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ひと味違う商品で支持得る「日本酒で鮮度を訴求したい」=日本盛常務取締役 営業本部長 上野太郎

「ニホンサカリはよいお酒」のテレビCMで知られる日本盛(兵庫県/森本直樹社長)。「品質第一」を掲げ、他社とはひと味違う商品を数多く発売している。近年は、日本酒を楽しむシーンを広げる活動を通じ、新たなファン獲得にも取り組む。上野太郎常務に現在の施策や今後の展望などについて聞いた。

ブランドが広く浸透

うえの・たろう2003年、同志社大学卒業、同年住友商事入社。11年住友商事退職、同年、日本盛入社、社長室部長。14年、取締役 営業本部副本部長兼中期経営計画実行委員会委員長、15年、取締役 営業本部副本部長 兼中期経営計画実行委員会委員長兼ボトル缶推進責任者などを経て、19年常務取締役 営業本部長(現任)

──日本盛の起こりは明治22年(1889年)、2019年に創業130年を迎えました。

上野 日本酒業界を見渡せば300年や400年超の蔵元も数多くあり、そのなかにあって当社は、まだまだ若手の位置づけのような存在。しかし130年という歴史は、一般の企業からすればかなり長いのも事実です。これまで商いを続けてこられたのは、お客さまはもちろん、さらに当社の諸先輩方の努力があったからだと感じています。

──業界では若い企業とはいえ、日本盛というブランドは消費者に広く浸透し存在感を示しています。

上野 後発組であるため、「品質第一」を掲げて他社との差別化策に力を入れてきた結果ではないでしょうか。他社に負けない味、品質を追求したことで、創業22年目の1911年には国内生産高No.1になり、1913年には宮内庁にお納めする名誉を賜り、現在も継続してお納めさせていただいています。

 また同様の観点から、業界初の取り組みが多いのも当社の特徴です。1961年には他社に先駆け、「ニホンサカリはよいお酒」というキャッチコピーでテレビCMを流すなど、挑戦的な取り組みのおかげで認知いただけていると思います。

──あらためて、日本酒マーケットへの認識について聞かせてください。

上野 国内における日本酒消費量のピークは約177万klで、今から47年前の1973年のことです。以来、需要は年々、減り続け、今では最盛期の3分の1以下の水準にまで低下しているのが現状です。若者を中心に飲む人が減り、日本酒以外にもアルコールの選択肢が増えていることなどが原因で、われわれ日本酒メーカーを取り巻く環境は非常に厳しいと感じています。

──そういった状況に対し、貴社はどのような戦略で市場に臨みますか。

上野 業界の若手だからこそ、差別化をねらった商品に力を入れます。他社にはない、当社ならではの日本酒で、お客さまからの支持獲得をめざします。一方、ニーズが拡大する分野に着目した商品も積極的に展開する方針です。

飲酒シーンを広げる活動

──現在、どのような商品に注力していますか。

上野 他社との差別化を図るという点では、2015年2月に発売した「日本盛 生原酒 ボトル缶」シリーズです。現在、「本醸造」はじめ「純米吟醸」「大吟醸」「純米大吟醸」とテイストの異なる4種類をラインアップしています。

──特徴を教えてください。

上野 「生原酒」とは、本来は蔵に来なければ飲めなかったお酒で、できたてのフレッシュな味わいが魅力です。反面、加熱処理を行っていないため要冷蔵で品質管理も難しく、そのため長らく、一般の流通網には流せないといわれてきました。

 それでも、当社では生原酒のおいしさを知ってもらいたいと、2013年、阪急電鉄「西宮北口」駅構内に生原酒の量り売り店舗をオープンしました。それを皮切りに、関西、関東の各地の駅などで量り売り販売を始めました。当初、中高年男性の利用を想定していましたが、女性からも「飲みやすい」「香りがフルーティー」と好評価で、大きな反響があったのはうれしい誤算でした。

──好評を受け、商品化に向かったわけですね。

上野 ただ前述のとおり、生原酒は品質管理が難しいのが大きな問題です。そこで当社は試行錯誤の末、製造ラインを工夫するほか、容器にボトル缶を採用することで、常温流通を可能にするというハードルをクリアすることに成功しました。食品スーパー(SM)企業をはじめ、流通各社様の評判もよく、取り扱い店は着実に増えています。

