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好業績スーパーが価格強化に向かう必然? 忍び寄る不況の影

5月に第1四半期を終えた食品スーパー各社の業績は、空前の好決算と言って差し支えないほどの数値が並びました。売上もさることながら、営業利益は前年比で2倍、3倍、5倍、6倍。期末予想の7割以上を稼いでしまったケースもあるくらいです。食品スーパーが利益を稼ぐのは上期なら8月、下期なら12月が勝負どころで、そもそも第1四半期は利益貢献が高い時期ではないはずが、まさに盆と正月がいっぺんに来たような・・・、もとい、やって来たのはコロナ禍ですね。あまりにも特殊な要因でした。
 次にやって来るのは、この間に経済活動が停滞したことによる不況であると覚悟し、食品スーパーでは6月から価格政策を強化する動きが顕著です。7月に入り、その見立ての正しさを証明するような統計も発表されました。厚生労働省の「毎月勤労統計調査」5月速報値によると、現金給与総額は前年同月比2.1%減となりました。食品スーパー経営者は、約5年ぶりというこの統計の下落幅に、忍び寄る不況の影をはっきり見て取ったはずです。

現金給与総額と「スーパーの月次」に相関関係?

 現金給与総額とは、時間外労働への手当なども含む給与の総額を意味します。サラリーマンやパート雇用者のおおよその月収を示したものと考えれば、いかにも食品スーパーが関わる日々の食費に影響を及ぼしそうです。数ある統計値の中で、「食品スーパーの月次動向との相関関係が最もある」と語る経営者もいるほどですが、実際のところはどうなんでしょうか?

グラフ1 現金給与総額とスーパー食品売上2019年月次動向の比較

 グラフ1は、2019年の現金給与総額の月次動向と、食品スーパー業界の3団体が発表する食品売上の前年比とを比べたものです。折れ線グラフが給与総額、棒グラフが食品スーパーの売上です。

 振り返ると、昨年は食品スーパーの月次動向が悪かったことが思い出されます。7月の落ち込みは、冷夏というか長梅雨によるものでした。それ以外の月も、前年をクリアしたのは11月だけでした。一方、現金給与総額が前年をクリアした月は、前年並みを含めて4回、それもコンマわずかでした。2つの統計値に相関関係は・・・、あるといえば、あるような。全体的に低調で、微妙ですね。

グラフ2 現金給与総額とスーパー食品売上年次動向の比較

 それでは、2つの統計を年次で比べてみましょう。2013〜19年の7年間を比較したのがグラフ2です。折れ線が給与総額、棒グラフが食品スーパーの食品売上です。

 給与総額が前年を割った13年と19年は、食品スーパーもきっちり前年を割っています。17年は給与総額が上がったのに、食品売上は落ちています。ただ、その他の4年はどちらもプラスでした。7年中6年で正負は一致しましたが、給与総額が上がるほど食品スーパーの売上が伸びるというものではなく、下がった場合も同様です。これを相関関係があると言えるのか、正確なところは分かりませんが、まるでないとも言えないでしょう。むしろ、そこそこありそうです。

 そうしたわけで、現金給与総額5月の速報値2.1%減は、食品スーパー業界にとっては衝撃の数値と思われます。グラフ中の月次を見ても年次を見ても、近年、現金給与総額が正にも負にも、これほど大きくブレたことはありません。

6月から価格強化に転じたスーパー各社

写真はイメージ、本文とは関係ありません

 この統計が出る前、6月初頭には多くの食品スーパーが価格強化策に踏み切りました。食品スーパーは好調でしたが、それ以上にディスカウントストアが集客力を高めていると察知したことが背景にあるようです。

 たとえばダイエーですが、「安い値!」マークで打ち出していた一定期間のエブリデー・ロープライス(EDLP)商品を従来の1.3倍・200品目に拡大しました。加工食品の値段を下げるだけでなく、総菜では丼物の中心価格帯を修正、本体価格298円のカツ丼や天丼などを前面に打ち出すようになりました。

 ヤオコーも6月に入り、「厳選100品」のマークで月替りの特売品を選定するようになりました。7月に入ると店頭掲示や自社アプリを通じて「いつ来ても安いに挑戦します!」との宣言を「お客さまへのお約束」と題して行いました。「豊かで楽しい食生活」を掲げた提案型食品スーパーの従来路線にプラスする「次なるステップ」との位置付けです。

 食品スーパー各社の第1四半期(20年3~5月期)は、特殊な状況下でハードワークが続き、結果として大変な好業績になりました。とはいえこれから先の見通しは不透明で、多くのチェーンが次の変化を見越して機敏な対応を見せています。コロナ禍で不確定要素は多いわけですが、不況からくる節約志向の高まりだけは、ほぼ確実に起こりうる未来と覚悟し、備えを進めています。