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ワークマン撤退でも譲らない 楽天市場が送料無料化にこだわるのはなぜか?

大手ECサイト「楽天市場」を運営する楽天(東京都/三木谷浩史会長兼社長)は129日、楽天市場出店者向けのイベント「楽天新春カンファレンス2020」を開催した。同イベント冒頭で行われた講演で、三木谷氏は先日発表された一定額以上の商品購入者に対する送料無料化に対して、「何が何でも成功させたい」とコメントした。この一連の動きに対して、一部の出店者からは反発も出ており、公正取引委員会は独占禁止法の疑いで調査を開始した。このような逆風が吹くなか、楽天が送料無料化を推し進める理由は何か――。

楽天の三木谷浩史会長兼社長

お客にとって分かりにくい送料

 「送料無料化によってお客さまに分かりやすさを訴求し、楽天市場のファンを増やしたい」。三木谷氏は講演でこのように述べている。今回の送料無料化の背景にあるのは、楽天市場を利用するお客の利便性向上だ。現状では、出店者が自由に送料を設定することが可能となっている。そのため、全国送料無料の店舗や、配達地域や荷物の個数によって送料を変更している店舗、期間限定で送料無料のキャンペーンを実施している店舗など、出店者の数だけ送料条件が存在している。このような状況で、購入者にとっては結局送料がいくらなのか分かりにくくなっている。

 また、出店者の中には商品の価格を他店より安く設定することで購入を促し、その分不当に高い送料を要求している店舗もある。一部のユーザーからは「300円以下の商品で送料1700円以上って詐欺まがいの送料」などと不満のレビューが投稿されており、楽天市場からの客離れの一因となっている。

 このような状況を改善すべく、楽天市場は共通の送料無料ラインを全店舗で導入し、2020318日から開始することを決定した。1つの店舗で合計税込3980円以上の商品を購入した場合、送料が無料になるという仕組みだ(沖縄県や離島など一部の地域や、大型、冷凍、冷蔵商品、酒類などを除く)。

出店者へのサポート強化

 この制度により無料になった送料は出店者が負担することになるため、一部の出店者からは反対の声が上がっている。これに対し、お客にとっての分かりやすさ、使いやすさを向上させることで楽天市場の利用率が高まるため、中長期的には各店舗の売上は増加すると楽天は見ており、出店者側にもメリットがあるものだと主張している。

 楽天の調査によると、約68%の消費者が送料が原因で商品の購入を諦めたことがあるという。「送料無料ラインが統一すれば購入を諦めるお客さまが減る。(楽天市場に出店している)5万店舗が多様性を維持しながら買いやすいサイトをつくらなければ、持続的な成長はできない」と三木谷氏は送料体系の統一について理解を求めた。アマゾンのような巨大ECに対抗するには、料金体系が統一されたプラットフォームが必要だという考えだ。

 また、各店舗の負担を可能な限り減らすべく、楽天はこれまで継続してきた出店者へのサポート体制強化にも力を入れる。物流面では約10年間でおよそ2000億円の投資を行う考えだ。今回のイベントの前日には、自社の配送サービス「Rakuten EXPRESS」で、配送対象地域を秋田県、岩手県、山梨県、静岡県、岐阜県、三重県、滋賀県、愛媛県、山口県、佐賀県および長崎県に拡大したと発表した。これにより、同サービスの配送対象エリアは合計34都道府県となり、国内人口のカバー率は約61%となった。

楽天は自社物流サービス「Rakuten EXPRESS」の配達対象地域を拡大する

 そのほか、今回の送料無料化によって商品の価格設定を見直す店舗については、購買データなどを提供するなど、適正な価格設定についてのアドバイスも行う考えだ。

送料無料化は「方よし」の施策となるか?

 楽天は自社だけでなく、出店者、利用者の「方よし」とするビジネスモデルの構築に力を注いできた。1912月には不審ユーザーの取締りを強化。利用者の決済状況を監視し、高頻度のキャンセルや後払い決済の不履行などがある利用者には警告や購入停止・ID停止などを実施する。リスクのあるユーザーからの購入を防ぐことで、出店者を守るための施策だ。

 今回の送料無料化は、利用者にとってメリットがあることは明らかだが、送料の負担を強いられる出店者に恩恵があるかは不明瞭だ。送料負担分を全て出店者が飲み込めば利益を圧迫するし、送料分を売価に反映させれば、売上の減少につながるからだ。その出店者が扱う商材の特性にもよるが、価格設定とマーチャンダイジングをよほど工夫しないと、各出店者へのインパクトは大きそうだ。

 そうしたなか、作業服専門店のワークマン(群馬県/小濱英之社長)は、202月末で楽天市場から撤退することを発表している。このような動きがほかの出店者にも広まれば、楽天にとって大きな痛手となることは間違いない。楽天は出店者に対し、より確固たる理由を提示するか、自社で相応の送料負担を行うなどして確かな理解を得る必要があるだろう。