──一方、お酒を飲むシーンを広げる活動にも力を入れているようですね。

上野 キャンプやハイキングといった行楽の場でも日本酒を飲んでいただきたいと考えています。昨年からはアウトドア用品メーカー大手、モンベル(大阪府/辰野岳史社長)と組み、新たなシーンでの楽しみ方を積極的に提案。限定ボトルや、カップホルダーはじめ関連グッズを販売するほか、モンベル主催の各種イベントにも参加して露出度を上げています。また今年の3月には第2弾タイアップ商品も予定しています。

 生原酒シリーズは、ボトル缶なので持ち運びがしやすく、飲み口が広いこともあり、アウトドアには向いていると思います。

「糖質ゼロプリン体ゼロ」は業界初

──ほかにも力を入れる商品はありますか。

上野 「健康」を切り口とする「日本盛 糖質ゼロプリン体ゼロ」です。商品名のとおり、業界では初めてとなる「糖質ゼロ」に加え、「プリン体ゼロ」であるのが大きな特徴です。パッケージは、グリーンを基調としたデザインで、そこに「糖質ゼロ」「プリン体ゼロ」の文字を大きくあしらっています。

 2015年9月に発売を開始して以来、予想を超える水準で売上が伸長し、直近の実績でも対前期比2ケタ増と好調を続けています。健康系商品は他社も出していますが、日本酒分野で最も成果を出しているのは当社だと自負しています。

──高齢化の進行を背景にますます健康系商品は注目度が高まりそうです。

上野 実は、当社が健康への取り組みを始めたのは最近ではなく、創業100周年を迎えた1989年に遡ります。「酒造りを通して人々に幸福を」という企業マインドをベースに新しい事業のプロジェクトをスタートさせたのです。キーワードに設定したのは「健康」「自然」「新鮮」でした。

 そのうち「健康」を具現化した商品は、1995年に発売した「健醸」です。肝臓の働きによい影響を与える、米由来の天然ビタミン「イノシトール」を、従来の日本酒の約50倍(自社比)含むのが特徴。そして健康系のコンセプトを引き継ぎ、「健醸」は2020年2月25日に、1合(180ml)あたりにシジミ30個分のオルニチン含有した商品に25年ぶりのリニューアル発売をします。

──「日本盛 糖質ゼロプリン体ゼロ」をより多くの人に知ってもらうためのプロモーションなどはあるのですか。

上野 これまで専門医の方が当商品を推奨して下さったお陰で、商品の信用力が向上しました。今春はライザップとの提携が決まり、本気で糖質制限に取り組む方にも訴求できると思います。これまで日本酒を敬遠していた方にも飲んでいただきたいです。

「日本酒に振り向いてもらいたい」

──今年は、どのような施策を予定していますか。

上野 今年は日本でオリンピックが開催される記念すべき年なので、多くの方々に日本酒に振り向いてもらえるような機会を提供しようと計画しているところです。たとえば東京では、当社の商品を販売する直営店を構え、日本酒のおいしさ、楽しさを発信したいと考えています。各種施策により、日本人だけでなく、インバウンド需要も取り込みたいと考えています。

──上野常務は、セーリングの日本代表として2008年の北京オリンピックに出場されたご経験もあり、今年の施策には期待が持てそうですね。最後にSM企業へのメッセージをお願いします。

上野 近年、日本酒は米を磨く比率(精米歩合)で価値が判断されてきました。そこに、本来、保存が難しい生原酒を手軽に楽しめる「生原酒ボトル缶」シリーズにより、新しい価値として“鮮度”を訴求できるようになりました。また、永く日本酒を楽しんでいただけるよう「健康」に配慮した商品作りも進めて参ります。

 この「鮮度」と「健康」をキーワードに日本酒の魅力を高め、日本酒業界の金メダルを獲りたいです。

日本盛企業概要

創業 1889年
社長 森本直樹
本社 兵庫県西宮市
従業員数 190人(19年3月末時点)