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流通再編の衝動その2 イオンが貫くM&Aの流儀

イオン(千葉県)は、M&A(合併・買収)を成長戦略の軸に据えてきた小売業の代表格だ。同社の8兆円超の連結売上高はM&Aの効果があったからこそといえる。米ウォルマートが西友を売却するという報道が流れた際も買い手の候補に挙がるなど、M&A案件があれば必ずと言っていいほど名前が浮上するイオン。一方で、「(同社のM&Aは)これからが正念場ではないか」(ある経営コンサルタント)という観測もある。拡大したグループをイオンはどうまとめていくのか。
HD=ホールディングス

写真:ロイター

経済合理性だけではない

「(ダイエー中内功氏は)流通革命を共に戦った同士だった」

 イオンの岡田卓也名誉会長は、2005年に死去した中内氏のお別れの会の帰り道で、そう語った。イオンはその後、再建が難航していたダイエーを傘下に入れている。同社の長い歴史の中では、時には再建が難しいだろうとわかっていてもM&Aを実施する例も見られる。経済合理性ばかりを重視するのではない、岡田卓也名誉会長が社長だった時代からの伝統だ。

 岡田元也社長もドラッグストア、ウエルシアHD(東京都)の創業者で病床にあった鈴木孝之氏から託された「日本一のドラッグストアチェーンの実現を」という言葉を重く受け止め、ウエルシアHDをイオンの連結子会社とし、同じイオングループのツルハHDとともに業界1、2位を競う規模にまで拡大させている。

 イオンのM&Aの基本方針は「ゆるやかな連帯」である。M&A先の自主性を尊重し、必ずしも強引にプライベートブランド商品を導入させたり、仕入れを統合したりというようなやり方はせず、時には大株主として経営をただ見守るようにしてきた。

 ウエルシアHDだけでなく、グループのツルハHD(北海道)やクスリのアオキHD(石川県)なども今や押しも押されもせぬドラッグストア業界の大手となっている。イオンの大株主としての強烈な存在感そのものが、適度な緊張を生み成長を促したともいえる。

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未だつかめぬダイエー再生の糸口

“勝利の方程式”を見つけることができるか

 しかし、イオンも“ゆるやかな連帯”というような悠長なことを言っていられないケースもある。その代表例がダイエーだ。ダイエーは14年にイオン傘下に入って以降、業績が安定しない状況が続いている。そうした状況下、イオン社長も「ダイエーの看板はなくなる」などと発言。ダイエー再生に思い切った決意で臨むことを表明した。

 ダイエーの地方店舗はイオングループの事業会社が引き取るなどして関東、関西に集中するかたちの事業の再構築を実施した。この再編の効果により2019年2月期第4四半期決算では営業黒字を計上している。

 ただ、悩ましいのはイオン自身、中核事業である総合スーパー(GMS)の収益力向上の決定版を見いだせていない点だ。ダイエーにしても、過去にM&Aしたマイカルにしても、ドン・キホーテ(東京都)のような、業態転換で収益を回復させるという“勝利の方程式”を見つけられていない。

 ダイエーの店舗再生においては、食品スーパー業態は即食系の商品や簡便商品を充実させた業態「イオンフードスタイル」に、GMS業態は旗艦店を「イオンスタイル」にそれぞれ転換しているがその効果は未知数だ。

ボリューム拡大によってどのような「価値」を提供するか

 さて、イオンは傘下のSM事業会社の再編にも着手しており、20年3月までに首都圏を除いた全国6地域14社を地域単位で統合する計画を打ち出している。拡大したグループを効率の視点から再構築する格好だ。

 さらに中四国地盤のフジ(愛媛県)とも資本業務提携し、地域単位の再編に弾みをつける。M&Aなどで拡大したグループの枠組みを見直し、SM事業を収益の柱にしたい考えが透ける。

 GMSとともにSMでも、地域ごとにボリュームを拡大することで顧客に対してどういった「価値」を提供できるか。金融、デベロッパー事業だけではなく、“本業”である小売事業の収益力をいかに強化できるか。これからのイオンの課題である。