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インフレ下で岐路に立つ格安均一価格戦略 鳥貴族が模索する新たなビジネスモデルと進化形とは

鳥貴族ホールディングス(大阪府/大倉忠司社長)はさきごろ、2023年7月期第2四半期決算を発表。売上高は152億6600万円(対前年同期比86.5%増)、営業利益は3億6300万円の黒字となり、対前年同期比で増収増益となった。

2030年に国内1000店舗を目標とする主力の鳥貴族。あと8年間で残る約400店を出店していく

回復トレンドと値上げ圧力

 引き続き楽観はできないものの、対前年同期比で営業利益は約22億円を改善させての黒字化は、新型コロナ禍の影響がようやく沈静化されつつあることを示す結果といえる。3月には任意ながらマスク着用が解禁。5月には5類へ移行することを踏まえても、コロナ関連でのマイナス材料は今後も見当たらない。  

 一方で引き続き重しとなっているのが、人件費、原材料費の高騰だ。ワンプライスで格安・高品質が最大の売りの同社にとって、むしろこうしたトレンドの方が影響としては深刻だ。

 5月には値上げも実施する。これは昨年4月に続くもので、2年間で20円(税込み)の値上げとなる。インフレによる不可抗力ではあるものの、もはや安さが売りとはいいがたい料金設定となるため、同社としても苦渋の決断だ。税込360円は焼き鳥1本あたりで180円。傘下の「やきとり大吉」(社名:ダイキチシステム)が1本140円、一般的な焼き鳥の相場と比較しても、同社の焼き鳥はもはやミドルレンジの料金となっている。

 デフレ下、格安の均一価格で急成長を遂げた同社にとって、値上げは出来れば避けたい施策。初めて均一価格を改定したのは2017年。28年不変だった税込280円を18円アップし、税込298円に。この時は他の要因もあったものの消費者に受け入れられず、客離れにつながっている。

苦渋の決断で2年連続の値上げ

 それ以来の値上げを実施となったのが2022年。税込で350円とした。この時は原材料費や人件費の高騰が要因で、コロナ禍でもあり表面的には影響はみられなかった。実際に賃金アップも実施し、ネガティブに捉える声も少なかった。

 それからわずか1年での再値上げ。止まらない原材料費の高騰や人件費上昇等によるコスト負担がそれだけ重い裏返しだが、同社のビジネスモデル転換にもつながりそうな短期間での断続的な値上げといえる。

 背景には、居酒屋業態に漂う厳しい状況も見え隠れする。コロナ禍で外食習慣が転換する中で、ランチ需要が回復。テイクアウト対応の最適化により、収益の底上げもされている。外食産業全体でみれば、環境変化に適応すべく、アフターコロナへ活路を見出しつつある。

 一方で、宴会や飲み会は引き続き減少・縮小傾向に歯止めがかからず、今後回復しても全盛期より2割減が標準ともささやかれている。需要が2割減となれば、以前の利益を確保するには、限られた客数のなかで、売上もしくは粗利益を増やすか、経費を抑制するしかない。ましてや均一価格による「コスパ」や「安心感」が大きな来店動機になっていた同社にとっては、その強みが薄れる可能性もあり、これまでとは少し異なる勝ちパターンへと自社を誘導する必要があるかもしれないからだ。

「質」の追求とトリキバーガーの新展開

 だからこそ、こだわり続ける質の部分は妥協なく追求し続ける。国産へのこだわりはそのままに、日本の農業を応援する期間限定メニューの提供もその一環。国内産のみずみずしいキャベツを使用した「春採れキャベツの豚バラ回鍋肉串」や旬のニラを使用した「鶏レバニラ串」「パワーラーメン」など、質にこだわった付加価値の高いメニューを提供することでコスパは落とさない。

 別業態であるトリキバーガーについては、都内の既存2店舗の売上が低位安定し、当初の想定売上に到達していないことから、ビジネスモデル・ブランドの刷新に踏み込む。既存モデルでの新店は凍結し、新たに見直したモデルとして大阪市内に今年、3号店をオープンする計画だ。大倉社長の肝いり施策でもあり、中長期的に同社事業の柱にするという方針に変更はなく、激戦のファストフード業態を勝ち上がれるスタイルを追求する。

 海外進出にも本腰を入れる。4月には100%子会社を米国に設立。飽和と縮小で先細り必至の国内市況を見越し、海外でも「鳥貴族」ブランドのインパクトを浸透させ、将来を見据えたグローバル展開で市場拡大を加速する。

問われるのは「脱格安」でも顧客を維持するための戦略?

 「やきとり大吉」買収で1000店舗超えを果たし、規模の力は手に入れた。今後はアフターコロナと脱デフレトレンドの下でいかに付加価値を訴求しながら顧客を確保し、単価を上げていくかが問われることになる。

 実質的に格安居酒屋とはいいにくくなる中で、品質に対する割安感、つまりコスパのよさを適正に受け入れてもらえるマーケティングも重要になってくる。接客をベースにしたサービス力の向上もこれまで以上に重要になるだろう。

 さらにトリキバーガーのような非居酒屋業態を軌道に乗せることも、中長期を見据え、安定的な成長には不可欠だ。確実にシュリンクする国内市場に頼らない、海外展開も一層重要になる。

 やきとり大吉を正式に傘下に加えて発進した2023年。外食産業を取り巻く環境が大きく変化する中で、同社自体もリソースの最大化・最適化など、成長を停滞させないための進化が強く求められる。社会が脱デフレトレンドに傾く状況下で、どんなスタンスで苦境を乗り越え、成長曲線へと自社をのせるのか。

 その動向は、そのままアフターコロナにおける居酒屋の生き残り策ともシンクロし、デフレ下で急成長を遂げた同社にとっての新たな成長へ向けた一歩となりそうだ。