メニュー

1店舗で年商60億円!青森の強力ローカルスーパー、紅屋商事の強さの秘密!

紅屋商事(青森県)は、青森県および秋田県内で食品スーパー(SM)、ドラッグストア(DgS)、SMとDgSを融合させたスーパーセンター(SuC)の主に3つのフォーマットを展開する小売企業だ。なかでもSuCの「カブセンター」は、約60億円の年商を誇る店もあるなど抜群の販売力を持つことで知られる。人口減少が著しい縮小マーケットで圧倒的な競争力を持つ同社の経営戦略について、2018年にトップに就任した秦雅秀社長に聞いた。

圧倒的な差別化には最低でも800坪が必要

はた・まさひで 1953年生まれ。明治大学卒業。 1975年、紅屋商事入社。 97年、代表取締役専務に就任。 2018年より現職。

──SMの「ベニーマート」、DgSの「メガ」、そしてSMとDgSを融合させたSuC「カブセンター」を展開しています。秦社長はこの3業態のすべてに開発から携わったそうですが、どのような考えで店づくりを行ってきたのですか。

 現在、主力フォーマットとなっているのはSuCのカブセンターです。売場面積は約850坪が標準で、年商は20~30億円、一番店の「カブセンター弘前店」では約60億円を売り上げます。

 紅屋商事はもともと、私の父が1951年に開業した毛糸店から始まり、その後60年代に青森市と弘前市で総合スーパー(GMS)を開業しました。そして80年代に入ってSMのベニーマートを出店し、本格的なチェーン展開に乗り出したという経緯があります。SM事業に参入した理由は、米国で流通視察ツアーに参加した際、多くの人々が郊外のショッピングセンターで買物していて、ロサンゼルスのダウンタウンが閑散としているのを見たためです。当時、日本ではまだまだ街中の商店街が元気な頃でしたが、とくに青森のような公共交通機関の乏しい地方では早晩同じような状況になると思い、郊外立地のSMを出店しようと思い立ちました。

 ただ、われわれは当時、生鮮食品の販売ノウハウがありませんでしたので、関西スーパーマーケット(大阪府)さんに私を含めて計3人で3カ月間見習いに行かせてもらいました。そしてなんとか81年12月に、弘前市内のSM1号店「ベニーマート松原店」の出店にこぎつけました。

──その後、SuCとDgSの展開にも乗り出します。

 88年に、現在のカブセンターの前身であるSuC業態「カブフーズ弘前店」を弘前市郊外に出店しました。当時は店の周りにほとんど人が住んでいないような場所で、平日の集客は難しいと最初から割り切り、土曜・日曜のみに営業することにしました。その独特な営業スタイルから、取引先には「紅屋商事は倒産するのではないか」と訝られましたが、蓋を開けてみれば大成功でした。

 なぜかというと、土日しか営業しないので商品は基本的に全部売りきらないといけない。お客さまからすると、鮮度のよい商品を安く買えるということで、大きな支持を集めたのです。

 SuCの出店とほぼ同時に、米国でSMの至近にDgSが出店しているケースが多いことをヒントに、DgSの「メガ」の出店を開始しました。そして2001年にSMとDgSを融合させたSuCとして、前述のカブフーズ弘前店をスクラップ&ビルドし、土日営業から毎日営業に切り替えて、「カブセンター弘前店」を開業したという流れです。

──繁盛店で年商60億円を稼ぎ出すカブセンターをはじめ、紅屋商事の店舗は圧倒的な販売力を有していることで知られます。秦社長はどういう点が同業他社に対する強みになっていると考えますか。

 1つは売場のサイズと品揃えです。これまでいろんなフォーマットに挑戦してきてわかったのが、競合と差別化するためには最低でも800坪の売場面積が必要だということです。

 日本のSMはかつて300坪タイプが主流で、大きくても450坪程度でした。そのスペースに販売が自由化された酒類や、中食需要の高まりとともに総菜やインストアベーカリーといった部門を詰め込んでいった結果、日用雑貨を縮小せざるを得なかった。そのため今日ほとんどのSMは日用雑貨では戦えなくなっていて、台頭著しいDgSに奪取されているのです。しかし、食品と一緒に日用品を買えるという利便性に対するニーズは今もあります。

 生鮮、グロサリー、総菜、インストアベーカリー、日用雑貨を適正な規模で展開するためには、800坪程度の売場が必要というわけです。青森県ではユニバース(三浦紘一社長)さんが強力な存在ですが、その理由の1つには食品のみならず日用品も充実していることがあると思います。

