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最大の課題、客数をしっかり伸ばす! 新社長の本間正治氏が語るマルエツの戦略

 5月24日、マルエツは埼玉県川口市に「マルエツ川口樹モールプラザ店」をオープンした。同日開催された記者会見では、今年3月に新社長に就任した本間正治氏が今後の戦略を語った。その中身を抄録する。

今年3月に新社長に就任した本間正治氏

めざす姿を従業員に
ストーリーで提示

 今期(24年2月期)はユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(東京都:以下、USMH)の3カ年中期経営計画の初年度となる。この重要な年を前に、若手を含めたマルエツ社員でディスカッションし、会社としてめざす姿を明文化した(写真下)。

マルエツが明文化した「ありたい姿」

マルエツが掲げるブランドメッセージ「しあわせいかつ。」を基本に、お客さま、従業員、そして地域の暮らしを支える、いちばん近い存在になりたいというという想いを込めた。従業員が一丸となって取り組める活動指針となるように、めざす姿を1つのストーリーとしてまとめている。

「しあわせいかつ。」は「Well-Being」を表現している。店舗の外装・内装には、地域の生活者のなかにマルエツの存在があり、未来の「Well-Being」や多様な人々の「しあわせいかつ。」につながっていくシーンを表現するグラフィックを施した

 このビジョンのもと川口樹モールプラザ店では、多様な価値観への対応を強化した。具体的には、近年の新店でも注力してきた「鮮度」「商品との出会い」「ストレスゼロ」「繋がり」の4つの価値の提供に注力している。

取引先、生産者との
連携で独自化を図る

 なかでも「鮮度」では、青果部門のトマトやサラダかぶにおいて、収穫から24時間以内に店舗で販売する取り組みを行っている。生産者の方々とは売上動向などをみながら「次は何を作付けするか」といったところまで一歩踏み込んで連携を図り、価格ではなくて価値を訴求していきたい。

 今後はマルエツでしか買えない商品など、独自の価値がなければ来店動機はつくれない。そのためにはお取引先、地域の生産者の皆さんとも一体となって店づくりを進めていくことが重要だ。

PCに投資して
「しっかり使い切る」

 精肉部門では、プロセスセンター(PC)の活用により、人手を省きつつも鮮度が高く強いMD(商品政策)の実現を図る。川口樹モールプラザ店では鶏肉や豚肉は全体の約9割をPCから供給する一方で、地域いちばんをめざす牛肉や焼き肉の盛り合わせはインストア加工し提供している。

精肉部門のPCを活用した商品
インストア加工の焼き肉盛り合わせ

 これまでPC活用は店ごとの判断に委ねている部分があった。しかし今後はPCに投資し生産効率を高め、PCの機能を「しっかり使い切る」ことを徹底していかなければ収益構造を改革できない。

 鮮魚部門では、パン粉付けを済ませたチルドフライの「お魚屋さんのフライ」をコーナー化している。鮮度の高い素材を使い、パン粉付けはPCでまとめて行うなど、効率化も図りながらおいしさを追求していきたい。

チルドフライの「お魚屋さんのフライ」をコーナー

トップバリュをチラシ掲載
でも闇雲には増やさない

 独自商品については、主軸の留め型商品である「maruetsu365」をしっかり売っていく。イオン(千葉県)グループのプライベートブランド(PB)「トップバリュ」については、今年の4月からチラシへの掲載を始めた。

 なかでも低価格訴求の「トップバリュベストプライス」は、ナショナルブランド商品の値上げが続くなか、お客さまの生活を応援できる商品だ。しかし、闇雲に「トップバリュ」商品の取り扱い構成比を上げることはせず、棚割りではしっかりマルエツの独自性を主張していきたい。

SKU数を15%絞り込み

SKU数を絞ることで、一定のフェースをとって商品を面で訴求する

 商品構成についても改革を図っていく。同店の取り扱いSKU数は8200で、同規模既存店と比較して、全体的に各カテゴリーで15%ほど絞り込んでいる。目的は、売場でしっかり存在を主張するべく、一定のフェースをとって商品を面で訴求するためだ。
 またオペレーション面でも、商品の補充頻度を減らすことができる。

新しい試みはまず
既存店で成果を出す

 私は新しい試みは、まず新店でやるのではなく、できるだけ既存店で実証し、効果が出たものを新店に導入する方法がよいと考えている。

 新店はパートナーさんの研修がきちんとできてこそ成り立つからだ。先ほどの精肉のPC活用は、すでに既存店で実装している(一部店舗を除く)。SKU数の絞り込みも5月の棚割りからすでに既存店で実施し、売場で商品が見やすい、選びやすいといった効果が出ている。

