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成長に黄信号 生鮮宅配の王者・生協「次の一手」とは!?=日本生協連 嶋田専務

これまで生協は宅配事業が全体の成長をけん引してきた。しかし2019年度に入ってからは屋台骨である宅配事業が前年実績を割り込む月が続いている。この状況をいかにとらえ、今後生協はどのような成長戦略を描くのか。全国の生協の連合会である日本生活協同組合連合会(東京都/本田英一代表理事会長:以下、日本生協連)の嶋田裕之代表理事専務に聞いた。

聞き手=阿部幸治/構成=松岡由希子(フリーランスライター)

消費者は多様なチャネルを使い分ける傾向に

しまだ・ひろゆき●1963年千葉県出身。99年ちばコープ(現コープみらい)常務理事、2002年同専務理事。02年コープネット事業連合(現コープデリ連合会)常任理事、05年同常務理事、07年同専務理事。08年日本生活協同組合連合会執行役員事業企画室室長、10年同常務執行役員事業企画室室長。11年同常務理事、13年同代表理事専務

──日本生協連に加盟する65の主要地域生協の供給高(小売企業の商品売上高に相当)を見ると、2019年度は8月までの累計で、宅配事業が対前年同期比0.3%減、店舗事業が同1.9%減。これまで成長を支えてきた宅配事業の失速傾向が続いています。

嶋田  19年度の宅配事業については、例年より長い10連休となったゴールデンウイーク期間が供給高の減少に大きく影響しました。供給高で全国上位の大阪いずみ市民生活協同組合(大阪府/勝山暢夫理事長)が職員の働き方改革の一環として同期間の配送を休業したほか、連休中の遠出などを理由に全国的に商品の受注率が落ち込みました。

 加えて、例年より梅雨の期間が長く気温の低い日が続き、飲料やアイスクリームなどの夏用商材が伸び悩んだこともマイナス要因となっています。

 しかし、経常剰余金(小売企業の経常利益に相当)では、店舗事業は前期実績を下回っているものの、宅配事業は前期と同等額を確保しています。要因の1つは粗利益率の改善です。特売品を訴求するハイ&ローの価格政策から、付加価値型プライベートブランド(PB)商品の提案をはじめ、商品の価値を訴求する施策へとシフトを進めたことが奏功しています。

──食品小売業界の競争が激しさを増しています。宅配事業の供給高の低迷はその影響を受けていると感じていますか。

嶋田  やはりその影響も大きいと思います。食品小売市場が成熟化する一方で、食品スーパー(SM)はもとより、ドラッグストアやコンビニエンスストアといった異業種が攻勢を強めるとともに、アマゾン(Amazon.com)などのEC専業企業も台頭しています。18年度の全国123の地域生協の組合員数は合計2227万人で前年度より1.8%増加しましたが、組合員1人当たりの月利用高は同0.8%減となっています。このような結果から、実店舗、オンラインともに供給チャネルが多様化するなか、消費者は生協宅配を利用し続けながらも、用途などに応じて複数のチャネルを使い分ける傾向にあると感じています。

 今後、食の領域だけで供給高を伸ばし続けるのは限界があるでしょう。そうしたなか、あくまでも食を主軸にしながらも、食事配送や、病院や保育施設での給食サービスなど周辺領域のマーケットを開拓していくことが持続的な成長のために必要だと考えます。

──生鮮ECに参入する企業が増える一方で、イオンリテール(千葉県)の定期宅配「クバリエ」や、アマゾンジャパン(東京都)の生鮮EC「Amazonフレッシュ」などはなかなか事業拡大に至っていません。

嶋田  各社の課題は、最終拠点から消費者の手元に商品を届けるラストワンマイルの部分でしょう。アマゾンジャパンについては商品のピッキングや鮮度管理などにおいて非常に優れた物流センターを有しています。しかし生協のような全国を網羅できる自前の物流ネットワークをこれから構築するのは、人手不足が深刻化するなか困難だと考えられます。

全国で約2000人の配送員が足りない

全国の生協で2000人以上の人員が不足していると嶋田専務は言う。

──生協宅配では人手不足でどのような問題が生じていますか。

嶋田  19年度は、採用難により欠員の補充が計画どおりに進んでいません。実は前年度と同程度の経常剰余金が維持できているのは、これによる人件費の減少も理由の1つです。

 なかでも人手不足が深刻なのが、宅配事業の根幹を担う配送部門で、全国の生協で2000人以上の人員が不足しています。配送業者も同様に人手不足で、外部委託によって欠員を補うのも難しいのが現状です。当面、間接部門の職員を優先的に配送部門に充てていますが、これによって生協への新規加入者獲得のための活動が十分に展開できず、事業の持続的な成長に影響を及ぼすおそれがあると懸念しています。

