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崩壊へ進むアパレル業界を救う最後の戦略提言、合従連衡によるマルチプラットフォーム戦略とは

危機的状況にあるアパレル。アフターコロナの様変わりする時代を生き抜くための戦略が、マルチプラットフォーム戦略だ。今回、なぜこの戦略が必要なのか、そしてこの戦略の全貌を、前編後編の2回に分けて解説したい。

Cindy Bissig / iStock

アパレル業界2万社の半数が、破綻寸前!?

 前回、レナウンの破綻について、私は以下のように推論を展開した。これはコロナのせいでなく、(失礼な言い方だが)同社は既に死に体だったということ。それは、金融の論理からいえば、「経営を更迭しても古いビジネスモデルは変わらなかった。これ以上営業活動をしても事業毀損が進むだけで、その資産価値を目減りさせるよりは、いま潰してしまった方が傷は浅い」と判断したのではないか、と。

 なぜ私がこうした視点を持つに至ったかといえば、私自身がアパレル企業のデューデリジェンス(企業価値算定)を、恐らく日本で最も多くやってきた人間の一人だからだ。もちろん親会社である山東如意がM&A(合併・買収)を節操なく繰り返して経営が悪化し、子会社救済どころでなくなったという事情もあっただろう。日本でも、信じられないほどのM&Aを乱発し、大きな赤字をだした企業があったことは記憶に新しい。
 コロナとは全く関係なく、レナウン破綻のカウントダウンが始まっていたのだ。

 話はここで終わらない。大事なことは、これはレナウンに限った話ではないということだ。日本のアパレル企業は約2万社ある。概算だが、2万社の半数近くが、金融機関の過剰融資によって、なんとか生きながらえている状況だと、私は考えている政府による企業救済の政策も実態を知らない“焼け石に水”に過ぎず、アパレル業界では年商100億円の企業でさえ毎月2~3億円というキャッシュが溶けている状況だ。金融機関や親会社が「潰した方が傷は浅い」と考えるのも当然の状況だ。

 そんなアパレル企業を救済しようと思えば天文学的な金額になる。さらに外食産業をはじめ主だった産業を救済するとなれば円の価値は急落し、物価は上昇していく。その結果、外資企業による企業買収がますます加速することになるだろう。要は、アパレル企業には、もはや破滅の道しかないのである。

 そうした中、私はアパレル業界、いや日本経済を救うために、感染者を黒、非感染者を白、どちらか分からない人をグレーに分類した上で、問題となる「グレー」の人が白か黒かを「見える化」する戦略を提唱した。そのために「コロナ潜伏期間は2週間だから、国民に1ヶ月限定で動きを止めよ、そうすれば1ヶ月で問題が解決できる。国家破綻の危機が迫っているのだから超法規的措置をとり可及的速やかに実行すべきだ」と説明した。

 しかし、「民主主義国家でそんなことはできない」「できないことを言うな」といわれ、NewsPicksでは、「こんな低レベルのアナリストがいるからアパレル業界はダメなのだ」と散々にこきおろされた。

 しかし、今になって企業倒産と解雇が増え、私が予想した通り、「経済損失60兆円」か「50万人が死ぬ」、のいずれかの道を進んでいる。それにもかかわらず昨夜(本稿執筆は530日)の「朝まで生テレビ」では、田原総一郎氏が「(外出禁止令などの発令は)戦時中に戻るから反対だ」という。結構である。そこまでの信念に裏打ちされた発言ならば「グレーの人」に街を自由に歩いてもらえば良い。私も日本国民として心中しよう。

 だが、私に対して向けられた批判には、そこまでの信念は感じられず、むしろ「そこまでの思慮はない」と感じている。ようは、今は匿名による発言が自由になったため日本人総評論家時代になったのだ。いずれ第二波が来るのは明白だ。

 

アパレル業界から逃げ出したデジタルベンダーたち

デジタルベンダーがアパレル業界から逃げ出しているという(写真はイメージ)

 アナリスト達やメディア達の「さあ、頑張って乗り切ろう」、「サステナブル経営だ」、「スポーツが流行る」、「今こそお客さまをみよ」などという“かけ声”を見聞きするたび、むしろ、「さあ、本土決戦だ」と国民を鼓舞した戦時中と全く変わらない状況なのではないかと思ってしまう。

 「ソーシャルディスタンス」や「新しい生活様式」なども、グレーの人」を民主主義の名のもとに野外放置したまま、コロナウイルスをばら撒かせていることを、なぜ善良なルールを守っている市民に対応を押しつけるのかが分からない。また、毎日のようにテレビで「今日は何人感染しました」とグレーの人を自由に歩き回らせている結果増加する感染者の数を見ていると、「これは漫才か」と思うほど情けなくなってくる。った1ヶ月の超法規的措置が、それほど危険かつファシズムの始まりだというなら、「理念のためなら座して潔く切腹せよ」といっているのと変わらないではないか。私は、私を批判する人に問いたい。あなたにそれだけの覚悟があるのか、と。自分自身の雇用さえ脅かされる状況の中、それでもたった3週間の超法規的措置に反対するほどの覚悟があるのか、と。