各カテゴリーで進む
“デリカシフト”

精肉売場では「おつまMEAT」

 これからのMDについては、川口樹モールプラザ店では、鮮魚売場では「お魚屋さんのおつまみ」、精肉売場では「おつまMEAT」といった酒のつまみになるような即食商品のコーナーを設置した。これらはお客さまから見れば総菜だ。
生鮮以外にも、加工食品部門ではスープが増えるなど、各カテゴリーの売場で即食性の高い商品が増える“デリカシフト”が進んでいる。

 こうしたなか従来の総菜売場もあるなかで、お客さまにとってどのような売場が利便性が高いのか見極めていく必要がある。
お客さまのこれからのニーズに応えられる売場を実現するには、商品分類や、商品部や店舗の運営体制のあり方から見直すことも求められてくると考える。

客数を伸ばして
トップラインを上げる

 2022年度(23年2月期)決算は、非常に厳しい結果となった。とくにマルエツは17年から 6期連続で客数が前年割れとなっている。コロナ感染が広がった20年は、客数ではなくて客単価で売上が伸びた構造であり反動減の影響を大きく受けた。

 今年の最大のテーマは、トップラインをしっかり上げることだ。売上が増えるのは、お客さまに支持されることであり、まずは客数を伸ばすことが最大の課題だと思っている。

 今期もすでに2カ月が過ぎた。4月には消費者の傾向が一転し、客数が対前年同月比104.2%と大きく増えた。5月も雨の日はあれども客足は止まっておらず、都市部の「マルエツプチ」を中心に客数が2ケタ伸長してる店もあり、人流が変化している。

 しかし、人が動くからといって必ずしもマルエツの来店につながるとは思っていない。われわれはこれまでどちらかというと“内向き”だったため、もっとお客さまに向けて提案や情報発信をしていく必要がある。

 コロナ禍で賑わいにつながる販促企画や集客策は控えていたが、節目が変わったこともあり、各地域、各店舗で行っていきたい。そしてそれを本部がしっかりサポートしていく。

アプリ活用によって
パーソナルな対応を

今年は「マルエツアプリ」の会員数を10万人増やしたい考えだ

 多様な価値観への対応では、従来のチラシだけではなくて、アプリによって個々に寄り添った提案を図っていきたい。現在、「マルエツアプリ」の会員数は約35万人で今年はさらに10万人増やしたい。リアル店舗だけでなく、デリバリーなども交えて、パーソナルな対応を追求していく。

 「LINE」や「Twitter」などのコミュニケーションツールも活用し、デジタルに馴染みのある若い世代が、マルエツをアピールできる方法を楽しみながら、積極的に取り組んでいけるような組織風土に変えていきたい。

 小売業は、やはり店舗で働く「人」が重要だ。高性能なデジタルソリューションを導入してもそれだけでは店はよくならない。そのため社員との向き合い方も今まで以上に大事にしていく。

「マルエツプチ」は
早期のモデル確立を急ぐ

 今後の出店については、やはり都市部が中心になるだろう。東京都だけにこだわることはなく、今回のような埼玉県川口市など、マーケットがしっかりあるエリアは優良な物件があれば出店していきたい。

 店舗フォーマットは、300~500坪の「マルエツ」を毎年しっかり出し続けることが会社全体の業績の押し上げや、商品政策の発展につながると考える。

 小型フォーマットの「マルエツプチ」は現在74店舗を展開している。しかし今後100店舗、200店舗と拡大できなければ成長の柱にはなれない。まずは、それくらい多店化可能なモデルの早期構築を図る。

 もう1つの上質フォーマット「リンコス」は、高層マンションなどから「リンコス業態で出店してほしい」というお声がけがいただくことも多く、出店機会の獲得につながっている。

 現時点ではこの3フォーマットでの展開だが、今後は次世代に対応するフォーマットを開発していかねば、この厳しい競争環境下で次のステージにはいけない。

 USMHの中計では、既存のスーパーの歴史と概念を尊重しながらも、それを越える事業構造をめざす「Beyond Supermarket」を掲げている。マルエツでも次のスーパーマーケットに資するような取り組みを、この3年間で試行錯誤しながらやっていきたい。

【マルエツ川口樹モールプラザ店概要】
所在地    埼玉県川口市栄町3-13-1
売場面積   1041㎡ 
営業時間   9:00~25:00