──配送における人手不足対策ではどのような施策を打っていますか。

嶋田  生協宅配の最大の強みは、組合員との接点です。毎週、同じ職員が組合員と対面でコミュニケーションを図ることで信頼関係を育んできました。しかし配送部門で欠員が増えたり、配達職員の定着率が下がったりすると、その接点が薄れてしまいます。

 これを防ぐために、配達職員の労働環境の整備や、業務負荷の軽減を進めています。たとえば、配送用車両の運転しやすい軽自動車への切り替えや、配送ルート再編による走行距離の短縮、カーナビゲーションシステムと連動した配送支援システムの導入などに取り組んでいます。

 人工知能( A I )や情報通信技術(ICT)といったIT技術も効果的に活用していきたいと考えています。たとえば、購買動向分析をもとに各組合員のニーズに沿った提案が行える支援システムを導入すれば、配達職員の能力や習熟度にかかわらず、組合員との接点を強化できるようになります。

──配送の効率化のために、ほかの事業者との共同配送を始める考えはありますか。

嶋田  大手ビールメーカーが商品の共同配送を開始するなど、さまざまな業界で配送の共同化が広がっています。将来的には生協でもありえるでしょうが、生協宅配の生命線とも言える“組合員との接点”としての配送を維持するために、まずは地域生協間での共同配送を進めるべきです。具体的に話が進んでいるわけではありませんが、マテリアルハンドリング機器のサイズ統一や、配送管理システムの共通化などを実現させれば可能であり、生協として生産性向上を図る余地はまだまだあると考えています。

店舗事業は規模を維持まずは収益性の改善へ

 

──その一方、店舗事業の供給高については、供給高全体に占める割合が3分の1を下回るようになっています。今後の店舗事業のめざす方向を教えてください。

嶋田  店舗事業は、既存店の改装、新規出店を計画的に進めてきた結果、低下傾向にあった供給高が近年は回復しつつありました。しかし、17年頃から競合SMや他業態の出店攻勢の影響を受けています。こうしたなか、現段階で供給高を大きく拡大していくのは難しいでしょう。現在の規模を維持しながら、まずは収益性の改善に努めていきます。

 日本生協連は11年に策定した20年までにめざす生協像「2020年ビジョン」において「各地域で過半数世帯の参加」を掲げています。こうした地域シェア向上を図るなかで、店舗は未加入者を含めて地域の人々とつながるための接点の1つとして重要な存在です。今後は事業全体での成長をめざし宅配事業との相乗効果もより発揮させていくべきだと考えます。

若い世代の取り込みがポイントと嶋田専務。  写真: gettyimages/JGalione

──店舗事業の経営改革に向けて、どのような取り組みを行っていますか。

嶋田  店舗事業のほとんどは、地域生協ごとに“孤軍奮闘”しているのが現状です。そこで20年度から、日本生協連の事業支援本部が事務局となり、各地域生協の店舗事業を横断的につなぐ会議をスタートする計画です。地域生協の専務クラスに参画してもらい、各生協の店舗事業を比較、分析し、構造改革や課題解決に取り組みます。

 これまでにも日本生協連では、総菜部門の競争力の高さに定評のある、いわて生活協同組合(岩手県/飯塚明彦理事長)をフィールドに原料調達から商品企画、利益管理までを学ぶ「総菜学校」を実施し、参加生協の粗利益率の改善や品揃えの強化につなげている事例があり、こうした取り組みも積極的に進めていくべきでしょう。

“ダサい”印象を払拭しライフスタイルの1つになる!

──10月以降の消費税増税ではどのような影響が出ていますか。

嶋田  軽減税率の導入や「キャッシュレス・ポイント還元事業」の実施により、多くの消費者が混乱し、小売業者も戸惑っています。宅配事業では、8月以降に衣料品や住居関連品の供給高が多少伸びましたが、14年の8%への消費増税時と比べると駆け込み需要は小さく、一方で増税後は供給高が落ち込んでいます。

 中小規模の地域生協の店舗事業と宅配事業の一部が「キャッシュレス・ポイント還元事業」の対象となっていますが、実際にポイントを受け取れるのは数カ月先というケースもあり、現段階でそのメリットを大きく感じている組合員は少ないでしょう。国の制度に左右されるのではなく組合員との信頼関係を地道に構築していくことが望ましいと考えています。

──生協の課題の1つである若年層の獲得はどのように進めていきますか。

嶋田  若い世代は、「オーガニック」「エコロジー」「エシカル」といった分野への関心が高い傾向があります。SNSなども活用しながら、若い世代にとって訴求力のある商品をアピールしていくことがポイントでしょう。

 さらに、生協を利用することに対して“ダサい”というイメージが少なからずあるようです。商品を運ぶケースのデザインを洗練されたものに変更するなどにより、生協を利用することが時代に合ったライフスタイルの1つとされるような工夫を進めていきたいと考えています。