2012年度を初年度とする3カ年の中期経営計画「CAP-I」(キャップ アイ)を推進するイズミヤ(大阪府)。計画の主眼は、損益分岐点を引き下げ、成長に向けた基盤をつくることだ。収益力の強化をめざして、業務改革やコスト構造の見直しなどに取り組んでいる。同社の坂田俊博社長に、中期経営計画の進捗状況、今後の展望について聞いた。
仕組みを変える、意識を変える、コストを下げる
坂田俊博(さかた・としひろ)
●1949年(昭和24年)11月8日生まれ。73年武蔵工業大学工学部卒業、いづみや(現イズミヤ)入社。2003年ロジスティックス統括部長、取締役。04年商品担当兼ロジスティックス担当。05年営業本部長、常務取締役。06年専務取締役。07年代表取締役専務取締役。08年代表取締役専務取締役執行役員。09年代表取締役社長。12年代表取締役社長兼営業本部長(現任)
──12年度は多くの小売業が苦戦しています。振り返ってみて、営業状況はいかがでしたか。
坂田 ご存じのとおり11年は東日本大震災の影響による特需がありました。ですから、13年2月期は前年実績をクリアしなければならないという意味でハードルが高かったと言えます。
販売動向については、4月は比較的順調でしたが、5月になると国会で消費税引き上げが議論された影響もあり、6月は初旬から低迷しました。そこで、価格対応商品を増やすなどの対策で立て直しを図りました。結果、7、8月はやや持ち直したのですが、9月は残暑が厳しいうえ、野菜の相場安で集客力が弱まりました。ただ10月、11月になると気温が下がったこともあり、衣料品が対前年比2ケタ増、また住居関連品も好調でした。反面、食品は、買上点数は増えているものの、単価下落により前年を超えることができていないのが現状です。
──昨年は、凍結していた新規出店を再開されました。12年3月、大阪市北区にオープンした「デイリーカナートイズミヤ天六樋之口店」ですが、都心部の好立地にありますね。
坂田 人口が密集するエリアで周辺は厚い商圏が広がっています。ただ、近くの市場の影響が想定以上に大きく、当初の計画値には届いていないのが現状です。そこで、品揃えやレイアウトを機動的に変化させ、集客力強化に取り組んでいるところで、売上も上向いてきています。
──12年度から、3カ年の中期経営計画「CAP-I」(キャップ アイ)」をスタートされました。あらためて、計画の中身について教えてください。
坂田 テーマとして掲げているのは「損益分岐点の引き下げ」と「成長に向けた基盤づくり」です。収益の大半を稼いでいる総合スーパー(GMS)からの脱却を進め、新たな収益基盤をつくり、着実な成長路線への転換を図るのが大きな目標です。具体的には、ロジスティクス改革や組織・人事制度改革、さらにグループ企業の再編などを通じ、着実に利益を確保しながら事業拡大できる体制を整えたいと考えています。
キャップ アイの前の中期経営計画「change-i(チェンジ・アイ)」では、「ニューディスカウント」戦略を柱に、価格競争力を強化したMD(商品政策)、費用構造改革に取り組みました。キャップ アイはその延長線上にあります。
──企業体質を変える大きな改革になりますね。
坂田 そうです。「仕組みを変える、意識を変える、コストを下げる」ことを主眼に取り組んでいるところです。
プロセスセンターを活用し、店舗の効率運営めざす
──テーマとして掲げている損益分岐点の引き下げは、どのようにして実現するのですか。
坂田 12年度、出店を約2年ぶりに再開し、天六樋之口店を出店したわけですが、今年度は2月にも、大阪市内と大阪府池田市に各1店ずつの計2店、新店を出します。いずれも食品スーパー(SM)業態の「デイリーカナート」で、売場面積は300坪(990平方メートル)程度になります。天六樋之口店が340坪(1123平方メートル)ですから、ほぼ同規模です。今後、関西地区の出店エリアは都市部を中心に考えていますから、このサイズの店舗が増えるでしょう。ただ、地価も高く、プロセスセンター(PC)工場からの配送も始まりますので、できるだけバックヤードを縮小し、売場のスペースを最大限に確保するように店舗を設計する考えです。
小型店の展開に備えて、推進しているのが業務改革です。その中心となるのがロジスティクス改革で、大阪市住之江区の南港エリアで物流拠点を整備します。まず、今年9月、要冷センターと新総菜工場、および農産向けPCを含む物流センターを稼働させます。そして、14年3月には畜産、水産向けPCが完成します。全体で約42億円の大規模な投資となります。
これらの施設を使って、配送を効率化するほか、生鮮品のアウトパック比率を高めて店舗での業務を軽減していきます。そのため店舗の作業スペースは小さくても済むのです。近年、コールドチェーンの技術が飛躍的に向上しており、鮮度維持についても問題はありません。揚げ物の総菜をつくるなど、店舗で必要な作業以外は、PCを活用していきます。
こうしたロジスティクス改革によりオペレーションコストを低減させ、損益分岐点を下げようと考えています。小型店だけでなく、売場面積2000坪クラスのコンパクトなスーパーセンターの開発も進めていますが、新しいロジスティクスはこの業態でも力を発揮するはずです。
──店舗の従業員の業務も変わってくるのですか。
坂田 当然、ロジスティクス改革の一方で、店舗業務の合理化にも取り組んでいます。現在、当社の利益の大きな部分を占めているのはGMS業態です。しかし、GMSが花形だったころの仕事のやり方が今も残っていて、効率の悪い部分があります。SMでは部門担当者が荷受けもするといったように1人で複数の業務をこなすのが当たり前ですが、GMSではそういうことはありません。GMSとSMでは店舗業務に違いがあるのです。今後は売上規模に応じて業務を標準化し、合理化していこうと考えています。
