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苦境の百貨店業界でも増収続ける地方百貨店 カギを握る商圏の特性

苦境が続く百貨店業界。他の集客力のある小売店との提携など生き残りにかけて模索が続く。そんななか地方に目を向けると増収を続ける百貨店もある。どのような戦略があるのか。流通小売企業の成長を支援するコンサルタント榎本篤史氏の『東京エリア戦略』から、その一部を紹介する。

苦境が続く百貨店。その商圏にあった独自の戦略が必要だ(2019年 ロイター/Issei Kato)

一人ひとりの接客に時間をかける高崎高島屋

 今、百貨店は全国どこも苦境に立たされています。人口減少はもちろんのこと、アマゾンやゾゾタウンといったネット通販の台頭、ユニクロをはじめとしたファストファッションの流行、インバウンド需要が陰り始めていることなど、あらゆる商品を取り揃える百貨店には厳しい外部環境が続いていることは間違いありません。

 そのような中でも元気な百貨店がいくつかあります。群馬県にある高崎高島屋はその 1 つです。実は 7 期連続で増収を続けているということですから、その順調ぶりには驚かされます。

 「なぜ高崎?」と思われた方も多いでしょう。もちろん、売上高は伊勢丹新宿本店、阪急うめだ本店、西武池袋本店など、大都市の百貨店が圧倒的に高いです。しかし、増収を続けているというのは、今の百貨店業界ではなかなか珍しいことなのです。

 ベースにあるのは、地方は世帯年収が高いという点です。地方の場合は、祖父母と 一緒に 3 世帯同居している場合が少なくないため、世帯年収が2000万円ほどもあったりするのです。祖父母がいるので両親共働きで子育ても可能です。都内より生活コストも低く、そういう意味ではお金がそれなりにある世帯が多いということです。

 それから、東京と比べれば買い物に出かける先が限られるという点です。東京にはあらゆるお店が数えきれないくらいあって、百貨店も 1 つの駅に複数あるほど買い物できる場所がたくさんあります。ただその分、お客様は分散されます。

 一方、地方都市に百貨店がいくつもあるということはほとんどありません。その他の店舗を含めても選択肢が少ないわけですから、一通りのものが揃う百貨店に人が集まりやすいと言えるでしょう。

 そして、東京の百貨店は大量のお客様をこなさなければいけないので、どうしても機械的な接客になってしまうのですが、高崎高島屋では一人ひとりのお客様に対して時間をかけて接客をするというのです。

 これが好評で、リピートされるお客様も増え、売上も上がるということです。丁寧な接客は人口量が都内より少ない地方都市だからこそ可能と言えるでしょう。高崎は北関東の企業の拠点でもあるので、それなりに人口量のボリュームがしっかりあるという点も大きいと思います。

高齢者に合わせた雰囲気づくりの伊勢丹浦和店

 高崎高島屋と同じように、地方都市の百貨店で元気なところが伊勢丹浦和店です。実はこの伊勢丹、若い人ではなく高齢の方たちに人気の伊勢丹なのです。実際、平日の昼間に浦和店に行ってみると、お客様の年齢層が高めなことがよくわかります。

 伊勢丹というと新宿本店をイメージする人が多いと思いますが、お店の雰囲気はまったく違います。建物自体は古めですが、明るくてごちゃごちゃしていない空間、そこかしこに配置されたベンチ、店員もベテランの方が多い印象で、どこかのんびりした雰囲気すら感じるのです。

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 浦和エリアは可処分所得が高い人が多いと言われています。そういった人たちが頻繁に伊勢丹に通っていると予想されます。若い人であれば、浦和から新宿に電車で買い物に行くというのは普通でしょう。

 新宿にはもっとたくさんお店がありますから、電車で約 30 分の都心に出て行きたくなるのだと思います。ただ、誰もがそうするわけではありません。

 浦和在住の特に高齢者は、浦和駅前の伊勢丹に買い物へ行くほうが近くて便利だということです。わざわざ都内に出なくてもいいと考える人が多いというわけです。

 それなりに裕福な人が多く、人口量がある程度確保できるエリアにあり、今メインとなっているお客様のニーズに合わせて店舗や接客も変化させていく。それが、地方都市で元気な百貨店の秘密だと思います。