食品スーパー業界はこの先どうなっていくのだろうか?また、どんなテクノロジーに注目し、企業改革を進めていくべきか。厳しい競争環境下にある食品スーパー業界において、その存在感を日増しに高めているアクシアル リテイリング(新潟県)、原和彦社長に話を聞いた。ダイヤモンド・チェーンストアオンラインのキックオフインタビュー前編である。
働き方改革で苦慮する企業が続出する
――ここ数年の食品スーパー業界の景況感、競争環境をどう見ていますか?
原 アベノミクス以降、各社の業績を見ても、食品スーパー業界は比較的堅調に推移したここ数年間でした。
――多くの食品スーパー企業は2018年末ぐらいから既存店ベースの数字が厳しくなってきている印象です。
原 これは前年が生鮮食品の相場高により売上が取れたことの反動減が大部分だと見ています。
当社の場合は堅調に推移してきましたが、19年2月は既存店ベースで97.7%と苦戦しました。これは昨年の大雪の反動減によるものです。大雪になると、当日はダメなのですが、その前後でお客さまがいらっしゃいます。その際、①遠くの大型店ではなく近くの食品スーパーに来店する、②いつもより多くの商品を買い込む、③また大雪への対応で何かと物入りになるという3つのことから、客数は減りますが客単価が増えるのです。今年は逆に雪は少なかったですから、客数は上々なのですが客単価が上がらないという結果になりました。
――消費マインドの変化について、何か感じられることはありますか?
原 これから徐々にピークダウンしていくのではないでしょうか。消費マインドが下がり始めたと感じています。この春から様々な原料やナショナルブランド(NB)品が値上げを発表したことに加え、消費増税を控えているためです。少し、財布の紐が緩みかけていたものが閉まり始めたかな、と感じています。
――この先、食品スーパーはどのような影響を受けますか?
原 価格に対する消費者の意識が高まるのでそれに対応しなければなりません。一方、原料の高騰分を価格に転嫁することは難しい状況にあります。加えて、4月から「働き方改革関連法」が順次施行され、人手不足の中で一人あたりの労働時間を短くしなければならなくなりました。そうしたことから、対応に苦慮する企業が増えてくるものと見ています。
――その対応として、重要になることは何でしょう。
原 いかに生産性を上げるかということです。当社が強みとするTQM(総合的品質管理)などの取り組みがさらに重要性を増すでしょう。それだけではなく、新しいテクノロジーをいかに早く活用できるかも重要になります。ただし、その活用には投資が必要ですから、投資できる企業と投資できない企業に分かれます。
――それが企業の業績格差、そして再編につながるというわけですね。
原 その可能性が高くなるでしょう。
レジレス化で“袋詰めサービス”が進化!?
――新しいテクノロジーの推進という意味では、2019年3月11日付でイノベーション推進部を新設し、森山寛樹執行役員が部長に就任しました。新設のねらい、役割を教えてください。
原 新テクノロジーを意識した経営を行っていく必要性があるためです。ゆくゆくは3~4名体制の組織にしていきます。
与えた命題は5つ。1つ目はビジョンの刷新です。当社が2009年にアドバンスト・リージョナルチェーンというビジョンを打ち出してから10年が経ちます。新しいテクノロジーが小売業界にどんどんはいってくる、そしてお客さまのニーズも変わってきているなか、これからの当社のめざす道をはっきり指し示す新たなビジョンを策定する時期に来たということです。
2つ目は、生産拠点を含めたロジスティクスの活用です。バーティカルマーチャンダイジングを推進するうえでどういった体制が必要かを明らかにします。
3つ目が、先ほどから話している新テクノロジーの活用です。AI、5G、アプリ、無人化、キャッシュレス化、無人配送などなどさまざまな技術、ワードがどんどん出てくるなか、IT戦略の構築を行います。
4つ目は、この新ビジョンにもとづいた人事・人材育成のあり方を検討します。
最後に、ビジョン実現のための、チェーンストアの本部のあり方を検討します。そして、本部を移転する予定です。
――新ビジョン策定の前提となる、アクシアル リテイリングのあり方とはどういうものになりますか?
原 これも5つの方針を前提としており、『品質経営』、『環境経営』、『健康経営』、『情報化社会への対応』そして『教育』です。品質経営とは、当社の経営の根幹に位置付けるTQMをベースにし続けていくということです。健康経営はあえて今回入れました。対お客さまでは健康に配慮した商品の開発・提案を推進してきましたが、従業員の健康にもこれまで以上に留意していきたいという考えです。
――テクノロジーの活用という観点でお聞きしますが、原社長は食品スーパーでもこの先キャッシュレス化、レジレス化は相当進むと考えているのでしょうか?
原 私はそう考えています。当社でもクレジットカードでの支払い比率がどんどん上がっていますし、各社が様々なキャッシュレス決済手段を開始し、プロモーションを積極的に行っています。ですから、キャッシュレス化は今後自然に高まっていくものと思います。
とはいえキャッシュレス率が100%になれば二重投資の必要もなく効率は良くなるのですが、そうはならないでしょう。現金用のレジは残さないといけないでしょうし、仮にレジレス決済が可能になったとしても、同様にこれまで通りのレジ決済は一部残ることになるでしょう。
――アクシアル リテイリングが実施している袋詰めサービスとレジレス化の相性は悪くはないのですか?
原 まったく問題ありません。例えば商品の袋詰めサービスをお店の出口付近で行えばいいだけです。レジをなくす、減らすことで、その人時を袋詰めしたうえで、例えばお車までお持ちすることをお手伝いする作業に新たに割り当てることができます。むしろ、その方がお客さまにとっては嬉しいサービスになるのではないでしょうか。
―後編は明日公開。競争戦略に勝つための、アクシアル リテイリングの戦略をお聴きします―