 さらに、この事実を知ってほしい。実は、オムニチャネルだ、Iotだ、AIだ、クラウドだとあれだけ騒いでいたデジタルベンダーは、さっさとアパレル業界から逃げ出し、今は陰も形も見当たらないのである。当然である。崩壊する産業に見切りをつけ、これから拡大する「テレワーク」などに投資をした方が儲かるからだ。読者諸兄は、何らかの形でアパレル業界に関連している人が多いことだろう。実は、私のところには悲痛な叫びや破綻した企業の中の内情を詳しく説明してくれるメールが舞い込んできている。だから、私は書き続けているのだ。

生き残るための最後の道、マルチプラットフォーム戦略

metamorworks / iStock

 実は、この論考を書くに至ったのには理由がある。それは、前々回に書いた「『マルチプラットフォーム戦略』とは何か」という問い合わせが多かったからだ。

 もはや、アパレル企業は、仕入れた2020年の春夏物をたたき売ることしかできていないのが実態だ。その結果、赤字と借り入れは増大し、企業価値はどんどん落ちている。したがって、経済が再開されれば、外資を含めたM&Aの嵐が吹き荒れ、金融主導でアパレル業界は様変わりすることになることは既に説明したとおりだ。それが資本主義のルールである。

 このとき、アパレル業界を奈落の底に突き落とすのは、ロジックと数字が極めて弱いということだ。仲間内でやっていたときは、業績の良し悪しを「天気」と「トレンド」のせいにしていればよかった。だから、企業買収の世界では「アパレル業界だけは御免被る」という意見が圧倒的となり適正な評価がなされていなかった。したがってリスクマネーは、アパレル企業が死に体寸前、つまりEV (Enterprise Value 企業価値)がほとんどゼロ近くになったときなだれ込むことになることになる。

 そして、私が提唱するアパレル業界救済の戦略、すなわちマルチプラットフォーム戦略は、こうした動きに乗るものだ。

 こうした状況を踏まえれば、アパレル業界は一部の競争力をもった企業以外は、金融主導、あるいは株主主導で解体と統合を繰り返すことになる。そして、雨後の竹の子のように乱立しているアパレル企業の数は大きく減ることになるだろう。暢気に春夏の仕入れはどうしようなどと考えている暇など無いのだ。

 私はこうした絶望的な状況の中においても、まだアパレル業界をなんとかしたいと思っている。私は決して逃げたりしないからだ。

 おそらく、アパレル業界に残された「最後の戦略」といえるのが、「マルチプラットフォーム戦略」である。その本質的意味合いは、襲いかかる買収攻撃に反撃するものでなく、むしろ、その買収攻撃に乗り逆利用しようという発想である。

実はハゲタカではない ファンドの本当の目的

 そのリスクマネーの“出し手”は、ファンドだけでなく、家電や家具販売などの異業種、そして、当然外資系企業も含まれる。彼らによって、アパレル各社の感覚経営は刷新され、大改革とロールアップ(複数の企業を統合する)が起きる。「ファンドは怖い。それ以外は安全だ」などと考えている無邪気なアパレルもいるようだが、もっと勉強した方が良い。資本主義の世界では「お金に色はない」。金の出本がどこであっても資本主義が正しく機能していれば結果は同じである。自らの経営について、正しく素人でも分かるように噛み砕いて、説明責任を果たせる論理力、そして定量的に語れる科学性が必要なのだ。それが、できなければ首をすげ替えられるだけだ。金を出す人間に悪者と善人がいると考えるのは「テレビの見過ぎ」である。もはや、この動きはもはや止められないだろう。商社の一部も、こうした動きに乗ろうという具合に戦略の方向転換を始めだした。

 そして、私が提唱するアパレル業界救済の戦略、すなわちマルチプラットフォーム戦略は、こうした動きに乗るものだ。

 実は、「ハゲタカ」「骨までしゃぶる」「乗っ取り」など、メディアによって悪い印象操作をされているファンドや商社は、単純に企業価値を上げたいと思っているだけだ。「そんなわけはない」と思う人のために、わかりやすく解説したい。

 企業には、お金が二種類あり、一つは「運転資本」、もう一つが「投資のためのお金」だ。リスクマネーは集めたお金を運用し増やすのが目的だ。だからファンドは、原則的にこれらのお金を赤字補填や「赤字会社の運転資本」には使わない。皆さんも、自分が買った投資信託が、ずっと垂れ流される赤字会社の赤字補填に使われているとしたらどうか。投資したお金の価値は果てしなく目減し続ける。このように説明すれば、皆さんすぐにファンドの本質を理解していただけるだろう

