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三越伊勢丹と高島屋がEC強化でめざす「カスタマイゼーション」の未来図

新型コロナウイルスの感染拡大で休業を余儀なくされている百貨店。業界の売上も年々低迷し抜本的な改革が迫られている。かつて「小売の王様」として君臨してきた百貨店はいかにビジネスを立て直すのか。カギをにぎるのはリアル店舗とEC事業各々の強みをいかに接続するかにある。三越伊勢丹ホールディングスと高島屋は近年とくに顧客一人ひとりのニーズに合わせたデジタル施策を進めている。「週刊東洋経済」記者として百貨店、流通業を取材してきた梅咲恵司氏の著書「百貨店・デパート興亡史」から、その戦略を一部編集してお届けする。 

百貨店のビジネスを抜本的に変えるにはEC事業の強化が急務だ

EC」と「リアル店舗」をいかに強化するか

 三越伊勢丹ホールディングスは、ECサイトも2020年春に刷新。ECの商品数を、 現在の約3倍となる20万種類に増やす方針だ。旗艦店などで取り扱う化粧品や衣料品な ど、すべての商品を取り扱えるように整備している。地方店でも同様のサービスを提供で きるようにして、基幹店と地方店との競争力の差を埋める。

 商品情報の一元化やECサイトの拡充に向け、伊勢丹新宿店に隣接するパークシティイセタンの1、2階を改装し、「ささげ」(商品をECサイトに掲載するための撮影、採寸、原 稿書き作業のこと)用の施設「イセタンスタジオ」として稼働している。現在、イセタンスタジオには約120人のスタッフが常駐し、商品情報の整備に尽力している。

 また、複数に分散していたスマートフォンアプリを統合する。三越と伊勢丹で分かれていた会員アプリに加え、店舗情報も共有するアプリに、2020年4月にまとめる。アプリを統合することで、顧客は同社のECを利用しやすくなるだけでなく、店舗でのお薦め商品や文化催事などのイベント情報も確認できるようになる。

 システム・基本情報の整備と同時に、新サービスの展開も打ち出した。2019年2月には、化粧品専用のWEBサイト「ミーコ」をスタートした。モデルを活用したビジュアルイメージを掲載し、消費者はそのイメージを基に商品を検索することができる。商品 の発売日と予約開始日がわかるカレンダー機能や、メイク・シミュレーション機能も備える。

 高価格帯の化粧品でなく、比較的価格帯の安い商品も扱うことで間口を広げ、若い層や地方顧客の開拓を狙う。 2019年秋には、「ドローブ」と名付けた新サービスを開始した。チャットでスタイリストと会話し、それを基に消費者に合ったファッションを届ける。自宅で商品を試着してもらって、気に入らなければ返品してもらう仕組みだ。

 ほぼ同時期に、紳士向けのカスタムオーダーサイトも立ち上げた。こちらも、チャットや写真データなどを使ってWEB上で商品の注文・購入手続きが完結する。まずはワイシャツからサービスの取り扱いを始めた。ECの整備などで地方店の競争力の底上げを図る一方で、訪日客や富裕層の来店が見込める伊勢丹新宿店、銀座三越、日本橋三越本店の3基幹店については、需要が底堅い化 粧品や宝飾などのフロアを拡張する。2020年の3月に、これら3基幹店の大幅改装をいったん完了した。

「デジタルでワンツーワンの関係築く」

 このように、三越伊勢丹ホールディングスは、デジタル化とリアル店舗を同時に強化することを成長戦略に掲げる算段だ。むしろ杉江社長は、デジタル化投資については成長戦略ではなく、「生き残り戦略だ」と強調する。

  お客様のニーズが変化している中で、デジタル化は成長事業というよりも、生き残り戦略。そこにいかないと淘汰される、未来がない。これはマスト。逆にいうと、われわれには大きなチャンスだと思っている。今までは、店にバイヤーが 世界から買い付けてきた良いモノを置いても、どのように素晴らしいモノなのか をお客さんに伝える手段がなかった。例えば、美術画廊で取り扱う美術品はほとんどが同じ商品がほかには存在しない「一点もの」で、広告チラシなどに掲載することができず、多くのお客さんに紹介できなかった。今では、画廊からこの美術品がどのような商品なのかをデジタル配信して、多くの方に情報を伝えること ができる。お客さんもSNSなどで情報を拡散してくれる。

 もうひとつは、今までは外商部がお客さんとワンツーワンの関係を築いてきた。ただ、この仕組みだと限界がある。外商の担当者が持てるお客さんの数は、限られる。そのため、ワンツーワンで対応できる人数は、外商部の人数と比例してしまう。たくさんのお客さんと関係を持つためには、外商部の要員を増やさないと いけない。そうすると、コストに見合わなくなる。ところが、これから展開していくデジタル化で、お客さんにアプリを使っていただくことで、そのアプリを通じてお客さんとつながりを持つことができる。デジタルの力を借りて、かなりの人数のお客さんとワンツーワンのような関係を構築していけるようになる。

  髙島屋もまた、最近ではEC事業にネット専門バイヤー6人を配置し、独自商品の開発を強化している。米子タカシマヤの「大山ハム」など、国内17店舗で扱っているご当地商品も訴求する。おせち料理など、自宅用の需要を狙った商品も拡充している。消費者の購買行動が以前とは様変わりしている中で、百貨店はEC対応に遅れていることが指摘されてきた。

 ただ、限られたリソースの中で、商品管理の精度を徐々に上げ、 若年層などの新しい顧客層にアプローチをする、あるいは得意分野に絞った商品展開に注力するといった着実な取り組みも出始めている。百貨店ならではの独自性を打ち出せれば、 EC分野で失地回復することは不可能ではないかもしれない。

マス・マーケティングから「カスタマイゼーション」へ

 売り場でのおもてなしと、ネット機能やスマホアプリなどのデジタル技術を融合して展開することで、一人ひとりの顧客のニーズを聞きながら、要望に応えていく。この髙島屋や三越伊勢丹ホールディングスの新たな取り組みは、顧客一人ひとりの状況や需要に寄り添う「カスタマイゼーション」システムの確立に向けた動き、と捉えることができる。

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デジタル技術が隆盛を誇る昨今、販売の世界は、従来の大量供給・大量消費を前提としたマス・マーケティングの考えから、顧客の要望に応じて仕様変更を行うカスタマイゼーションを重視する姿勢に変化しつつある。 このカスタマイゼーションを得意とするのが、ECの巨人、米アマゾンである。顧客の購買履歴や閲覧履歴に基づいて商品提案する手法などを駆使し、業容を拡大してきた。

 配送の迅速な手配や、映画見放題や音楽聞き放題などのさまざまなサービスを提供することで、優良顧客を囲い込んできた。そして、デジタル技術をフル活用し、書籍、家電、玩具などの分野で大手チェーンや企業を駆逐してきた。

  もはや日本の小売企業全般に、アマゾンの脅威は押し寄せている。「長年構築してきた顧客基盤がある」「高級な良い商品を扱っている」、だから「百貨店は大丈夫だ」と自らを安心させるような論理を使って、アマゾンエフェクトの波から目をそらしてきた百貨店業界も、無策では到底太刀打ちできないだろう。

 そういった意味で、従来の得意分野であった「モノを売る」「流行をつくりだす」「サー ビスを提供する」、こういった機能をデジタル化によって融合する新たな取り組みは、百 貨店が生き残るために必須となるのかもしれない。