コロナ禍や物価高騰、円安など消費市場に逆風が吹き荒れる中、しまむら(埼玉県/鈴木誠社長)が2023年2月期決算で、3期連続となる増収増益を達成した。機能性やファッション性など付加価値を高めた高価格帯のPBを増やし、プロパー消化率を引き上げるなど、売上や利益を高めるMDが奏功した。一方で、売場の作業効率化で人件費を抑制するなど販管費の削減も進め、2030年度までに営業利益率を10%に引き上げる方針だ。
聞き手=阿部幸治(本誌)、構成:野澤正毅 *インタビューは2023年5月下旬に実施
3期連続の増収増益を達成
――コロナ禍に加え、物価高騰や円安など厳しい環境が続くなか、23年2月期(22年度)は3期連続となる増収増益を達成しました。
鈴木 2023年度までの中期経営計画「リ・ボーン」でこれまで取り組んできた、一連の MD(商品政策)改革が奏功しつつあるのが大きな理由でしょう。端的に言えば、セールを柱にした価格訴求に依存するのではなく、プロパーでも消化できる価値ある商品を増やしてきました。そうした路線がお客さまに支持され、数字にも表れたと考えています。
――既存店ベースでは客数も堅調ですが、客単価がとくにアップしています。
鈴木 2022年度下期のしまむら事業を例にすると、衣料品は買い上げ点数が減ったものの、一点単価は対前期比6.5%増となり、結果として客単価が上がりました。商品価値に加え、当社の強みである競合店と比べての“安さ”、つまり「値ごろ感」が支持された結果です。
値上げしても、品質も上がっていることを店頭や販促でお伝えできれば、お客さまは納得して買ってくださいます。例えば、洋服などはシーズンごとに商品が入れ替わるので、新商品は原材料やコストアップを反映させて、価格帯を引き上げていますが、同時に機能性やファッション性といった付加価値も高めています。一方、インナーや靴下などの実用衣料は、値上げをなるべく抑えています。同じ商品で値上げすると、実質的に価値が下がるからです。
PBのプレミアムラインで、ヒット商品が続出
――付加価値を高めるMDの例を教えてください。
鈴木 体感温度が最大7℃下がるというデニムパンツ「素肌すずやかパンツ」などプライベートブランド(PB)「クロッシー」のプレミアムラインを拡充する一方、サプライヤーとの共同企画商品「JB(Joint Development Brand)」も磨きがかかってきました。海外の一定の生産ラインを予約で確保しているので、売れ筋を期中追加できるのも強みです。現在は20~30%が期中生産で、発注から30~40日で納品できます。売れ筋が最盛期に間に合うためプロパー消化率も高く、売上や利益率アップに貢献しています。
――4月に発表した長期経営計画で、2030年2月期までに営業利益率10%の実現を掲げました。
鈴木 セールの縮小、在庫コントロールなどで値引きロスを減らして、まず粗利益率35%(売上利益率で23年2月期34.08%)を達成します。一方で、販売管理費率も25%(同25.66%)に抑えます。ローコスト経営のため、広告のデジタル化で宣伝費を抑えたり、出店をより厳選して賃料を抑制したりと、さまざまな手立てを講じています。検品などを効率化するシステム開発も検討しています。
――高騰する人件費については。
鈴木 給与アップは経済界の総意であり、優秀な人材を確保するためにも、“賃上げ”は必要です。当社も正社員で22年に5.6%、23年には6.5%、パート社員で各年4.6%、5.2%という大幅な賃上げを行っています。
そうしたなか、人件費をどう抑えていくか。「店舗の無人化や自動化を進めるのか」とよく質問されますが、ファッション小売業であるしまむらでは、一定の接客は維持するべきです。そこで、人件費の約70%をパート社員の賃金が占めるなか、品出しや売場のメンテナンスの見直しなどで作業効率化を図り、必要人時を減らすことで、人件費の削減を進めていきます。