メニュー

焦点:日銀、薄氷の景気判断維持 鍵握る年後半回復シナリオ

日銀、薄氷の景気判断維持
3月15日、日銀は金融政策決定会合で、足元の輸出・生産の大幅な落ち込みにもかかわらず、年後半に海外経済が持ち直すことを前提に、景気が「緩やかに拡大している」との認識を維持した。2017年2月撮影(2019年 ロイター/Toru Hanai)

 

[東京 15日 ロイター] – 日銀は15日の金融政策決定会合で、足元の輸出・生産の大幅な落ち込みにもかかわらず、年後半に海外経済が持ち直すことを前提に、景気が「緩やかに拡大している」との認識を維持した。ただ、春闘での大手企業の賃上げは前年実績を下回る回答が相次ぎ、内需が力強く持ち上がる「絵」は描けず、4月末会合で公表される「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」では、経済・物価見通しが一段と下振れる可能性が高まっている。

 

年後半に世界・日本経済が持ち直すシナリオを維持できるのか、日銀は薄氷を踏む思いで新年度を迎えることになる。

 

会合後の黒田東彦総裁の会見では、海外経済の減速を背景に輸出・生産が大きく落ち込む中で、世界・日本経済の先行きと、景気が悪化した場合の政策対応に関する質問が目立った。

 

黒田総裁は、景気判断を維持した理由について「国内需要は堅調であり、前向きの循環メカニズムに変化は生じていない」ことを挙げた。輸出・生産の下振れが設備投資など内需に波及する可能性を「リスクとしては否定しない」としながらも、世界経済は、米経済が相対的に好調を維持する中で、政策効果を背景に年後半に中国経済も回復に向かうと楽観的な見通しを繰り返した。

 

ただ、日銀も年後半に日本経済が持ち直していくシナリオに自信を持っているわけではない。日本経済が踊り場に入りつつある中で、むしろ「日本経済は重要な局面にある」(幹部)との警戒感がある。

 

4月末に公表する新たな展望リポートでは、経済・物価の見通し期間が現在の2020年度から21年度までに延びる。

 

世界・日本経済の先行き不透明感が広がる中で、市場では1─3月期の実質国内総生産(GDP)が、再びマイナス成長に落ち込む可能性が指摘されている。19年の企業の春季労使交渉(春闘)では、基本給を底上げするベースアップ(ベア)の前年割れが相次いでおり、需要拡大を通じた物価上昇の気運はうかがえない。

 

すでに日銀では、現行の見通し期間である20年度までの物価2%目標の実現は困難とみているが、経済・物価見通しの下振れは一段の達成時期の先送りに直結する。

 

もっとも、実体経済の悪化が確認されたとしても、日銀には政策対応余地が限られるのが実情だ。すでに超低金利状態が長期化しており、一段の利下げや資産買い入れの拡大がさらなる需要の喚起につながるのか疑問を呈する声が少なくない。

 

市場機能や金融システムへの副作用なども踏まえれば、追加緩和のハードルは相当に高いといえる。

 

現時点で日銀は、年後半にも世界・日本経済が持ち直していくとの見通しを維持できれば、現行の金融緩和政策を「粘り強く」続けていくことで対応するとみられる。

 

ただ、さらなる金融緩和の長期化は、副作用をさらに拡大させることになる。

 

麻生太郎財務相は15日の会見で、日銀が掲げる物価2%目標について「物価が2%に上がらなかったから『けしからん』と言っている国民は、1人もいないように見える」と述べ、「2%にこだわり過ぎると、おかしくなるということを考えないといけない」と語った。

 

市場では、現行のイールドカーブ・コントロール(YCC)政策の効果について、海外金利の上昇に伴う円安の進行などの追い風が前提であり、低位であっても金利を固定化する政策は逆風下で「矛盾が露呈する」(国内証券)というシニカルな見方もある。

 

経済・物価と金融緩和の関係が複雑化する中で、さらなる金融緩和政策の長期化は、物価目標のあり方や、金融政策の枠組みについても議論を高めることになりそうだ。

(伊藤純夫 編集:田巻一彦)