ファンドとアパレルの
コミュニケーションツール、4KPIとは

4KPIを使えば、アパレルは決して博打ではない

 話をアパレル企業に戻す。もはや借り入れも限界となり、存続する価値のないアパレルは金融機関のデューディリジェンス(企業価値算定)によって、「潰す」か「営業活動を続けるか」の二択を迫られることになる。当然、投資マネーが向かわない企業は、「潰す」選択をされる可能性が高い。

 しかし、「この企業はまだまだ伸びる」と判断されれば、投資マネーはその企業に向かう。これを利用するわけだ。

 だが、金融業界の人達は、金融のプロだが事業は素人。ましてや、大手アパレル企業のトップに「うちの業績は『天気』と『トレンド』でアップダウンします」、などと真顔でいわれれば信じてしまう。そして、バッサリと赤字事業を切り取ってしまうわけだ。アップサイド(売上)変数を論理的に説明できないため、両者の間でコミュニケーションがまともにとれないのである。

 こうした悲劇が何度も起こらないよう、私は4KPI」という業績評価指標と測定方法、および運用の標準形を自分自身で開発し、この指標で数多くのアパレル企業を救済してきた。この「4KPI」については、78日発売予定の私の2作目の著書で克明に記し、アパレルは決して「博打ビジネス」ではい、このようにオペレーションを評価すればよい、ということを、あやまった活用事例も含め克明に記した。アパレル企業へ投資を検討している金融機関の方やアパレルの方は是非手にとって読んでいただきたい。

マルチプラットフォーム戦略の本質

 私の20年の戦略コンサルタントの経験から言えることは、アパレルビジネスは決して「博打ビジネス」ではないということだ。この4KPIとライトオフ期間の二つを使えば、必ず黒字になるし、私は50社以上のアパレルにこうした改革を行ってきた。

 つまり、アパレル企業に残された戦略とは、まさに「勝てる戦略」を持つことである。相手が外資だろうがなんだろうが、結局は儲かれば良いわけだ。

「勝てる戦略」とは、今までのように誰かに忖度をしたり、「天気」と「トレンド」で説明するようないい加減なものであってはならない。もっと科学的に、そしてロジカルに戦略の絵を描くことである。

百貨店のオムニチャネルが誤った戦略である理由

(2019年 ロイター/Issei Kato)

 例えば、百貨店を例にしよう。判で押したように「オムニチャネル戦略」を掲げている。とだが、消費者がネットで買う理由は「品揃え」と「価格の安さ」、の2つしかない。その2つを満たすため、アマゾン(Amazon.com)は、「物流」に天文学的な資金を投じ、消費者が「好きなとき」に「好きな商品」を「できるだけ早く」購入できる仕組みを作り上げた。今では、ホームページのトップページをGoogleからAmazonに変えている人も増えているほどだ。

 しかし、百貨店というのは、文字通り「百の商品」を「定価」で売るビジネスである。品揃えは、セグメントは多いが、それぞれに広がりがなく、値引もしない。それなのに、わざわざECで買うお客がいるだろうか。つまり、いま百貨店が掲げているオムニチャネル戦略は、消費者起点でみたとき魅力のない、誤った戦略であるというのが私の分析だ。百貨店の人は、「うちのバイヤーが世界から選んだうちにしかない商品がある」という。しかし、これも、消費者起点でみれば、それほど売れる商品なら、消費者は、その商品をGoogleサーチし、百貨店などを通さずに、Amazonや楽天経由で安価に買うだろう。つまり、百貨店が頑張れば頑張るほど、テナントのビジネスが増える、バーチャルショールームと化しているのである。

 百貨店のEC化率が低いのは、こうしたことと無関係ではない。だから、私は6年前から百貨店のオムニチャネルは、実店舗の来店客を満足させることに使え、リモートバーチェス(自宅から百貨店のオンラインで購入する)は無駄だ、と何度も指摘している。実際、今日5月30日、伊勢丹新宿店が待望の再オープンを果たしたが、日経新聞によれば、100人が列をなし入場制限を行ったという。誰が、アフターコロナの世界はECが増えるなどといったのか分からないが、そもそも百貨店の持つ価値というのは、リモートで商品を買うものではない。百貨店という館のなかでお買い物体験をすることなのだ。そんなことは消費者調査を行えばすぐに分かる。

 

 このように、業態ごと、企業の強みや置かれた状況に合わせた「勝てる戦略」を持てということなのである。続きは明日、いよいよマルチプラットフォーム戦略の全貌を公開したい。

 

プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)