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コロナ禍を「ひっくり返そう」 百貨店 中元ギフトの反転攻勢

百貨店のそごう・西武がコーポレートメッセージとして使用する「わたしは、私。」、2020年版はイメージキャラクターに大相撲の小兵力士・炎鵬関を起用し、「さ、ひっくり返そう。」とうたいます。そのムービーでは、炎鵬の姿にナレーションを重ねて、「大逆転は、起こりうる。/わたしは、その言葉を信じない。/どうせ奇跡なんて起こらない。」と、ややネガティブに始まります。2020年元旦に合わせて発表された「さ、ひっくり返そう。」ムービー、まるで今年の百貨店業界の予言です。

そごう・西武「わたしは、私。」の特設サイトより

5%減じゃなく95%減 ひっくり返った月次動向

 新型コロナウイルスの感染拡大で、百貨店の営業は著しく制限されました。2月、3月と深刻さは増していき、緊急事態宣言が発令された4月は、業界の全店ベースで71.5%減(経済産業省 商業動態統計)になりました。

 5月に入っても底打ちとはならず、売上全国1位の伊勢丹新宿本店の5月度は88%減です。海外旅行客も多い東京・銀座の百貨店はなお壮絶で、松屋銀座店は91.3%減、三越銀座店は95.4%減・・・。ちなみに昨年5月の伊勢丹新宿本店は1.2%減、松屋と三越の銀座店は共に1.6%増でした。百貨店の月次動向は新型コロナで、まさに「ひっくり返って」しまいました。

 営業の再開後も、感染予防対策で店内の混雑を避けなければならない状況が続きます。遠出は控えるべきという状況も、百貨店のような広域型の業態には苦しいところです。営業時間は短縮、さまざまなイベントは中止、まして銀座のような商圏にインバウンド消費はいつになったら戻るのでしょうか、見当も付きません。

 先に挙げた炎鵬ムービーのナレーションは続きます。

「わたしはただ、為す術もなく押し込まれる。/土俵際、もはや絶体絶命。」

 照明は暗転し、炎鵬はガックリとうなだれます。そこへ「さ、ひっくり返そう。」の字幕。映像とナレーションが巻き戻されていくのです。BGMも逆回転らしいです。

行動変容への対応に商機

「すごもり応援」を掲げる西武池袋本店の中元ギフトセンター

 緊急事態宣言に伴う休業後、百貨店が迎えた最初の催事が中元ギフトです。とはいえ、困難な状況にあることに変わりはありません。そもそも中元・歳暮のギフト市場は漸減が続いています。店頭のギフトセンターの開設時期は、ほとんどの店で前年より遅れました。この中元期の販売計画は、スタート時点で未定とする企業も多く、予測が立ちづらいのが現状です。

 それでも商機がないわけではありません。遠出のレジャーは難しく、夏休みの帰省もこれまで通りにはいきそうもない中で、ギフトの贈答はコミュニケーションのきっかけになるはずです。ネットを介したリモート交流の食卓に、見栄えのするギフト商品があるのもいいかもしれません。生活者の日常はいつもより窮屈で、非日常を楽しむことはこれまでよりも困難です。ギフトは、日常の生活に届く少し非日常的なモノですから、贈られる側だけでなく、ギフトを選ぶ時間さえも目下の日常を忘れられる楽しみがありそうです。

 各社、中元テーマの軸は「巣ごもり」です。伝統的な贈答用途だけでなく、ギフト市場では成長分野である自家消費や備蓄需要に対応する、巣ごもりの日常に楽しさや驚きをもたらそうという提案が並びました。

 そごう・西武は、テーマ食材を1つ選定して前面に打ち出すのが中元・歳暮のスタイルでしたが、今回は「すごもり応援」にメーンテーマを切り替えました。オンラインの受注は、5月時点で前年比4割増のスタートを切ったそうです。6月4日に開設した西武池袋本店の初日売上は1割増、LINEを使った整理券システムを導入するなど、混雑緩和策を徹底した上での成果です。

 中元ギフトは、百貨店にとって反転攻勢の最初の一歩です。以前にも増してオンラインが重要なことはもちろん、店頭と組み合わせて催事をどのように盛り上げていくか、今後の催事展開も見据えた試金石になるはずです。

 巻き返された炎鵬ムービーは、冒頭のナレーションに戻ります。もちろん順番が変わります。

「どうせ奇跡なんて起こらない。/わたしは、その言葉を信じない。/大逆転は、起こりうる。」

 なにせ2020年は、これから折り返しです。

 

※「わたしは、私。」特設サイトへのリンクはこちらです。(https://www.sogo-seibu.jp/watashiwa-watashi/