三越伊勢丹ホールディングスが正念場を迎えている。地方の不採算店や小型店の相次ぐ閉鎖に人員の削減と、まさに堰を切ったような構造改革を進め、“縮小再生産”の経営を推し進めている。ただ、今後の成長戦略であるオンライン事業の成果を手にするのもまだ先と見られるうえ、頼みのインバウンドにも逆風が吹き始めるなど、事業環境は厳しい。我慢の経営はいつまで続くか――。
怒涛のリストラを断行するも、先行きは不透明
「一体、何をやっているんだ」
ある三越伊勢丹ホールディングスのOBは語気を強める。事実上のクーデターの末、社長に就任した杉江俊彦氏をはじめとした、三越伊勢丹ホールディングスの経営陣に対する不満だ。
百貨店業界のトップに君臨し、「ファッションの伊勢丹」という異名をとるほど、常に流行の先端を走っていた三越伊勢丹が、縮小均衡の度合を強めていく姿に歯がゆさを禁じ得ないというのだ。
杉江社長は就任以来、「伊勢丹府中店」「伊勢丹相模原店」「三越新潟店」の閉鎖を決めるなど、不採算の地方店を相次いで閉鎖させた。さらに「ANNA SUI(アナスイ)」などを展開する子会社マミーナを精算したり、保有不動産を売却したりと、まさに怒涛のリストラを断行。ホールディングスでは退職金に最大5000万円を上乗せする早期退職も実施した。
「大西(洋)社長時代に手つかずだった、不採算店や不採算事業の整理を進めることで、バブル期の大量入社組を削減し、業績の改善を図ろうとする意図だろう」とライバルの百貨店関係者は話す。
だが、この怒涛のリストラは思惑通りに進んでいない実態が浮かび上がっている。早期退職者は当初800~1200人規模を見込んでいたが、18年3月期実績はわずか180人弱にとどまった。
苦戦は業績面にもあらわれている。20年3月期通期決算における営業利益の見通しは300億円。21年3月期を最終年度とする中期経営計画で掲げた連結営業利益350億円を前倒し達成すると意気込んでいた杉江社長だったが、19年3月期の決算発表において、計画に届かない見通しを明らかにしている。「リストラ策によってV字回復のイメージをつくれないのは、社内外に先行きの不安感を与える」(三越伊勢丹OB)のは事実だ。
そうした声を打ち消すかのように、杉江社長はあるメディアのインタビューで21年3月期に人件費を100億円圧縮し、営業利益400億円を達成させる可能性に言及している。中計の上振れ達成に意欲を見せているものの、コスト圧縮頼みの経営が続く。
インバウンド需要も減速、頼みの綱はEC
大型百貨店の出店が厳しい状況下、三越伊勢丹ホールディングスが描くのは、オムニチャネル化による成長戦略だ。
基幹店でしか購入できないような商品、あるいは人気商品の販売において、ネットと実店舗を融合させることで顧客との接点を増やす、と同社は説明する。実際に、そうしたデジタル分野への投資もしている。
EC化への流れは抗えない帰らざる河である。大手百貨店が相次いで不動産事業に舵を切るなか、三越伊勢丹に残された選択肢はEC化しかないという判断と見られる。
今後は百貨店の有力商品である衣料品のEC化率も、現在の10%台から20~30%へと高まることが予想され、三越伊勢丹としても「早期に売上高の1割」をめざす方針だ。しかし、「ECシフトといっても、果実を手にできるのはまだ先。リストラばかり先行している現状に、社内の徒労感もあるのではないか」とある流通コンサルタントは予想する。
成長戦略を描く上で、頼みのインバウンドも逆風が強くなっている。同社はインバウンドの伸びが顕著な大阪地区に店舗がないというハンディがあるうえ、19年からの中国EC法の施行に中国人民元安も重なり、免税売上高の今後の伸びは不透明な状況だ。
まだ実績のないECシフトに踏み切った三越伊勢丹の選択は、これから5年後、10年後に実りを結ぶだろうか。(次回に続く)