[東京 30日 ロイター] – 日本商工会議所の三村明夫会頭は、ロイターとのインタビューで、消費税増税を巡って安倍晋三首相の周辺から延期を示唆する発言が出たことについて「増税まであと数カ月に迫る中で、上げない選択はあり得ない」と述べ、予定通り実施すべきとの考えを示した。インタビューは29日に実施した。
世界経済の現状は「決してリーマン・ショック級とは言えない」との認識を示した。中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)の禁輸措置に伴う日本企業への影響に関し、全体として抑制的との見方も併せて示した。
最低賃金引き上げ論議に対しては「『数字ありき』では、かえって設備投資などが抑制的になりかねない」と、政府の対応をけん制した。一方、日銀が目指す物価2%目標に触れ、「将来的には必ずしも2%にこだわらない柔軟な金融政策も必要」と語った。
主なやり取りは以下の通り。
――米中の貿易摩擦が影響し、経済協力開発機構(OECD)は経済見通しで、世界全体の今年の実質国内総生産(GDP)成長率を3.2%に下方修正した。世界経済の先行きをどうみるか。
「今回ばかりは予想がつかない。米国も中国も、それぞれが『自国ファースト』で行動するのは当然だ。ただ、世界経済に与える影響の大きい経済大国は、同時に、世界経済への目配りも必要となる」
「物品関税の応酬といった貿易戦争は、誰の利益にもならない。先行きが不透明な中で政府も企業も、備えが必要だ」
――ファーウェイに対する禁輸措置の影響も新たなリスクとして広がりを見せそうだ。日本企業の設備投資意欲が減退しないか。
「ファーウェイ向けに部品を供給している企業の設備投資は、控えめになるかもしれないが、全体として影響は、それほど大きくないのではないか。スマートフォンの需要が減退するわけではなく、市場そのものは存在し続ける。製品自体がなくなるわけでもない」
「ファーウェイにとっての影響は甚大だが、日本企業は部品の供給先が変わるだけにすぎない」
――10月1日の消費税率10%への引き上げに関し、凍結を求める野党にとどまらず、首相の側近議員からも延期を示唆する発言があった。どう捉えているか。
「事業者が、消費税率引き上げと併せた軽減税率の導入や、最大5%のポイント還元への対応準備のさなかなだけに『信じられない』というのが本音だ。増税の本質は、今の社会保障を持続可能にするための財源とし、必要な負担を求めることにある。経済状況云々とは切り離して考えるべきだ」
「増税に伴う経済への悪影響は、臨時・特別の予算措置などで十分に対応が図られている。米中貿易摩擦など不安な面はあるが、現状では、決してリーマン・ショック級とは言えない。増税まであと数カ月に迫るなかで上げない選択はあり得ない。予定通りやってもらいたい」
――アベノミクス政策から6年が経過しても、デフレ脱却宣言には、なお至っていない。
「ここまで良くやったと思う。アベノミクス前は、超円高下で日本企業の国際競争力が弱まり、海外投資が加速した結果、国内の資本蓄積が減少し、潜在成長率もほとんどゼロに落ち込んでいた」
「日銀が目指す2%には届いておらず、政府がデフレ脱却を宣言するには至っていない。ただ、今はリスクはあるが、将来的には必ずしも2%にこだわらない柔軟な金融政策も必要だ」
――最低賃金引き上げの議論を巡って、6月の経済財政運営の指針(骨太の方針)で、全国平均で1000円を目指す目標などが浮上している。どう対処するか。
「最低賃金の引き上げは、支払い余力さえあれば正しいことだ。反対はしない。ただ、経済情勢や中小企業の経営実態を考慮せず、実質的な賃金レベルを政府が先に決めるのはおかしい。数字ありきの引き上げには反対だ」
「18年度の最低賃金引き上げの直接的な影響を受けた中小企業は38.4%と、前年度から5.4ポイント増えた。企業が自発的に賃上げできる環境整備を優先しなければ、かえって設備投資などが抑制的になりかねない」
(山口貴也、梶本哲史 編集:田巻一彦)