「売る力」と地域密着MDで成長

──売場を見てみると、商品の特性や情報を伝える手づくりのユニークなPOPが至るところに掲げられています。こうした従業員の「売る力」はどのようにして育成したのですか。

 2010年にスタートした社内プロジェクト「ナンバーワンプロジェクト」の存在が大きいと思います。これはあらかじめ選定した商品を「1店舗あたりの販売数で日本一売る」ということをミッションにしたものです。メーカーさまにも協力をいただきながら、陳列方法やPOPを工夫するなどして、100商品で日本一を達成することを目標に取り組みました。

 16年に達成できたので現在は休止していますが、従業員はこのプロジェクトを通じて販売力を大きく鍛えたと思います。

──店舗の従業員が創意工夫して商品を売り込む、ということが浸透しているのですね。

 今も、「トップダウンで行わない」ことをルールに、販促手法については従業員に大きな裁量を与え、POPのデザインも文言も自由につくってもらっています。

 たとえばある店では、従業員が化粧品を実際に使い、使用前・使用後の写真をPOPに顔出しで掲載したり、サプリメントの効能を示すために健康診断での数値変化をPOPで開示したりと、ユニークなものも多くあります。どれも店長や本部が強制しているわけではなくて、皆が自発的に取り組んでいるのです。そうしたが文化が社風として浸透しているのがわれわれの強みかもしれません。

──商品政策(MD)についてはどのようなコンセプトで構築していますか。

 MDでは地域密着を徹底的に追求しています。全国チェーンのSMでは真似できないような、地域ごとに異なる細かなニーズの違いをとらえたMDを導入していることも、今の好調な業績につながっていると思います。

 たとえば同じ青森県でも弘前と八戸では赤飯の味が違うなど、食の文化や慣習は大きく異なります。そのため総菜では地域ごとに味付けを細かく調整しています。また、秋田県では地酒が好まれるため、県内の酒蔵を訪ねて取引をお願いしたり、オリジナル商品をつくってもらったりもしています。こうした細かな取り組みをエリアごとに行っているため、店によって品揃えは大きく異なります。

──地域密着型のMDを導入するうえでは、本部主導ではなく個店でのMD構築がカギになりますね。

 MDの策定にあたっては、店長、本部のバイヤー、エリアごとに配置しているスーパーバイザーの3者が密に連携して取り組んでいます。

 もちろん、この方法は手間も人手も時間もかかります。しかし、地域の特性に合わせた緻密なMDを導入することでお客さまに支持され、競合他社よりも1店舗あたりの売上高を大きくすることができるわけです。“コピー&ペースト”のように店を増やせないので、出店スピードが遅くなるというデメリットはありますが。

必要とされるのであれば業態にこだわりはない

──出店戦略ついてはどのような考えで進めていますか。

 今年度は「カブセンター五所川原店」を新規出店したほか、DgSのメガで大規模改装を1店舗行いました。基本的には新規出店と既存店改装をバランスよく行う方針で、「かつての繁盛店(=改装の対象)」「現在の繁盛店(=現状維持)」「未来の繁盛店(=新規出店)」の3つに分けて、人やカネといったリソースを3分の1ずつ配分するという考え方です。

 また、「市町村」のうち「町」と「村」には出店しません。売上が漸減することが最初からわかっているような立地よりも、激戦地に出店して競合店から売上を奪取することを選びます。厳しい競争に打ち勝つことで、会社も従業員も成長できるという考え方です。

──比較的大型のフォーマットを主軸としていますが、人口が減少し商圏が狭小化するなかで、SM業界では小型店開発が1つの潮流にもなっています。小型店を含め、新たな業態の開発は検討されていますか。

 次代の業態についてももちろん考えていますが、具体的な内容は言えません。とにかく、私はいつまでも同じスタイルでビジネスをしたいとは思っていません。

 従業員に対しても、「時代は常に変わっていく。紅屋商事も時代にジャストフィットしていかなければならない」と繰り返し言っています。実際、われわれは毛糸屋からGMS、SM、DgS、SuCと店のかたちを変え続けてきたからこそ生き残ってきたわけです。

 今のところはうまくいっていますが、10年後に今展開している業態で成長し続けられるかはわかりません。もしかしたら、ビジネスモデルが根底から大きく変わっているかもしれない。

 いずれにしても、お客さまに必要とされる小売業であり続けることが大前提なので、業態にこだわりはありません。

紅屋商事企業概要

設立 1959年(創業1951年)
本部 青森県弘前市高田4-2-10(本社:青森県青森市)
資本金 5000万円
売上高 431億円(2019年3月期)