ミールキットを中心とする食品宅配事業を主力とするオイシックス・ラ・大地(東京都/髙島宏平社長)は5月28日、オンラインで2020年3月期の決算説明会を実施した。今期の売上高は前期から2ケタ伸長、主要ブランド「Oisix」の会員が約4万人増加するなど好調を示した同社。会見では業績のほか、新型コロナウイルス(以下、コロナ)による事業への影響や21年3月期の取り組みについても明らかになった。
主要ブランド「Oisix」会員数約4万人増
オイシックス・ラ・大地の20年3月期の売上高は710億4000万円(対前期比11.0%増)、営業利益は24億6700万円(同6.7%増)、EBITDA(営業利益、減価償却費、のれん償却額の合計)は35億9500万円(同14.0%増)、当期純利益は7億9000万円(同66.9%減)となった。
増収の主な原因は、主要ブランド「Oisix」の売上高が同21%増と大幅に伸長したことだ。同ブランドの会員数は前期末と比較して約4万人増加。加えて、第4四半期はコロナの影響で“巣ごもり需要”が増加したことにより、ARPU(Average Revenue Per User:1人当たり月単価)も上昇した。この売上増にともない、営業利益・EBITDAも伸長している。なお、当期純利益の大幅減は、19年3月期のらでぃっしゅぼーや統合による法人税軽減効果が剥落したことなどが主な原因だ。
外食チェーンの商品をウェブで販売
オイシックス・ラ・大地は、コロナの感染拡大による事業環境や消費者のニーズの変化に対応し、さまざまな取り組みを実施している。全国的な休校措置による給食の停止で食品ロスが問題となった際には、支援策として余った牛乳計12万リットルを販売。ウェブサイトには牛乳を使ったレシピを掲載した。また、休校中の子供が調理を学べるウェブサイト「家庭で家庭科」を開設するなど、コンテンツの充実にも取り組んだ。
コロナ禍で拡大している“巣ごもり需要”に対しては、新企画として「おこもりごはん」を開始。家庭で楽しめる商品を紹介している。味噌を手づくりできる「味噌作りKit Oisix」は対前年比120%増、缶詰などのストック商品は同130%超で売上が伸長しているという。
そのほか、外出自粛により需要が大きく減退した外食企業を支援するため、「おうちレストラン」を開始。「塚田農場」や「串カツ田中」などの外食チェーンの商品をOisixの特設サイト内で販売し始めた。同サービスは当初は期間限定の予定だったが、好評を博したことから常設化を決定した。
コロナ禍で中核事業のミールキットは大幅な売上増となっているが、懸念事項もある。需要の高まりに出荷キャパシティが追いつかず、Oisixに関しては3月26日~4月29日の約1カ月間新規会員登録の受付を停止し(4月30日より段階的に再開)、問い合わせた人に対しては代わりに大地を守る会、らでぃっしゅぼーやへの会員登録を促した。このためOisixの新規会員獲得のためのPR費は未消化となり、利益が上積みされた一方で、将来的な売上を逸失してしまった。
また、関連会社のウェルカム(東京都/横川正紀社長)が展開している、味や品質にこだわった食のセレクトショップ「DEAN&DELUCA」については、コロナによる臨時休業により売上が減少した結果、のれん減損損失約3億円を計上している。
海老名に新物流ステーションを開設
21年3月期の事業計画ではコロナの影響を踏まえ、3つの施策を打ち出す。1つめは、食品の宅配需要増に対応するための安定的な出荷体制の構築だ。現在、主力ブランドであるOisixの物流は神奈川県海老名市にある「海老名ステーション」が担っているが、21年9月には同市内に新たな物流ステーションを開設する計画となっている。新施設の出荷キャパシティは従来の約3倍となる予定だ。
それに先駆け、今期はすでに神奈川県藤沢市に「サクッと!Oisix」専用のサテライトセンターを開設した。同サービスは4月末から開始されており、「選ぶのに時間がかかる」という顧客の声を受け、Oisixの人気商品を厳選し、より短い時間で買物・調理を済ませられるように考案されたものだ。
また、らでぃっしゅぼーや専用の「座間ステーション」の一部を利用してOisixの「お試しセット」の出荷に活用している。20年秋にはさらにサテライトセンターを増設し、新海老名ステーション開設までのキャパシティを補完する考えだ。
2つめは、コロナによる食のニーズ変化に対応した成長戦略の実施だ。Oisixでは前述した「サクッと!Oisix」のほか、健康・免疫志向の高まりに対応した「時々ヴィーガンコース」、家族での食事機会が増えたことによる3~4人前メニューの拡充など、さまざまな施策を打ち出す。
3つめは、収益性強化施策の実行だ。ヤマト運輸との協業で行う「ベジネコプロジェクト」では、生産者からの集荷を同社に集約し、調達物流費を削減する。20年3月期第4四半期から長崎県で本格稼働しており、21年3月期第2四半期までには九州全土での運用を開始する予定だ。また、豚肉の加工や青果物のリパック作業などを内製化し、食のSPA化によるコスト削減も図る。このうち豚肉の加工については、現状30%の内製化率を今期中に約70%まで高める考えだ。
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21年3月期、オイシックス・ラ・大地は売上高710億円(同10%増)、営業利益30億円(同22%増)、EBITDA44億円(同22%増)、当期純利益12億円(同52%増)をめざす。コロナ禍での食品宅配の需要急増は同社にとって追い風となっているものの、物流キャパシティの拡充などの課題も抱えている。コロナを契機にさらなる成長を果たすことができるか、その手腕に注目が集まる。