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セブン-イレブンが発表した新フォーマット コンビニ×スーパーの「新コンセプト店舗」とは

セブン&アイ・ホールディングス(東京都/井阪隆一社長:以下、セブン&アイ)が3月9日、2025年までの中期経営計画の内容を修正し、アップデートした中身を発表した。なかでも注目したいのが、国内コンビニエンスストア事業で発表した「新コンセプト店舗」の展開である。コンビニとスーパーストアを組み合わせた新しい店舗フォーマットの出店により新たな成長を描く。発表された現時点での戦略をレポートする。

セブン&アイは、セブン-イレブンを大型化した「新コンセプト店舗」の展開を発表した

「食」にフォーカスし
コンビニ事業で成長する

 セブン&アイは3月9日、アナリスト・メディアを対象とした記者会見を開催し、中期経営計画(2021~2025年)の上方修正と、グループ戦略の転換を発表した。
 
同社は23年2月期第3四半期において過去最高の営業収益と営業利益を計上した。これを受けて、中計の目標値を上方修正した。
グループ戦略においては、独立した外部アドバイザーも起用し、新たな取締役会・ガバナンス体制のもと、今後の企業価値最大化に向けて議論した結果として、新たな戦略を発表した。

 具体的には過去の事業モデルからの脱却を図り、「『食』の強みを軸とし国内外コンビニエンスストア事業の成長戦略にフォーカスすることで、最適な経営資源配分を実行しながら、『食』を中心とした世界トップクラスのリテールグループに成長する」という。改めて同社が強みとする「食」をこれまで以上に事業の主軸に据え、国内外のコンビニ事業の成長にフォーカスする方針だ。

IYはさらに14店閉鎖
アパレル事業からは撤退

 これに伴い、イトーヨーカ堂(東京都)やヨークベニマル(福島県)、ヨーク(東京都)などの食品スーパーや総合スーパーからなる「スーパーストア事業」において、イトーヨーカ堂のさらなる事業構造を進める。自社運営のアパレル事業からの撤退と、新たに14店舗の閉鎖を発表。今後は首都圏に注力して事業を展開するという。

コロナ禍から起死回生
既存店売上高は過去最高!

 今回注目したいのが、国内コンビニ事業の成長戦略だ。

 新規事業として、コンビニ店舗からの即時配送サービス「7NOW」や、アプリ広告や購買データを活用した「リテールメディア」を強化する計画とともに、既存のコンビニ事業において新フォーマット店舗の展開を発表したのだ。

 まず、直近の国内コンビニ事業の動向を抑えておきたい。
 20年のコロナ感染拡大直後、外出自粛やリモートワークの普及によってコンビニの利用が大きく落ち込み、コンビニ各社の業績が低迷した。

 しかし、会見当日に言及された最新の22年度業績によると、「セブン-イレブン」の既存店売上高対前年度比は103.6%。これはコロナ前の水準を超え、01年以降で最高だという。

 1店当たりの稼ぐ力を示す既存店平均日販を見ても、19年度比で101.8%となっており、見事にコロナ禍の利用低迷から回復、再成長を果たしている。

業績回復の3つ要因

 「セブン-イレブン」がここまで業績を回復できた要因として、同社は大きく3つの要因を挙げる。

 1つ目は、レイアウト変更の実施だ。コロナ禍の、ワンストップショッピングニーズに対応するべく、冷凍食品をはじめ伸長カテゴリーのアイテム数を拡充し、それに応じて売場レイアウトを変更した。

 2つ目は、プライベートブランド(PB)「セブンプレミアム」の販売強化だ。ナショナルブランドの一斉値上げによって、相対的な価格優位性を高まったという。

 3つ目は店頭フェアを連続して開催していることが来店や商品の購買につながっている。

積極的なフェアの開催が売上増に寄与している

 こうしたなか新たに発表したのが「新コンセプト店舗」の展開である。
 コンビニとスーパーストアを組み合わせた新型店舗で、「SIPストア」(S:セブン-イレブン、I:イトーヨーカ堂、P:パートナーシップの略)を略称としている。

