「素敵な洋服を買って男女が出会い、子供が出来て幸せになる。こんなことはユニクロや無印には絶対にできない」
こう云いきるのは、私が数あるアパレルの中でも極めて高い評価をしている上場企業のTOKYO BASE(東京都)である。今回は2024年1月期決算も発表されたTOKYO BASEのその強さの理由と注目ポイント、そして懸念点について解説していきたい。
TOKYO BASEのビジネスモデルとは
TOKYO BASEのビジネスモデルはユニークだ。
まず、数多くのアパレルが尻込みしている海外事業を早くからスタートし、24年1月期本決算によれば、売上高(連結)199億8600万円(対前期比4.2%増)に対して、日本市場が約90%を占め181億3900万円。中国事業の構成比は9.6%で19億1500万円と小ぶり(香港事業除く)ではあるものの、積極果敢に海外に出店をかけており、TOKYO BASEの社是である、「FROM JAPAN TO THE WORLD」(日本から世界へ)を体現している。
「うちはユニクロとは違う。あんなに売上は大きくないし上場もしていない」というのがアパレル業界の「競争負け」の言い訳だったが、それを、「本当に言い訳」として葬り去るかのようにTOKYO BASEは若干44億7000万円の売上の時(15年2月期)にグロース市場(旧マザーズ)へ上場、そして現在はプライム市場(旧東証一部)に上場している。
TOKYO BASEの特徴として、数多くのアパレルが海外生産を商社のOEMに丸投げしているのに対し、同社はMade in Japan / Produced in Tokyoにこだわり、「日本製」であることが挙げられる。
「東京ブランド」であることを“イメージ価値”(出典:拙著「ブランドで競争する技術」ダイヤモンド社)にし、私が提唱する「東京ショールームシティ戦略」を実施している唯一のアパレル企業だ。
2024年1月期本決算ハイライト
TOKYO BASEの24年1月期(23年度)決算についてみていきたい。
22年度は中国の売上不振と中国現地法人の不採算店舗の撤退などがあり、決算変更による11か月決算だった21年2月期の売上を3.1%上回ったものの、利益面では大幅に苦戦し営業利益は対前期比76.5%減であった。
23年度は、中国店舗数減少にともない、同国での売上が8.1%減って19億1500万円となり、営業利益ベースでも6億4900万円の赤字となったものの、日本事業の売上が5.4%増となり、営業利益も36.5%と大幅増益となった結果、企業の通期売上は199億8600万円(4.2%増)、営業利益8億8100万円(同309.8%増)の増収大幅増益で着地した。なお、トータル売上の1/4を占めるEC事業は値引き抑制策を出した後苦戦し、売上は11.2%減となった。
日本市場躍進の要因は、「インバウンド需要」をうまく取り込むことができた点にある。インバウンド需要は、単に日本で店を開けていたから、中国と比べて割安だからという理由でインバウンド客がきたのではない。同社は、香港、中国に店舗を持ち同国の中でVisibility(認知度)を高めたから、日本に来たときにアジアの顧客を取り込むことができたのだ。これは、私が提唱している「東京ショールームシティ戦略」そのものである。
同社の決算のPros & Cons (良し悪し)は、極めてロジカルに整理できる。
同社は、EC事業は値引き後売上が苦戦したと述べている。例えば、ZOZOのタイムセールとクーポン値引きだ。ZOZOは売上に乗じて手数料をもらうため、テナントに値引きをさせればさせるほど売上が上がる分儲かる仕組みとなっている。たしかにテナント側も売上は上がるのだが、ここには在庫を消化する以外にテナントにメリットはないと私は見ている。利益率が低下するからである。それもあってTOKYO BASEでは、儲かるEC事業をめざして構造改革を進め「昨年10月から始めているタイムセール廃止の継続、25年1月期よりECの値引きクーポン配布の廃止」を明言したのではないだろうか。また、そのことによる売上の低下は、粗利率を高めることで、最終の利益段階の差を相殺すると述べている。
TOKYO BASEの販管費は91億3400万円で、45.7%である。多くの百貨店アパレルが50%台なのに対して同社の45.7%は優秀な部類である(ちなみに、ユニクロは30%台だ)。
ここにもしっかりとした戦略が裏にあり、日本で云えば東名阪、中国で云えば一級都市などへのドミナント化を狙っているため、ブランドを毀損するような店舗は撤退(23年度は14店舗撤退、うち中国が13店舗)している。嗜好品を好んで購買する顧客がいる都市で商売をすることで、TOKYO BASEのブランド価値を維持すると同時に、人員生産性を高めているようだ。実店舗の販売力で、販管費率を40%台におさえ利益体質にしているのはお見事と言わざるをえない。
また、同社の主要顧客である20~30代のさらに上の40~50代を狙った業態「THE TOKYO」も順調に立ち上がっているようだ。「TOKYO」の文字をいれ、TOKYO BASEのイメージ想起をさせ、ユニクロ・無印良品とは異なるファッションポジションで戦っており、「どこかユニクロの真似?」のようなアパレルが多い中、同社との違いをハッキリだしているのにも好感が持てる。かくいう私もTHE TOKYOのヘビーユーザーだ。
25年はニューヨークに出店!
