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ウィズコロナ時代のショッピングセンター経営6 ニューノーマルとは損益構造を見直すことである

ウィズコロナ時代のショッピングセンター(SC)経営第6回は、SCの「ニューノーマル(新常態)」について考える。現在多くのSCが行っているのはあくまでも対処療法、本当の意味でのニューノーマルにおけるSC像を解説していきたい。

いま求められる、ニューノーマル

 緊急事態宣言終了後、営業を再開したSCでは、営業時間の短縮、こまめな清掃、手指の消毒、検温、ソーシャルディスタンス、入店者数の制限などによって接触感染、飛沫感染、媒介物感染、空気感染を回避することをニューノーマル(新常態)として取り組んでいる。

 しかし、これらはSCの運営管理上の緊急避難的な措置であり、本当のニューノーマルでは無い。ニューノーマルとはもっと奥深いところにある。それはSC経営の根幹を揺るがしかねないものに発展していく可能性を持っている。 

 4月の緊急事態宣言時、突然の休業要請や給付金やアベノマスクの遅れ、一部による危機意識の扇動によって社会が混乱したが、ここへ来て皆が冷静に今後の見通しについて考え始めている。

 飲食店はこのまま賃料を払い営業を続けるのか、アパレルはこの秋冬と春夏の発注をどうするのか、皆、逡巡している。

 この先、これまでのような売上と利益が戻り赤字から脱せられるのか、全く予想がつかない。

 当然、赤字継続が予測されれば事業縮小や撤退を考える。これが今の相次ぐアパレルのブランド閉鎖である。

 

枯渇する内部留保

Alexander Shelegov / istock

 45月の休業はそれまでの貯金や内部留保によって何とか持ちこたえた。しかし、今後も収益の低下が続けば当然資金ショートも起こる。

 だから、休業した上期より下期以降の方がよほど企業にとって厳しい状況となるのだ。

 この混乱の中、多くのプロジェクトは止まり、予定していた新築工事もリニューアルもペンディングとなり、凍結や後ろ倒しを決めた企業も多い。

 この止まっていたツケがこの下半期から来年にかけて表面化する。これは建設工事だけでなく、コンサルや市場調査などあらゆる分野に渡る。

 鉄道や不動産などの基幹産業までが乗客の減少やオフィスの解約や減坪、賃料減額要請によって新たな投資実行が難しくなるのは当然である。

 この上半期のSCの経営状態は、休業期間に応じてテナントの賃料を減額または免除したことから大きく収入が落ち、減収減益、場合によっては赤字となった企業は多い。

 SCは不動産業であり、店舗が休業となっても建物の保全のため防犯防災のコストやメンテナンスや保有税などの固定費は減らないし、なくならない。

 したがって固定費を上回る収入の減少があればその分赤字になるのだ。

 

 前号で「小売・レクリエーション」施設における人の動きが停滞したままであることを解説した。

 郊外や地方では売上が戻りつつあるが、東京や大阪のような都市部では出張族の減少、インバウンド客の消滅、在宅ワークによる通勤客の減少、帰宅を急ぐ会社員などから人の数は大きくダウンし、今後、小売の落ち込みが戻るまでには相当の期間を要すると思われる。

 確かに海外での感染拡大を見ると当分の間、グローバルな動きは戻りそうにも無い。実はこれがニューノーマル(新常態)の基礎になるのだ。

ニューノーマルとは損益構造の見直しのことである

 昨年の日本は3,000万人を超えるインバウンド客、都市再生特区・国家戦略特区による大規模プロジェクト、アベノミクスによる株式市場の活況、オリンピック、万博、リニア、カジノなど大規模プロジェクトによって浮かれていた。しかし、今はどうだろう。この先、不安しか抱えていないのではないか。

 先行き不透明感は、残念ながらまだまだ終息することはできず、これまでのような収益を確保することは簡単には望めない。

 したがって今後は、収入が低下しても利益が残る費用構造とすることが求められる。これが本当のニューノーマル(新常態)なのだ。

 ソーシャルディスタンスがニューノーマルなのでは無い。ニューノーマルとは、これからの経済規模、市場規模、企業収益の減少を所与のものとしてビジネスを組み立てることにある。雇用を守るためには人件費にも手を付けないといけないだろう。

 今後、日本では、人口が減少し、ECが伸長し、温暖化と自然災害によってSCの売上は間違いなく減少する。それに加えての今回のコロナ禍だ。

 当然、これまでの売上高、賃料収入は低下し、その低下を前提にしたコスト構造が必要となるのは自明である。

 このコスト構造こそがSC経営のニューノーマルであって店頭での手指の消毒で済む話では無い。

 また、減少する収入をカバーする収入源、言わば第23の賃料をSC経営は模索していくことになる。

 これがSC経営におけるニューノーマルなのだ。

 SC運営において、今は対処療法的なニューノーマルに取り組んでいる。しかし、その一方で本当の新常態を考えることが今後は求められていくことになるだろう

 

西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役

東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員、渋谷109鹿児島など新規開発を担当。2015年11月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒、1961年生まれ。