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成長しない問題社員が生まれる理由は「野放し」「勘違い」「反省なし」にある

このシリーズは、部下を育成していると信じ込みながら、結局、潰してしまう上司を具体的な事例をもとに紹介する。いずれも私が信用金庫に勤務していた頃や退職後に籍を置く税理士事務所で見聞きした事例だ。特定できないように一部を加工したことは、あらかじめ断っておきたい。事例の後にこうすれば解決できた」という教訓も取り上げた今回は、私が会社役員を通じて聞いた話を紹介したい。

 

Photo by Xesai

 

第24回の舞台:業界紙を発行する新聞社 

人員計50人、編集者15人、総務、経理5人、営業25人、事業5

 

離職率が高いため、20代後半で重責を担う

 28歳の男性の編集者がいる。名は、飯倉。2014年に新卒で入社し、経験は5年でありながら、原稿の確認をするデスク(通常は、副編集長もしくは次長)を兼ねる。さらに、実務責任者である編集長も務める。ここまでの重責を20代後半で、ひとりで担う編集者は出版、新聞業界では稀だ。

 編集部員は、飯倉を含めて6人。平均年齢が30代後半で、飯倉は2番目に若い。上司は、40代前半の副編集長。上に、58歳の編集長。新卒採用は10年ほどしていない。2014年の前に行ったのが、2005年だった。

 定着率は低く、新卒、中途問わず、入社5年以内でほとんどが退職する。現在の編集長は、25年目。その上が61歳の社長で、11年目だ。退職者が多すぎるがゆえに、ほぼ全員が管理職になり、やがては役員になる。部下育成力があるなしに関わらず、昇格する。上司のデスクも編集長も手取り足取り教えない。事実上、丸投げに近い。

 結果として、飯倉はひとりであらゆる権限を持つ。もともと、思い込みが激しく、感情的になりやすい。気性が激しく、上司にも責め立てるときがある。他人との意思疎通が、苦手ともいえる。ひたむきで、まじめな性格ではあるが、集団生活の中で成果や実績を出すことを不得手としている。ひとりで殻に閉じこもり、何かをすることはできても、チームプレーはほとんどできない。したがって、伸び悩む傾向がある。5年のキャリアの割には、基礎的な作業を時間内に正しく終えられないケースが目立つ。

 一例でいえば、この3年、外部のフリーライターとコンビを組んで仕事をしてきた。企業の「働き方改革」をテーマにした連載で、毎週1回のペースで取材し、記事にする。業務委託という形で発注しているのだが、取材先の選定、制作進行、掲載のオーダー、さらに取材相手への交渉スタイル、原稿作成にまで介入する。

 その指示は現実離れしたものや事実誤認、的はずれのものが非常に多い。特に致命的な問題は、原稿の整理をするべきであるのだが、「創作」に近い状態になっている、ということだ。この創作が、取材相手と摩擦を繰り返す。ライターがそのことを指摘すると、興奮し、言い返す。自分の考えがいかに正しいかと言い張るのみで、そこから深く考えることができない。結局、同じ問題を繰り返す。

 上司であるはずのデスクや編集長は何かを言わなければいけない。だが、育成しようとする意欲すらあまりない。飯倉は上司にありのままに報告はしない。自分のミスや不都合なことを隠す。問題が問題として残り続ける。ひとりでデスクをして、編集長、ときに役員、社長の役割までする。何があろうとも、自分が常に正しいことにすれば怖いものはない。

 飯倉は悪びれた様子もなく、人の迷惑顧みず、今日もフル稼働だ。

失敗を失敗と認識させ、繰り返さないように指導する

 飯倉ひとりの責任とは言い切れないのかもしれないが、深刻ではある。部下の育成を考えるうえで、深い意味を持っていると思う。私が導いた教訓を述べたい。

こうすれば良かった!①
組織のマネジメントが急務

 「編集部」という部署があっても、上司が事実上、不在なのだから、組織として機能はしていない。個々の編集者が独自の基準で判断し、動く。その象徴が、飯倉ではないだろうか。数年の経験則に、目の前の仕事を必ず当てはめようとする。その経験則は間違いであるケースが多い。トラブルや問題が発生しても、上司がおらず、指摘もしないから、ミスがミスにならない。

 「組織のマネジメントが破たんするとこうなる」、という悪しき事例ともいえる。対策としては、早急にチームビルディングに取り組むことだ。部員が全員参加する10分ほどのミーティングを毎日行いたい。各自の仕事の現状や課題、トラブルを共有したい。飯倉のように嘘の報告ができないようにもするべきだ。例えば、外部とのメールのやりとりには複数の編集者が参加するようにする。打ち合わせにも、そのメンバーで加わりたい。外部スタッフと話し合う機会も増やすことで、担当者の嘘の報告をあぶりだす必要もある。

こうすればよかった②
工程の細部にまで関わり、丁寧な助言や指導をする

  人の育成は、仕事をあてがうだけでは不十分だ。20代の頃は、上司が1つずつの結果だけでなく、それぞれの工程の細部にまで関わり、丁寧な助言や指導をしない限り、仕事力は時間内で一定のレベルに達しない。

 野放しにしてあるがゆえに、飯倉は誤った判断を繰り返すなどしてやりたい放題になっている。意図したものではないのだろうが、「検証や反省なき仕事」を続ける。「自分が正しい」と信じ込み、何かを指摘されると感情論になる。人の意見には耳を傾けず、同じ過ちやミスを繰り返す。これら一連の状況を社長や役員は理解していない。これでは、飯倉のような“勘違いした20代編集長”が生まれ続ける。

 

神南文弥 (じんなん ぶんや) 
1970年、神奈川県川崎市生まれ。都内の信用金庫で20年近く勤務。支店の副支店長や本部の課長などを歴任。会社員としての将来に見切りをつけ、退職後、都内の税理士事務所に職員として勤務。現在、税理士になるべく猛勉強中。信用金庫在籍中に知り得た様々な会社の人事・労務の問題点を整理し、書籍などにすることを希望している。

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