OTC(一般用医薬品)販売の約9割以上を担うのが「登録販売者」だ。20年前、コンビニエンスストア業界による規制緩和圧力などに端を発し、さまざまな思惑のなかで誕生した「専門家」だが、今その存在の「不要論」が囁かれている。新設から現在に至るまで翻弄され続ける登録販売者の“影”に迫る。本稿は全6回からなる短期集中連載「忍び寄る登録販売者『不要論』」の第1回です。
制度始まって以来の最大の危機
登録販売者(登販)制度の新設は、2003年の騒動がターニングポイントだった。コンビニエンスストア業界からのOTC販売の「規制緩和要請」と、ディスカウントストアのドン・キホーテ(東京都)が仕掛けた「テレビ電話販売」が業界を揺さぶり、薬事法改正議論に発展、2009年の誕生につながった。都道府県の資格試験を通過した登録販売者は、第2類と第3類のOTCの情報提供と相談応需を担う。現在、30万人以上が資格を取得している。
これまでの経緯と歴史に関しては、この後の連載で詳述するが、登販の新設によって業界団体は真っ二つに分断され、関係者間の調整を担当していたある厚労官僚は心身喪失に追い詰まれキャリアをドロップ、また受験資格の不正まで発生した。そして今なお、関係者の思惑に左右されている。その現在進行形が「不要論」だ。
政府は2022年6月の閣議で、規制改革実施計画として「患者のための医薬品アクセスの円滑化」を決定。「デジタル技術の利用によって、販売店舗と設備及び有資格者がそれぞれ異なる場所に所在することを可能とする制度設計の是非について」の検討を促した。同年12月には、デジタル臨時行政調査会(デジタル臨調)が「2024年6月までに結論を得る」と期限を区切っての決断を、所管省庁である厚生労働省(厚労省)に迫っている。
要は、ドラッグストアなど「店舗販売業」の許可要件である、薬剤師や登販といった専門家の常駐配置基準を、オンライン通信などによる「デジタル技術」で代替するという規制緩和要求だ。デジタル臨調の会長は岸田文雄内閣総理大臣。総理からダイレクトに求められた規制緩和と言える。登販関係者は「制度始まって以来の最大の危機」と身構える。この政府の大方針を受け厚労省に設置されたのが「医薬品の販売制度に関する検討会」(販売制度検)だった。
登販の存在意義が相当程度薄れる方向に
2023年2月からスタートした販売制度検は、すでに10回の議論を終え年内の取りまとめに向け最終盤に差し掛かっている。そのなかで「デジタル技術を活用した医薬品販売業のあり方」は、登販などの専門家が常駐しない「受渡店舗」を新設。この店の“親店舗”と位置付ける、専門家常駐の「管理店舗」が情報提供などを担い、受渡店舗を遠隔管理するというのが制度改正の骨格だ。
受渡店舗は生活者にOTCを直接手渡すことだけに専念するため、登販などの専門家ではない従業員や「必要なシステム上の要件を満たす販売機」でも可能とする。大正製薬(東京都)が試験的に昨夏実施した「OTC自販機」による販売も想定される。
また受渡店舗は、第1類のOTCも取り扱うことができる。もちろん、保管管理体制の整備と受渡手順書や記録の作成などの要件は課される。「管理店舗」の専門家が管轄できる受渡店舗数は「数店舗程度の上限」を設け、さらに「同一都道府県内」に限定する方向だ。ただし「同一法人に限る必要はない」と、必ずしも同じ会社による統括を強要しない。管理店舗は、実際に薬局や店舗販売業として「実地で販売を行うもの」とする方針が固まっている。
こうした縛りは、規制緩和推進派のコンビニエンスストア側が窺う、本部の一室に専門家を集め、全国津々浦々に所在する店舗を一括で受渡店舗に指定し、効率よく、低コストで、大規模にOTC販売を行うといった“究極”の規制緩和を阻止する狙いも透けて見える。
当然、規制改革推進会議ワーキンググループは11月17日の会合で、販売制度検が規定する縛りにことごとく反発。所管する河野太郎大臣も「デジタル技術の利点を潰している」と発言し、厚労省に再考を求めている。
ただし、賛否ある制度設計に関して、販売制度検がどこまで踏み込んだ報告書をまとめるか──。「両論併記」といった玉虫色の報告に落ち着く部分もでてくるかもしれない。しかしどちらに転んでも、登販の存在意義が相当程度薄れる方向にあるのは間違いない。ではなぜ、販売制度検の議論がこうまで登販「不要論」を醸し出しているのか──。そこには“大人の事情”が見え隠れする。(つづく)