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グループとしてのシナジーをより発揮=西友兼ウォルマートジャパンHD CEO 野田 亨

低価格戦略を強烈に推し進め、そのバックボーンとなるコスト構造を改革した結果、西友(東京都)はディスカウントリテーラーへと変貌した。同社は今後、いよいよ本格的な成長モードへと移行する。2010年2月に西友CEO(兼ウォルマート・ジャパン・ホールディングスCEO)に就任した野田亨氏に聞いた。

日ごろの買い回り商品について、最高の価値を提供する

西友CEO(最高経営責任者)兼ウォルマート・ジャパン・ホールディングスCEO 野田 亨(のだ・とおる) 1960年生まれ。学歴 84年慶應義塾大学卒業。 93年ハーバード・ビジネス・スクール卒業、MBAを取得。職歴 84年三菱商事入社、93年米国三菱商事会社デトロイト支店、2000年三菱商事生活産業流通企画部eBusiness投資ファンド総括マネジャー。 03年、Berlitz International, Inc. 入社、同社会長、社長兼CEO。07年西友入社、同社執行役エグゼクティブ・バイス・プレジデント(EVP)最高執行責任者(COO)。 09年12月ウォルマート・ジャパン・ホールディングスに移籍、同社執行役員EVP COO。10年2月、西友CEO兼ウォルマート・ジャパン・ホールディングスCEOに就任

──まずは、ウォルマートグループとしての西友の日本市場への浸透度についていかに考えていますか?

野田 私どものお客さま、とくに主婦の方は、ほとんどの人が“ウォルマート”という名前を聞いたことがないですから、“ウォルマート”の名前にこだわるつもりはありません。したがって当社の店は、西友の看板を掲げており、九州ではサニーという屋号を使っております。また、市場への浸透度ということでは、まだまだマーケットシェアは微々たるものですから、低いという認識を持っています。

──米国のウォルマートは日本市場を特殊だと考えているのでしょうか?

野田 ウォルマートは、米国含めて16ヵ国で事業展開をしていますが、それぞれの市場が特徴や個性を持っているととらえています。ですから、日本には日本の文化を背景にしたお客さまの嗜好があることは認識しています。ただだからといって、日本市場が特別だという認識は持っていません。

──ということは今後、全世界で同じ商品政策(MD)をウォルマートが推進していくということもあるのですか?

野田 これまでもそうなのですが、ウォルマートから「こうしなければならない」ということを、少なくとも私が在任中に押し付けられたことはありませんし、今後もそれはないと思います。あくまでも私たちは、日本においてあるいはグローバルな環境で、少しでも多くのお客さまに最高の価値・サービスを提供し、われわれのミッションである“Save money. Live better.”をお知らせして行きたいと考えています。

──では、その価値・サービスを提供する先である顧客について、西友がターゲットとする想定顧客はどういうものか、教えてください。

野田 私たちは、特定のお客さまにサービスを提供しようということではなく、広くすべてのお客さまに私たちの持っている価値をご提供したいと考えています。ただ西友は、創業から40年以上経っており、これまで当社を育ててくださったお客さまがいらっしゃいます。ですから、そうしたお客さまのニーズにしっかり対応しながら、新しいお客さまがお持ちのニーズ、とくにニューファミリーや小さなお子さんをお持ちのお客さまから支持されるような施策をとっていきたいです。

──店舗ごとに顧客層は随分異なると思うのですが、この対応についてはどのように考えていますか?

野田 “すべてのお客さまに100%の満足を提供できる”という驕りを私たちは持っていません。その中のいちばん大きいニーズをしっかりとらえて、充足させたいと考えています。

 その中心となるのが食品や日用品など、日ごろの買い回り商品です。それについては、私たちは最高の価値をご提供していきます。

 加えて大型店や中型店では、ワンストップショッピングという利便性をしっかりと提供しながら、衣料品と住居用品について対応していく考えです。

競合より安く、従来の価値概念よりも安く

──日ごろの買い回り商品にフォーカスするという話ですが、西友さんでは“カカクヤスク”をキーワードに低価格戦略を強化しています。

野田 私どもがお客さまに提供しうる価値は大きく4つあると思っています。それは、価格と品揃え、品質・鮮度、そして利便性。この4つが、私どもが考える価値の源泉です。

 その中でも、今の段階では、とくに価格に重きを置いています。なぜかといえば、「今お客さまが低価格をお望みだろう」ということをデータや調査のうえで知っているからであり、ウォルマートグループの一員として、お客さまに大きくアピールしうるポイントが価格であるからです。

 そういうわけで西友は、価格政策を重視し低価格を打ち出しています。

──西友もウォルマートの代名詞である“EDLP”(エブリデイ・ロー・プライス)政策を進めていますね。

野田 社内でEDLPという言葉を言い始めたのが2008年2月の社員集会で、これがEDLP元年です。かつて西友はEDLPに近いことにトライしてみたことはあります。しかし、それは用意周到な準備のうえで行われたわけではありませんでしたから、それ以来、社内ではEDLPという言葉を使うことに非常に慎重になっていました。08年2月にEDLPという言葉を使い始めたということは、それを具現化できる環境が整ったという意味です。

 EDLPの定義については、基本的に“毎日低価格”であることです。

 相場商品のような毎日価格が変動する商品も含まれますし、競合との関係もあります。だから、常に一定の価格かといえばそうではない商品もあります。

 ただ基本的には、私たちがコア商品と呼んでいるグロサリーや住居用品などは、極力毎日同じ価格でかつ低価格でご提供していきます。

──西友さんが考える低価格の“低”は、何に対しての“低”でしょうか?