12年度には、既存の平野店、学園前店、阪和堺店をモデル店として、合理化に着手しました。13年度には10店舗、14年度には15店舗と拡大していきます。基本的には売上高50億円以下の店舗を対象に、この取り組みを広げていく予定です。
PBを強化、13年度に売上高構成比12%が目標
──天六樋之口店では、調理品や半調理商品を集めてコーナー展開するなど新たな試みが見られます。商品や売場での取り組みを教えてください。
坂田 重要なキーワードになっているのは「簡便」です。野菜では、カットした商品を充実させるほか、フライパンなどで加熱すればすぐに食べられるような商品を増やしています。それらは「レディー・トゥー・クック」(すぐに調理できる)、「レディ・トゥ・イート」(すぐに食べられる)といった売場でまとめています。
同じ商品でも、お客さまが求めるニーズは変化します。たとえば、年末に売れるエビなら、昔は有頭エビがいいとされてきました。しかし今は、ゴミが出ないという理由で頭のないものの需要が高まっており、殻を取り除いた商品も売れ筋になっています。ニーズの変化をとらえて、迅速に商品に反映することも大事だと考えています。
お客さまのニーズをとらえて、商品のカテゴリー自体が必要かどうかという視点からも、商品や売場を見直しているところです。たとえば、平野店では駅前の小型店であることを考慮し、大型家電売場を廃止しました。従来のやり方や考え方にとらわれることなく、売場を活性化し、ひいては損益分岐点の引き下げにもつなげたいと考えています。
──大手小売業各社はこぞってPBを強化しています。ユニー(愛知県/前村哲路社長)、フジ(愛媛県/尾〓英雄(おざき・ひでお)社長)との共同開発によるプライベートブランド(PB)については、今後、どういう展開を考えていますか。
坂田 当社では現在、約1200アイテムを販売しています。食品のほか生活雑貨、衣料品もあります。3社共同開発によるPBですが、実はすべて同じ商品を扱っているわけではありません。日配品などは、その地域に合った商品が一部存在します。
これまで、価格訴求力のある「Style ONE(スタイルワン)」を中心に、コーナーエンドや目立つ場所などでアピールしてきました。さらに、力を入れているのは、価値訴求型の「Prime ONE(プライムワン)」です。また当社には、イズミヤ独自のPB「good-i(グッドアイ)」もあり、これを含めて13年度にはPBの売上高構成比12%を目標に拡大していきます。
消費者の節約志向が強まったことで低価格のPBへの抵抗感もなくなってきました。低価格志向という消費者ニーズに応えながら、着実に利益を確保できる点で、もはやPBは不可欠です。また今後、消費税が引き上げられる見通しですが、商品価格に単純に転嫁できない可能性も考えられます。その際、利益貢献度の高いPBで負担分を吸収するという意味でも広げていく必要があると考えています。
グループ企業を活用し、夕食宅配サービスを開始
──12年9月からスタートした、夕食を宅配する新サービス「夕食の宅み菜(たくみな)」のねらいを教えてください。
坂田 高齢化が進行すれば、店舗で買物をしたくても、来店できないお客さまも増えるでしょう。それに対し、こちらから食事を届けるサービスで、お役にたてればとスタートしたサービスです。このサービスは、当社のグループ企業であるデリカ・アイフーズ(大阪府/安部昇市社長)が手がけているもので、今年9月に総菜工場が本稼働するのを前に、試験的に実施している段階です。1日の配達数は現在、250~300食ほどですが、新総菜工場が稼働すれば将来的に1万食を目標に拡大したいと考えています。
当社ではネットスーパー事業も展開しています。お客さまの自宅に商品を配達するという点では同じですが、効率面から見ると、この2つはまったく別物です。夕食宅配サービスは、水曜日までに翌週分の注文を受けつけ、配達します。これに対して、ネットスーパーは店舗を拠点に注文を受け、その日のうちに配達します。日によって発注量にばらつきがあるため、配送コストをどうコントロールするかが課題になっています。
──ネットスーパー事業の収益化については、どう見ていますか。
坂田 ネットスーパー事業は、サービスの展開方法を変更してきており、黒字化の見通しがつきつつあります。以前は、広範囲にチラシをまいて会員を募る手法をとっていました。しかし現在は、エリアを決め、その中で一定数の会員が集まった段階でサービスを開始するというやり方に変更しています。こうすることで、収益が見込めるようになりました。
ネットスーパーの1回当たりの購入金額は約4000円です。1日120件の注文があれば、利益が出るようになります。本来は、70歳以上の年齢層の方に利用してもらいたいのですが、今のところパソコンを日常的に使っている30~40歳代が多くを占めています。ネットを利用した買物が拡大していますから、このサービスは継続的に力を入れていく方針です。
──13年度は中期経営計画の2年目に入ります。変革に向けた意気込みを聞かせてください。
坂田 テーマとして掲げる「損益分岐点の引き下げ」そして「成長に向けた基盤づくり」をなんとしても実現したいと考えています。その一環で今年4月からは新たな人事制度も導入します。従来の年功序列型から、がんばった人が報われる評価法も取り入れる予定です。
これからの2年で、会社が大きく変化することを期待しています。今後、中国での事業も軌道に乗せ、成長路線への道筋をつけたいと考えています。国内では競争がさらに激しさを増し、業界再編も加速度的に進むはずです。そのとき、勝ち残れる企業となるため、必ず成果に結びつけたいと思っています。