッパ貿易という会社を作り、直接輸入する機能を持っていたこともあって、他社との差別化を図ることができていたんです。それこそ海外に珍しいものがあって、それを買ってきて並べるだけでも、成城石井にはこんなものがあるのか、とお客さまに驚いて来ていただくことができたんです」
しかし、グローバル化が進み、小売りの会社が個社でいろんな製品を輸入することができるようになった。同じような製品が店頭に並べられるようになったのだ。
「このままでは、お客さまの期待値を超えることができない。そこで考えたのが、原材料を輸入して、成城石井独自の付加価値のあるものを自分たちで生み出すことだったんです」
しかも成城石井には、小売りの機能だけがあるわけでなかった。自家製の総菜やデザートなどを作っているセントラルキッチンというメーカー的な機能もあった。近年では、ル バーラ ヴァン サンカンドゥなどの外食事業もある。原料を買ってきても、いろんな場で活用できるのだ。
「また、セントラルキッチンには優秀な経験のある料理人がいますので、そこで新しいものも生み出せる。原料を自分たちで調理することで付加価値を生み出し、差別化できるものをお客さまに提供できるという流れができているんです」
だが、魅力的な製品を見つけるのも大変だが、原料を見つけるのも大変だ。
展示会に滞在できる時間は変わらない。その中で、製品ばかりでなく、原料にも目を光らせないといけないのだ。だから、成城石井のバイヤーたちは、展示会場を飛び回るのである。
「私が初めて行った海外の展示会はフランスのパリの展示会でした。その頃は、フランス、ドイツなどヨーロッパからの輸入が中心でしたが、最近ではアジア圏でタイに行ったり、中南米でメキシコに行ったり、中東のドバイに行くこともあります。展示会も視野が広がっているんです」
アジアや中南米には、ドライフルーツやスナック、冷凍野菜やピューレなどが充実しているという。
「南米のフルーツは糖度が高くて甘いんですよね。ブロッコリーのような野菜もヨーロッパに比べるとしっかりしているので、レンジで温めるようなお惣菜に使ったときにも、食感が残ります。同じブロッコリーでも、産地によってまったく違ってくるんです」
そんな原料、バルク輸入の初仕事がこの成城石井 ナポリタンチョコレートだったのである。