野田 一つは、マーケットにおいて安いということ。お客さまは競合と比較したうえで「西友のほうが安い」と判断されるわけですから、マーケットにおいて、つまり競合他社に対して安いということです。

 もう一つが、これまでの価値概念に対して安いということ。「こんなにも安ければお買い得だね」と言っていただけるような価格を打ち出すことです。たとえば2年ほど前、当社ではバナナを1房97円で販売しました。なぜそうしたかといえば、1房100円を切ることで、安いという印象をお客さまに持っていただけるからであり、競合他社と比べても価格差が大きいからです。ちなみに現在では、バナナを1房88円で販売しています。

店舗の生産性は毎年2~3割もアップ

──EDLPを実現するには、EDLC(エブリデイ・ロー・コスト)の態勢構築が不可欠ですが、EDLCの進捗度はいかがですか?

野田 価格を下げるための裏づけとなる、“コスト”は着実に下がり続けているという状況にあります。当社はウォルマートと提携後、地道に物流改革やムダなコストを省くための仕組みの導入を行ってきました。ディスカウントリテーラーとしての低価格を実現するためには、どれだけコスト削減をしなければならないのかということをまず考え、コストを省くための仕組みを作り上げ、そしてその仕組みに則ってコスト削減を進めてきました。

 その結果08年後半から、EDLPを具体的に実現できるコスト構造が構築されてきたというわけです。

 とくにこの2年間のコスト削減、効率化はめざましいものがあり、店舗の生産性は毎年2~3割も上がっている状態です。

──さらに低コスト体質を追求していく意味でも、今後どのようなシステムに投資を行う計画ですか。また、それによりどのような改善効果が得られると考えていますか?

野田 実は当社はまだウォルマートのシステムを使いこなしていません。とくに商品調達分野については完全に統合されていないので、それがうまく機能すれば世界中のデータをリアルタイムで、しかもどういうプライシングにすればどれだけお買い上げいただけるのかがわかる仕組みが構築されます。さらにそれと物流の仕組みをリンクさせ、次いで店頭での需要予測にもとづいてレイバー・スケジューリング・プログラム(LSP)にまで結びつけていく考えです。こういったものがすべてリンクすれば、非常に大きな効果が発揮されると考えています。

──商品原価も相当程度下がっているのですか?

野田 相当と言えるレベルかどうかはわかりませんが、これから実現できるように、進めていきます。サプライヤーさんも売上を伸ばすことをめざされていますから、そういう企業としっかりパートナーシップを組んで情報を共有しながら取り組んでいきたいです。その段階で商品原価が下がっていくということもあろうかと思いますし、また期待もしています。

 とくに日本のサプライヤーさんとの取り組みを強化していきたいです。たとえばネスレさんと取り組んで、プライベートブランド(PB)の水(500mlペットボトル)を店頭で48円で販売しているのですが、似たような商品が日本のサプライヤーさんの場合は100円を超える売価になってしまうのです。日本のサプライヤーさんとはそういった取り組みが、まだ実現できていないということですから、何か課題があるのだと思っています。水は重いですから、太平洋を渡って調達してくるコストはそれなりにかかります。日本国内でもっと合理化できれば、場合によってはこのPBを下回る価格でよい品質の水を提供できるのではと期待しています。

 このように、お客さまに最高の価値を提供するために、世界中のよい商品を低コストで持ってくるということと平行して日本のサプライヤーさんと日本で取り組んでいくことで、商品原価を下げていく努力をしていきたいです。

 当然のことながら、サプライヤーの方々に、交渉の過程で圧力をかけながら原価を下げるということは長続きしません。あくまでもサプライヤーさんとはWIN-WINの関係で、お互い得るものがあって初めて長期的な安定した価値提供をお客さまにできるわけですから、そのように取り組んでいます。

──ネスレさんやP&Gさんなどのグローバルメーカーとは戦略的に取り組めているということですが、日本企業との取り組みで成功事例はすでにありますか?

野田 ええ。ジョイント・ビジネス・プラン(JBP)というプランで、約30社といろいろな取り組みを行っています。その中からさらに密接な取り組みができる企業が出てくるのではないかと期待しています。

既存店売上高対前期比0.3%増「まだまだ満足していない」

──さて、09年度はGMS(総合スーパー)各社が苦戦する中で、西友さんは既存店売上高対前期比0.3%増となりました。この業績をどのように評価していますか?

野田 当初の私どもの期待と比べ、はるかに及びませんでしたので、まだまだ満足していません。品切れもあったと思いますし、競合と比べて十分な価格差があったとは言えない商品もありました。まだまだ至らない点は多々ありますので、今、一つひとつ改善しているところです。

 現在は、食品・日用消耗品が売上を牽引している状況です。しかしながら、衣料品・住関連品でも非常に大きく伸びているカテゴリーもあります。たとえば文具や一部家電などはわれわれの予想以上に伸びているのです。今後は、それ以外のカテゴリーも成長モードに転換できるように、改善を進めていきます。

──最後に、CEOに就任されて今後どのようなことに取り組んでいくのか、抱負を聞かせてください。

野田 これまで以上に、「われわれはワンチームだ」ということを言い続けたいと思っています。

 08年のグループ統合以降、いかに横の連携を取るかに注力してきました。これにより低減できるコスト、改善できる効率性が大きいからです。ワンチームとして全員が活動し、同じ方向を向くことで、徹底的にムダとムリを省くことをやってきました。それをやり続けるとともに、今度はウォルマートグループの一員として、情報を共有・交換しながら、われわれが情報を提供する側にもなりたい。そうすることで、ウォルマートグループとしてのシナジーがより発揮されることになると考えています。