 セブン-イレブン・ジャパン(東京都)の永松文彦社長は、SIPストア開発の背景について次のように述べている。

 「今のセブン-イレブンの店舗の大きさでは、お客さまのニーズに応えきれていない。これは昨日今日で構想したことではなく、かねてからワンフォーマットからの脱却し、地域に合わせた店舗の在り方が必要だと考えおり、今回のSIPストアの発表に至った」

売場面積100~150坪で
5000SKU以上を販売

セブン-イレブンがコロナ禍で広げてきた新レイアウト。SIPストアではさらに生鮮品や冷凍食品の売場を広げる

 では、SIPストアとはどのようなフォーマットなのか。具体的には、既存の「セブン-イレブン」のフォーマットに、スーパーストア事業で培ってきた知見や取引先とのネットワークを生かして、品揃え、さらに売場面積も拡大する。

 取り扱いSKUは、従来の「セブン-イレブン」が約2500に対して、SIPストアは5000以上、売場面積は「セブン-イレブン」の平均が約40坪に対してSIPストアは約100~150坪を想定しているという。

 拡充するカテゴリーは、「生鮮品」「冷凍食品」、チルド商品をはじめとした日常使いの「セブンプレミアム」の商品だ。

 まず、「生鮮品」は、生鮮3品の扱いを強化する。グループ力を生かし、イトーヨーカ堂の青果のPB「顔が見える野菜。」や、セブン&アイの安全・安心を訴求する生鮮PB「セブンプレミアム フレッシュ」の商品も投入する。

「冷凍食品」は、新型什器を投入して取り扱いSKUを増加。イトーヨーカ堂の冷凍食品のPB「EASE UP(イーズアップ)」も導入する。

「セブンプレミアム」商品では、これまではスーパーストア事業の店舗で販売していたような日常使いの商品や、22年9月にスタートした低価格訴求のPB「セブン・ザ・プライス」の商品の取り扱いを拡大するという。

IYのPB商品の導入で
冷凍米飯の売上が2倍に

 すでにイトーヨーカ堂の冷凍食品PB「EASE UP」については、主食となるメニューの4品目を、2月下旬より全国の「セブン-イレブン」で販売している。結果、冷凍米飯の売上高が2倍になるほど売上が好調だという。

トーヨーカ堂の冷凍食品PB「EASE UP」。主食となるメニューを2月下旬より全国の「セブン-イレブン」で販売している。写真はその一例

 永松社長は「このように、セブン&アイは全国に約170の専用工場を有し、全国2万店に一気に商品展開できるインフラが強み。これまで生かしきれていなかったグループ間の連携をより発揮していきたい」と話す。

食品小売業界で加熱する
小型フォーマット競争

 セブン&アイの井阪隆一社長は、SIPストアについて「今後の少子高齢化、共働きの増加へ対応するべく、今までの“業態論”に縛られず、お客さまの身近で生活必需品をお買い上げいただけるような新しいフォーマットを確立していきたい」と意気込みを語っている。
まずは23年度上期に実験店をオープンし、消費ニーズを検証する予定だ。

 直近の食品小売業界の小型店開発の傾向を見ると、イオン(千葉県)グループの都市型小型フォーマット「まいばすけっと」は、売場面積40~60坪のコンビニサイズが中心だが、近年、立地に合わせて80坪程度の大型店の出店を始めている。

「まいばすけっと」は近年、立地に合わせて80坪程度の大型店の出店を始めている

 また近年、有力食品スーパー各社が、肥沃な都心部の需要と取り込むべく都市型小型店の開発を進めている。ライフコーポレーション(大阪府)やサミット(東京都)、オーケー(神奈川県)などは100~150坪で日常の食をカバーするフォーマットを開発し、支持を得ている。
 
 対して、セブン-イレブンの大型の新フォーマットはどのような特徴や価値を打ち出す店舗となるのか。
たとえば、現在、コンビニが生活インフラになっている地方の過疎化が進んでいるような地域では、「セブン-イレブン」が大型店となることで、助かる生活者は多そうだ。
 
 このように、“コンビニ飽和論”や、コロナ禍の売上低迷で、近年は今後の成長戦略の道筋に停滞感が否めなかったセブン-イレブンだが、ここにきて出店による新たな成長戦略を打ち出している。具体的な実験と検証はこれからだが、その新フォーマットの存在は、商圏内の食品市場競争に新たな波紋を呼びそうだ。