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セブン-イレブンの残業手当一部未払い問題に学ぶ どの企業にもありうる“労務管理の落とし穴”

12月10日、セブンイレブン・ジャパン(東京都/永松文彦社長:以下、セブン-イレブン)が、コンビニエンスストア店舗で勤務する従業員の給与支払いにおいて、残業手当の一部が支払われていなかったことを発表した。国内流通業を代表する大手企業でなぜこのようなことが起きてしまったのか。専門家の分析によりその要因を紐解き、同様の問題を発生させないためのヒントを提示する。

12月10日、セブンイレブンは残業手当の一部が未払いだったことを発表し謝罪した

労働基準監督署の指摘で
計算式の一部にミスが発覚

   今回の問題のあらましをあらためて説明しよう。

 セブン-イレブンでは、コンビエンスストア各店で雇用されている従業員への給与の支払いは、フランチャイズ契約に基づく店舗経営支援策の1つとして、本部がオーナーの代わりに行っている。今回の問題は、この代行業務において「時給勤務者」の残業手当を算出する計算式の数値設定が誤っていたことにより生じている。

 具体的には、残業手当のなかでも「精勤手当※1」「職責手当※2」という特別手当の計算式を「残業時間×(精勤手当+職責手当÷月所定労働時間)×1.25」とするべきものを、計算式の数字「1.25」「0.25」と低く設定していたものだ。19年9月、労働基準監督署からある加盟店に対して、この残業手当の一部未払いについて是正勧告が入ったことにより明らかになった。

※1 休まずに出勤したり、熱心に勤務に励んだりした場合の手当 ※2 「シフトリーダー」など責任ある職務に対する手当

過去に問題が発覚するも
公表、支払い対応せず

 セブン-イレブンが給与支払い記録を遡ると、誤った計算式が設定されたのは2001年10月。実はこの際にも、労働基準監督署から加盟店に是正指導が入っており、「時給勤務者」に対して「精勤手当」と「職責手当」が、また「固定給勤務者」に対して「精勤手当」の項目自体が算入されていないことが判明していた。そこで、「時給勤務者」へ「精勤手当」と「職責手当」の項目を追加する際に計算式を間違って設定したという。

 そして、さらなる過失が明らかになる。この01年に残業手当の一部未払いが発覚した際は、セブン-イレブンはその事実を公表せず、それまでの未払金に対して対処をしていなかったのだ。当時の社内の議事録を確認しても、議題に上った記録すらないそうで、永松文彦社長は「なぜこのような対処方法になってしまったのか現段階で究明できていない」と述べている。

未払金の合計額は
少なくとも約4.9億円

 また、支払い記録自体もセブン-イレブンで保存できているのは12年3月~19年11月までの7年9カ月のみで、未払いがいつから発生していたのかは不明という。この7年9カ月間だけでも、対象となる店舗数は8129店、従業員数は3万405人で、未支払い金の合計は約4.9億円(遅延損害金を含む)に上る。

 労働基準法では、従業員の未払い給料の請求権の時効は2年と定められている。そうしたなかセブン-イレブンでは、期限を設けず未支払金を支払う方針だ。セブン-イレブンで記録を保存していない12年2月以前の対象従業員については「給与明細などの証明書類を提出していただければ支払う」(永松社長)としている。

「うっかりミス」が大問題に
二重、三重の確認は必須!

 今回の問題はなぜ起きてしまったのか。セブン-イレブンはその要因について、「適用法令の理解が十分ではなかったこと」、「給与支払い代行業務におけるチェック体制が不十分で長期間にわたり気づくことができなかったこと」の2点を挙げている。

 これに対して社会保険労務士法人人形町事務所代表の竹前彰氏は「『適用法令の理解が十分ではなかった』としているが、精勤手当、職責手当ともに残業代を計算する上で、算定基礎になる手当と認識していることから、法令の理解不十分というより『給与計算業務上のうっかりミス』と言った方が正しい」と話す。

 竹前氏が最大の要因とみているのが、セブン-イレブンが給与計算業務において、その方法が正しいのか第三者に確認の依頼をしていないと推測される点だ。

 一般に給与計算業務は、中小零細企業では、人事労務や経理にそれほど人員を配置するのが難しいため外部に委託するケースが少なくない一方、大手企業の場合は、人事労務部門や会計部門などで、自社で行っている場合が多い。セブン-イレブンは後者だった。

 「当事務所で企業の給与計算業務を請け負う場合、担当者が計算後、少なくともその他2人の担当者により、二重、三重でチェックしミスの発生を防ぐようにしている。また、疑問点があれば直接、労働基準監督署に確認している。こうしたチェックをセブン-イレブンが自前で行っていたかは疑問だ」(竹前氏)。

セブン-イレブンの永松社長

第三者機関を
利用することの重要性

 今回の計算式の設定ミスについては、物理的には給与計算ソフトの設定変更などにより完結するという。しかし竹前氏はその深層にあるセブン-イレブンの課題を指摘する。

 「残業手当の計算だけでなく、今まで何の疑いも無くやってきた労務管理の手法が本当に適切なのか、外部の第三者機関に依頼して精査してもらうべき。セブン-イレブンは、外国人労働者の採用も進めており、給与計算業務はさらに煩雑化していると想定され、現在の体制のままでは今後そのほかの問題も起こりうる可能性がある」。

 “24時間営業問題”、独自のバーコード決済「7pay」の不正利用問題、さらに今回の残業手当の一部支払い不足と、立て続けに組織のあり方を問われる問題が生じたセブン-イレブン。永松社長は「創業から45年が経過し、大きく環境が変わるなか、われわれがそれに合わせて変わることができていなかった」と述べている。

 竹前氏によると「セブン-イレブンのように、給与計算をはじめとした労務管理において、長いあいだ何の疑いもなく誤った方法を続けている企業はほかにも十分ありうる」という。セブン-イレブンの事例を他人事と思わず、今一度、自社の労務管理が本当に正しく行われているのか、第三者の視点からチャックしてみるべきかもしれない。