同社は、25年1月期、売上200億円、営業利益16億円を目標に掲げている。売上の200億円はすでに24年1月期にほぼ達成しているので、あとはいかに利益体質にするかという点がポイントになる。
値引きの抑制と都市部へのドミナント出店からわかるのは、同社は「ブランド化」を狙っているということである。さらに、25年1月期のビッグイベントは、ニューヨークのSOHOに70坪級の店を出店することだ。SOHOといえば、北にあがるとハイブランドが多いが、南にいけばストリートカジュアルのブランドが多く、同社は、「やや南」に出店するという。開業は5月の予定だ。
さらに、業界をおどろかせたのは、同社の初任給・最低賃金を30万円から40万円にあげたということである。薄給で有名なアパレル業界において最低賃金が40万円というインパクトは大きい。年収で云えばボーナス込みで500万円を超え、アパレル商社でも30歳ぐらいの賃金に相当する。
同社には「スーパースターセールス」制度があり、年間1億円を売り上げた販売員は年収1000万円の報酬を出すなど、成果を厚遇で報いる仕組みが整備されている。谷CEOは、日本のファッション・リーディング企業として見本を見せると述べる。25年1月期の計画は(米国では当初苦戦もあろうが)ほぼ達成させるだろうと私は思う。このように、同社の経営は極めて分かりやすくロジカルで、他のアパレルと強烈な差別化を見せている。
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TOKYO BASEが抱える2つの課題
このように乗りに乗っているTOKYO BASEだが、リスクが無いわけでもない。
それは、海外戦略における、先が見えないへの中国一極集中だ。同社は、香港にも店はあるも、売上構成比では3%弱(店頭売り上げペース)で、約10%が中国だ。
今、中国と日本は緊張関係にあり多くのグローバル企業が「プラス・ワン」といって、中国から東南アジアに商売を広げている。ファーストリテイリングも東南アジアを攻めることで売上をあげようとしているため、TOKYO BASEもいきなり米国のような難易度の高い市場(ユニクロも最後の最後まで赤字だった)と中国の2面展開では、あまりにオペレーションもMDも違うのではないだろうか。
谷CEOは、ロンドン、パリ、ミラノ、ニューヨークソウル、と、私が聞いても「格好良い」「シティ」に嗜好品を求める層がいて、そこに店をだすことでブランド化を狙っているようだが、同時に、こうした激戦区では競争も激しく、また、必要な人材は慢性的に不足しているように思う。ここをどう乗り越えるかが一点目だ。
もう一点は、上記の結果として日本市場に頼る(今でも90%が日本市場)ことになるが、日本市場はすでに成熟しており、高額仕入(=原価率が高い)のセレクト品がよく売れるため、利益率の高い自主開発商品をどこまで目の肥えた日本人に訴求できるのかである。一般的に、自主は上代比20-35%で、セレクト品は45%-50%と10-20%もコストに開きがある。私はセレクト品はいっそのこと値段をあげてみればよいのではないかと思うがどうだろう。
いずれにせよ、「アパレルの常識」をここまで覆し、他のアパレルと全く違う戦い方をしているTOKYO BASEを、単に勝った、負けた、の二択で評価するのは正しくない。
我々コンサルは、むしろ「戦い方」に未来があるかどうかが大事であり、その意味でTOKYO BASEは私のような分析屋にとってしてみれば非常に興味深い会社である。
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プロフィール
株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。
著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「
筆者へのコンタクト
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