病院、オフィスビル、マンション、もちろん商業施設においても、一定規模以上の建築物には、非常用発電機が設置されている。主にディーゼルエンジンやガスタービンを動力として非常時に発電を行うが、近年さまざまな自然災害が続く中で、設置の意義や適切な定期点検の重要性が注目されるようになっている。いざというときにためにどんな管理が必要なのだろうか。
負荷運転に関する法令改正で保守点検への関心が高まる
非常用発電機は、災害などで電力供給が途絶えた場合に、消火設備や排煙設備、スプリンクラー、非常ベル、非常用エレベーターなどに電力を供給する設備だ。建築基準法や消防法では設置基準などが定められており、保守点検についても点検基準が設けられている。
特に、定期的に負荷運転を行うことで、非常時に確実に運転できるように点検しておくことが重要で、法令でも義務づけられている。
アイピー・パワーシステムズ株式会社(本社:東京都港区/河原功一社長)は、非常用発電機に必要なメンテナンスサービスをトータルに提案する企業として、最近注目を集めている。
同社の新事業推進部部長の高木政軌氏は、その背景について「当社はもともとマンション向け電力供給会社として2004年に設立されましたが、商業施設やビルの電気点検、電気設備の改修工事などを業務としています。近年さまざまな自然災害が続くなかで、負荷運転が多くの建築物で実施されていないという実態が明らかになってきました。ビル管理の業界でも、非常用発電機に不具合がないか、いざというときに適切に稼働するかどうかが話題となってきました」という。
負荷運転とは、単にエンジンがかかるかどうかをチェックするだけでなく、実際に一定時間電力供給できるかを確認する試験だ。「自動車点検に例えれば、エンジンをかけるだけのふかし運転ではなく、実際に路上や坂道などを走ってみて、その負荷に対応できるかどうかを確認する試験です」(高木部長)
負荷運転に関する法令は、過去の阪神淡路大震災東日本大震災の状況を踏まえて見直しが行われてきたが、こうした実態を踏まえて2018年にも点検内容に関する告示が発令された。これによって、施設管理者に毎年1回と義務付けられていた負荷運転は、「運転性能の維持に係る予防的な保全策」が講じられている場合は6年に1回に緩和。
また毎年行う場合でも、負荷運転のほか「内部監察等」によって不具合を確認することが可能となった。日常的な保守点検をしっかり行っている場合は、従来と比べて負荷運転の義務が合理化された一方、必要な負荷運転については着実な履行を指導していく方針に改められている。
2つのサービスプランから状況に合わせて選択可能
これに対してアイピー・パワーシステムズでは、告示が発令された2018年から非常用発電機の負荷運転に関するサービスを提案しはじめた。日常の保守管理や部品交換などをしっかり行い、負荷運転を6年に1回する「6年パック」と、毎年の負荷運転を行う「非常用発電機負荷運転」の2つのサービスをラインアップし、受注実績を順調に伸ばしている。
「ビルを所有する企業でもコンプライアンスの意識が高まり、非常用発電機の適切な保守点検の必要性に対する理解が深まってきました。負荷運転ではディーゼルエンジンを実際に屋上駐車場などで一定時間稼働するため、黒煙が出ます。食品スーパーなどの商業施設ではお客様の目にも触れるため、その点にも配慮して黒煙を軽減するフィルターを装着して、作業を実施させていただいた事例もあります」(高木部長)
負荷運転そのものは専用機器があれば可能であるため、さまざまな企業がサービスを提供しているが、同社の特徴は負荷運転以外のトータルメンテナンスが可能なノウハウを持つことと、全国主要都市をカバーするサービスエリアの広さだ。
高木部長は「非常用発電機は新築時に設置したとして、以後30年程度は使用することになります。それだけ長期にわたって信頼性を維持するためには、負荷運転だけでなく、普段のメンテナンスによりリフレッシュが重要です。近年小売業界からの問い合わせも増えており、状況やニーズに合わせたサービスを提案しています」と語る。
企業にコンプライアンスが強く求められている現在、非常時以外にはなかなか注目を集めることのない非常用発電機だが、だからこそ日頃のメンテナンスを重視していく必要がありそうだ。