メニュー

店舗数だけじゃない!? 庶民の食を支えるラーメンチェーンの現在地

あるテレビ局のリサーチによると、日本人の平均的なランチ代は649円だという。もちろんファストフードであれば、1コインでそこそこ満足できるランチが食べることができる。一方、米国の平均的なランチ代は15ドル(1850円)、中国でも60元(1020円)が平均だ。500円でまともな食事はできない。
「安くてそこそこおいしい」日本の食を支えてくれている代表格がラーメンチェーンだ。筆者を含め日頃からお世話になっている方も多いだろう。そんなラーメンチェーン業界は競争が厳しく、大手もうかうかしてはいられない。本稿では、ラーメンチェーンの市場やシェアデータを分析、あわせて業界が抱える課題を考察し、今度の動向を占ってみたい。

kazuhide isoe/iStock

日本の食を支えるラーメンチェーン

 やや古い出典となるが、経済センサスの産業集計によると、ラーメン店は全国でおよそ約1万8000軒あるとされている。いわゆる飲食店の総数は67万店とされており、ラーメン店の占める比率は2.6%といったところだ。

 ラーメン店は個人経営の店が半数以上を占めるが、いわゆるラーメンチェーンも7500軒あるとされている。日本ソフト販売が公表している「餃子・ラーメン」チェーンの店舗数ランキングを見ると、1位は「餃子の王将」で店舗数は前年と同じ734店舗、2位は「リンガーハット」で店舗数は前年から9店舗減の586店舗、3位は幸楽苑の404店舗で前年から12店舗減少と、上位3社は店舗数が伸び悩んでいることがわかる。

 一方、10位の「丸源ラーメン」は15店舗増、12位の「田所商店」は21店舗増、14位の魁力屋が14店舗増と、店舗数を順調に増やしている。

 店舗数上位のラーメンチェーンの動向を見ていこう。純粋なラーメンチェーンで最も店舗数が多いのが、幸楽苑ホールディングス(福島県)だ。

 「中華そば 290円」──静岡県三島市の国道1号線バイパス沿いで筆者が看板を見かけたのが2005年前後だろうか。当時、ラーメンの価格は600~800円が相場で300円を切る価格は衝撃的だった。ただ、幸楽苑ホールディングスは2015年5月に、「290円ラーメン」の販売を中止、価格を440円に引き上げている。290円では客単価が低すぎて赤字店舗が増加したためだ。

 しかし、値上げ後も収益面での抜本的な改善が果たせず、同社は低空飛行が続く。さらにコロナ禍の影響も大きく受けており、2023年3月期の業績見通しでも、営業赤字から抜け出せない見通しだ。

「日高屋」に「田所商店」、ラーメンチェーンの現在

 次に見ていきたいのが、「日高屋」の運営元であるハイデイ日高(埼玉県)だ。同社の創業は1973年、大宮市に中華料理「来々軒」をオープンさせたのが始まりだ。主力業態の「日高屋」は1号店を新宿東口に開店、その後20年で400店にまで拡大した。

 店舗数では幸楽苑ホールディングスの背中を追うハイデイ日高だが、売上高は2015年度に僅差で逆転、その後は年を追うごとにその差を拡げている。ハイデイ日高の売上高は、コロナ禍前は増収基調にあり、2019年3月期には400億円の大台に乗せている。コロナ禍からの回復も幸楽苑より早く、2023年2月には黒字回復する見通しだ。

 徹底したローコストオペレーションなど、似た部分も多い幸楽苑ホールディングスとハイデイ日高だが、店舗の立地戦略は大きく異なる。地方の幹線道路沿いに店舗展開する幸楽苑に対して、日高屋は駅前への出店を基本としてきた。駅前は「ちょい飲み」の客が多く訪れ、おつまみやアルコールによる客単価アップが見込めるためだ。

 22年5月にハイデイ日高社長に就任した青野敬成氏は若干48歳。創業家というわけではなく、アルバイトから社長の地位までのぼりつめた生え抜きの経営者だ。一代で日高屋チェーンを築き上げた創業者・神田会長とタッグを組み、今後は新しい路線にチャレンジするという。

 店舗戦略では、駅前一等地へ出店を基本としつつ、地方ロードサイドや繁華街など出店地のバリエーション増やすことで、さらなる成長をめざす構えだ。

 もう1つ注目したいのが、味噌ラーメン専門店「田所商店」を運営するトライ・インターナショナル(千葉県)である。同社は現在、日本国内に156店舗、海外に11店舗(FC含む)を展開しており、チェーン全店売上高は100億円を超える。

 社長を務める田所史之氏は、ラーメン・居酒屋で起業し、バブル崩壊で挫折した経験を持つ。そこから2003年に「田所商店」で再スタートを切ったかたちだ。もともと田所氏の実家は味噌の醸造を家業としており、「田所商店」の創業にあたっては「置き味噌」に徹底的にこだわったという。そうしたオーナーの思いがファンに伝わり、急成長につながっているというわけだ。

 原材料費の高騰、慢性的な人手不足……と外食業界を取り巻く課題は当然、ラーメンチェーンにもあてはまる。業界共通の課題だけでなく、ラーメンチェーン固有の不安材料も頭をよぎる。ラーメンは一般的に嗜好性の強いメニューであり、チェーン店は飽きられやすい。実際に1980年代は全国どこにでもあった「サッポロラーメン」はすっかり見かけない。ラーメンチェーンは今後も「ラーメン好き」を引き寄せ続けられるのか。