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御社は大丈夫!?ナンチャッテ直接貿易が原価を押し上げている!

全3回にわたって、「アパレル業界のフィクサー商社の実態に迫る」をテーマにお届けしている。前回は、単なる問屋機能としてしか認知されてこなかった商社不要論に対して、アンチテーゼを示した。今回と次回の2回にわたって、商社不要論から商社活用論に産業界の論点が移ってきている様を解説したい

Photo by FangXiaNuo from iStock

誤解2「商社を外せば安く商品を仕入れられる」

 これは、「ものづくり」を軽視した典型的なバズ・ワードだが、本件の結論はすでに出ている。それは、「単なる商社外しはアパレル企業にとってメリットはない」だ。むしろ、先進的なアパレルは「商社との取り組みの再構築」へと意識が変わっている。

 例えば、「当社は直接貿易を拡大しています」という企業は多いのだが、よくよく調べてみると、商社業務を工場が代行し、単に支払いを外貨送金しているだけというケースが多い。このような指摘をすると判で押したように「うちは違う」というのだが、実際に海外の工場ラインまで見に行って、生産工程管理の細部まで随時確認・管理しているアパレルは数社を除いて皆無である。せいぜい年に数度、納品間際に出張にでかける程度。海外のあらゆる拠点に人間を貼り付け、24時間体制で生産管理を行う商社のチェック機能とは雲泥の差がある。現に、私自身、商社で働いていたとき、アパレルが工場を見に来るというものだから、先回りしてラインを変更し頑張って生産をやっている演出した経験は数度ではない。

 さらに酷いケースになると、「テーブルメーカー」といって、実際は工場など持たない(元)工場が、いつしか、第三国に生産拠点をアウトソーシングし、日本の商社の役割をそっくり真似しているだけということもある。今は、日本人と中国沿岸部のエリート人材の年収比較をすると、日本人より中国人の方が高給だから、こうしたケースの場合当然ながら原価率は下がらない。

 腕のたつ商社マンであれば、商品を見ただけで原産地、FOB (海外工場出し値)CMT(工場利益率)を瞬時に計算できるし、さらに有能な商社マンであれば、商品を見ただけで、原料を一から組成しなおし、例えば、合繊繊維の染色色差や物性特性を利用し、特殊な加工を組み合わせ、オリジナルよりさらに付加価値を高めた原材料をオリジナルの半値で作り直すこともできる。商社の重要な機能の一つに、複数の中小アパレルの小ロットオーダーをまとめ、工場稼働率を高めることでトータル生産コストを下げるという機能もある。

 輸入時にローンを使って資金回収を遅らせ、在庫の滞留期間を流動化をさせるファイナンス機能も持っている。こうした、業務はあまり表にでてこないため、ほとんどその実態は知られていない。直貿化といって、商社を外した瞬間キャッシュフローが悪化するというのはよく聞く話だ。

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製造原価の安さを追求して調達先を変える「南下政策」は限界。ではどうするか!?

 誤解3「商社のOEMトレードは衰退する」

 世の中では「何もせずにマージンだけ持っていく」という悪評が先行している商社だが、同時に今、抜本的な改革を行っているのもまた商社である。その戦略は、商社ごとに特徴がある。大きく分類すると「売場をおさえる」、「作り場をおさえる」の2タイプある。

 今、世界的に衣料品の市場は成長しているというデータもあるが、実際に伸びているのは、おおよそ先進国ではビジネスにならないような途上国の激安服が、国の経済発展に従って拡大しているだけで、当然ながら我々の事業には何の影響もない。日本の「ものづくり」はすでに消えゆきつつあり、日本市場における総投入量に占める国内生産率は3%を下回った。どんどん安い人件費を求め、グレーターチャイナを南から北へ一周し、ASEANからベンガル地方にいって、残されたフロンティアはアフリカだけという具合。その先は、「いよいよ衣料品は無料になる」とまで囁かれたものだ。つまり、付加価値と歩留まりの向上に向けた改革をすることなく、単品原価の低減のみを追求し、世界の最安値産地をさまよってきたのが、日本のアパレル企業なのだ。

  私は、こうした単なる単品原価の低減施策を「南下政策」と呼んでおり、この「南下政策」はすでに限界にきている。本来企画力をあげて、適正数量を高い企画力で生産すれば、価格勝負に陥ることはないのだが、それができない産業界では、効果がすぐにでる「南下政策」を続けてきた。それが、自動車業界やパソコン業界などは常識となっているバイオーダー生産や、欧州で見直されている、ものづくりのデジタル化を阻害してきた要因なのだ。

 日本でも、繊維産業の成功事例としてMade in Japanの復活を叫ぶ人もいるが、そういう人に限って総生産の97%がすでに海外移転しており、作り場がそもそも存在しない、という現実を分かっていない。マクロとミクロの視点を混同し「部分を持って全体を語る」悪習から抜け出せないでいる。

 次回、商社の未来図と産業界における新しい位置づけについて語りたい。

プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)