7月23日、オフィス用品の通販事業を展開するアスクル(東京都/岩田彰一郎社長)の独立役員会は記者会見を開き、昨今報じられている親会社のIT大手ヤフー(東京都/川邊健太郎社長)との対立についての見解を発表した。戸田一雄独立社外取締役は、ヤフーによる岩田社長退任要求を、上場企業のガバナンスを無視しているとして非難した。
ヤフーは取締役選任のプロセスを無視している
独立役員会は、アスクルの経営の透明性、公正性を高めるために組織された機関だ。独立性を有する社外取締役3人、社外監査役3人の合計6人で構成されており、取締役会からの依頼に応じて、事業やコーポレートガバナンスについての意見交換や議論、助言を行っている。記者会見には、元松下電器産業(現パナソニック)副社長の戸田一雄独立社外取締役、ファーストリテイリングの社外監査役なども兼任する安本隆晴独立社外監査役のほか、独立役員会のアドバイザーを務める弁護士の久保利英明氏、松山遙氏が出席した。
独立役員会が最も問題視しているのは、ヤフーが上場企業であるアスクルのガバナンスを無視して岩田社長の退任を要求していることだ。アスクルは社外取締役を中心に構成される指名・報酬委員会で次期取締役候補者を選定するなど、透明性の高いガバナンスを行ってきた。2019年5月の同会では、岩田社長を含む取締役の再任を決定。ヤフーからの派遣取締役が出席した6月の取締役会でも、異論は出なかった。
にもかかわらず、ヤフーの川邊社長は株主総会の1カ月前になって岩田社長に直接退任を要求した。このことについて独立役員会は、「ヤフーが指名・報酬委員会の議論を回避してトップ人事を決定しようとしており、今後の事業計画や経営課題を踏まえて次期経営体制を議論してきた指名・報酬委員会をないがしろにしている」と怒りを表明した。
戸田氏は「アスクルは指名・報酬委員会に社外取締役を入れるなど、(ガバナンスの透明性を保つために)一生懸命に取り組んできた。(支配株主の立場を利用したヤフーの強硬手段によって)現体制はこうも簡単に終わってしまうのか。自分は何のための社外取締役なのか」と落胆の気持ちを露わにした。
岩田社長退任の是非について、戸田氏は「大株主が経営陣に対して業績悪化の責任を指摘していることは重く受け止めるべきだが、株主総会直前に『社長を交代せよ』と言われても混乱を招くだけ」と話す。続けて、「本年の株主総会では、指名・報酬委員会が決定した岩田社長を含む取締役候補者を選任し、社長退任については来年に向けた指名・報酬委員会で、ヤフーの意見も踏まえて十分な時間をかけて議論すべきである」と主張した。
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親子上場では、子会社のガバナンスは守られない
親子上場では、子会社のガバナンスは守られない
また、弁護士の久保利氏は、子会社が親会社以外の一般株主を持つ場合の「親子上場」の問題点を指摘した。「ガバナンスは日本の資本市場を適切に機能させるための非常に重要なファクターである。日本では親子上場が認められているが、その状態で子会社は合理的なガバナンスを保つことができるのか。『(親会社が)過半数の株式を保持していればなんでもしてよい』という考えは不適切で、(親会社は)権利を乱用する買収者と判断される可能性もある。世界的に見ても稀な状態である親子上場をこのまま維持してよいのかという問題点を突き付けているのが、今回のヤフーとアスクルの事件だ」と久保利氏は自論を展開した。
また、独立役員会は、一般消費者向けの通信販売事業「LOHACO(ロハコ)」の譲渡について、支配株主との利益相反取引に求められる透明性が確保されていないことに対しても懸念している。ヤフーにLOHACO事業を譲渡する場合、アスクルの少数株主の利益保護の観点から、透明性の高いプロセスで譲渡の是非・条件を議論し、対等な関係で交渉することが望ましい。しかし、この状況に至るまでのヤフーのやり方は極めて不透明であり、少数株主の利益を保護できない。独立役員会は「支配株主としての立場を利用して圧力をかけている」と不信感を露わにした。
18日は岩田社長、23日は独立役員会と、2度に渡る記者会見によってヤフーの横暴を世論に訴えるアスクルだが、いまだにヤフーはアスクルと再度話し合う意思を見せていない。8月2日の株主総会までに残された時間はわずかであり、アスクルが状況を打開するのは難しいだろう。最後の手段は、業務・資本提携契約に記載されている売渡請求権の行使だ。そのためには、株式の引き受け先を早急に見つける必要があるだろう。
なお7月24日、ヤフーは、アスクルが2019 年8 月2 日に開催を予定している第56 回定時株主総会の取締役選任議案において、低迷する業績の早期回復、経営体制の若返り、アスクルの中長期的な企業価値向上、株主共同利益の最大化の観点から、抜本的な変革が必要と判断し、岩田彰一郎役社長の再任に反対の議決権行使を行った。 また、業績低迷の理由である岩田社長を任命した責任など総合的な判断から、独立社外取締役の戸田一 雄氏、宮田秀明氏、斉藤惇氏の再任にも反対の議決権行使を行っている。