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U.S.M.H24年上期決算、カスミが大幅減益の背景で脱・チラシの販促戦略への移行を断行

マルエツ(東京都)、カスミ(茨城県)、マックスバリュ関東(東京都)の3社を傘下に持つ、食品スーパー(SM)大手のユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(東京都:以下、U.S.M.H)が2024年2月期の上期決算を発表した。同社が言及した業績の現状と、事業会社各社の24年度上半期の取り組みについてレポートする。

カスミ「Scan&Goカード」(同社HPより)

U.S.M.Hの24年2月期第2四半期の連結決算は、営業収益が3526億円(対前期比99.9%)、営業利益が18億円(同84.5%)、経常利益が 18億円(同79.8%)、親会社株主に帰属する当期純利益が3億円(同46.3%)だった。既存店売上高は同99.0%、客数は同99.4%、客単価は同99.6%といずれも前年実績を下回る結果となった。

事業会社別では、マルエツの営業収益が1925億円(同102.0%)、営業利益が27億円(同182.0%)、マックスバリュ関東は売上高が221億円(同105.1%)、営業利益が1億円(前年度マイナスのため、対前期比比較なし)と増収増益を達成。一方、カスミについては営業収益が1375億円(同96..2%)、営業利益が1億円(同9.5%)と大幅な減収減益となり、全体の業績に影響した。
既存店売上高対前年同期比についてもマルエツは同102.2%、マックスバリュ関東は同103.5%だったが、カスミは同94.3%と前年を下回る結果となった(営業収益、営業利益、既存店売上高について、マルエツとカスミは連結、カスミは単体)。

紙からデジタルへ
販促方法を転換

カスミの大幅減益の主要因となったのが、同社が行った顧客との接点変更だ。カスミでは従来チラシを中心とした販促活動を行っていたが、折り込み用の費用がかかることに加え、お客の購買行動を追跡できない課題を抱えていた。
そのほか、毎週木曜日と日曜日には、シニアデーや子育て支援といった販促キャンペーンと組み合わせることで最大15%引きとなるキャンペーンを行っていたが、結果として特定の曜日に人員が集中し、従業員1人が1時間で生み出せる利益(人時効率)が低下する傾向にあった。

そこで上期はマルエツとマックスバリュ関東に先行して、専用のプリベイドカード「Scan&Go」や、同名のアプリを用いたポイントプログラムへの切り替えを実施した。値引きが前提となっていた価格を元に戻して収益性の改善を図るとともに、顧客情報を把握し、より個々に即した販促方法を取ることをねらいとしている。
今後は、従来配布していた紙のクーポンや販促キャンペーンのポイントなどの機能を、すべてカードやアプリに集約する。

具体的に上記には、6月に顧客へのカードの周知と発行を始め、7月からポイントプログラムの運用を開始した。こうしたなかで、お客への周知や理解の浸透に時間がかかったことから、売上高や営業利益がともに低下した。
しかし、10月時点で会員数は100万人を突破し、営業数値全般も回復に向かいつつある。下期は、ポイントプログラムを利用した価格プロモーションを個客ごとに実施するなどして、収益構造の「質的な転換」を図る構えだ。

U.S.M.Hの藤田元宏社長は「カスミの減収減益は、当初の予算計画に織り込んでいなかった。経費の構造も含め、通期決算に向け、計画そのものを見直していく」と話した。

マルエツ、マックスバリュとも
デリカの売上が増加

マルエツ川口樹モールプラザ店

そのほか、事業会社別に24年度の上期の取り組みや結果について振り返りたい。

マルエツでは「リンコス 白金ザ・スカイ店」(東京都港区)、「川口樹モールプラザ店」(埼玉県川口市)の2店を開店した。既存の50店舗についても、冷凍食品やアイスクリーム、デリカの取り扱いを強化。コロナ禍の収束に合わせて、デリカとベーカリーを一体化したレイアウトに変更したり、デリカの主力商品を月ごとにリニューアルするなど、売場活性化に向けた取り組みを実施した。その結果、部門別の売上高は107%となり、売上の伸長に寄与した。

下期は170店舗に「UberEats」や「出前館」などのデリバリープラットフォームと連携し、200店舗でお客がスマホで注文した店舗の商品を配送するなど、デリバリーに力を入れていく。
また、214店舗にフルセルフレジを、110店舗に電子棚札を導入し、省力化や省人化を実現する新たな店舗オペレーションモデルの構築にも取り組む予定だ。

猛暑の影響で
来客時間帯が変化

マックスバリュエクスプレス幕張店

マックスバリュ関東では、商品部内に専門組織を立ち上げ、同組織による地域商品の発掘・開発や「全国まいもん市」などのイベント販促などに力を入れた。

23年夏は猛暑が続き、お客の来店時間帯が日中から夕刻中心にシフトしたことから、夕刻帯の販売も強化した。とくに生鮮総菜をはじめとしたデリカは前中期経営計画から力を入れており、独自商品の開発を推進。夏場の売れ筋であるフローズンの販売にも力を入れ、粗利率は同0.4%増となった。

下期も、独自商品の開発推進を進めるほか、EC商品の品揃え拡大や、無人店舗の展開などデジタル改革に取り組んでいく予定だ。

「Scan&Go」を皮切りに
店舗DXを推進

来年以降、小売流通業界への影響が懸念されているのが、「物流の2024年問題」だ。
24年4月1日以降、配送ドライバーの時間外労働時間の上限が年間960時間に制限される。労働時間が短くなることで、社会全体で配送現場の人手が不足する可能性が懸念されている。

藤田社長は物流の2024年問題について、「24年になってからではなく、前もって物流を効率化するための取り組みを進めていきたい。すでに取引先業者との間では、契約変更などについて議論を重ねている」とした。
店舗への配送便の数を適正化する、毎日納品するべき商品を減らすなど、具体的な方策は複数想定しており、「荷主と取引先業者と協同しながら効率化を考えている」と述べた。

カスミのポイントプログラム「Scan&Go」を皮切りとして、同社では今後はマックスバリュ関東、マルエツも含め店舗DX化に向けたさまざまな取り組みを各社で推進し、収益性の改善、顧客との接点拡大を図っていく構えだ。お客への認知が浸透した際に、同社の収益性にいかなる変化をもたらすか、注目したい。