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3年かけた足場固めで収益力回復、今期は攻めに転じる=京王ストア 内藤雅浩 社長

「ハウスカード会員が来店客の50%を占め、売上高の70%を握る」京王ストア(東京都)の内藤雅浩社長は、ロイヤルカスタマーからの支持に手ごたえを感じている。価格競争が激しくなる中でも、同社が展開する“上質スーパー”「キッチンコート」に固定客がついているからだ。社長に着任した翌年の2005年から取り組んだ業務改革で、就任当時に1%を割り込んでいた経常利益を2%台に回復させた。年商414億円。次なる成長に向けて、“上質”スーパーの出店加速に乗り出す。

品質を求めるお客さまは確実に存在する

京王ストア 代表取締役社長 内藤雅浩(ないとう・まさひろ) 1966年京王電鉄入社。98年同社SC事業部長を経て、2000年京王アートマン代表取締役社長、03年京王ストア代表取締役専務、04年から現職。

──3月31日に、JR中央線「三鷹」駅(東京都)の北口に“上質”食品スーパー(SM)の「キッチンコート」を出店しました。

内藤 こうした経済環境ではありますが、おかげさまで滑り出しは好調です。「キッチンコート」はレギュラーフォーマットの「京王ストア」に比べてワンランク上の商品構成になっており、これが地元のお客さまから比較的支持をいただけたという印象です。

 少しこだわった商品を求めるお客さまは、これまでJR中央線「吉祥寺」駅周辺の店舗に流出していました。こうしたお客さまを、三鷹に呼び戻したいと考えていましたが、オープン後の状況を見る限り、期待どおりの反応をいただけたと感じています。

──三鷹駅前は激戦区で、価格競争も激しいエリアです。

内藤 そうですね。三鷹駅の南側は価格勝負になっていて、SMだけでなく、カテゴリーキラーやディスカウント業態が多くあります。そうした企業と同質競争になっても、当社は対抗できませんので、品質や価値を訴求して、価格競争とは一線を画したいところです。

 もちろんSMが扱うのはふだんの食生活のための商品ですから、そのためのボリュームゾーンの品揃えはしっかり対応しますけれども、全体の2~3割程度の商品は、品質にこだわって差別化を図り、むやみに価格競争はしない方針です。

──今後、「キッチンコート」業態で出店攻勢をかける方針を打ち出しています。

内藤 今、「キッチンコート」業態は4店舗で展開しています。「京王ストア」と「キッチンコート」の2つの業態を比較すると、「キッチンコート」のほうが固定客を獲得しており、比較的支持率が高いことがわかっています。

 たとえば、「京王ストア」の売上高が対前期比6%減となるようなときでも、「キッチンコート」はその半分程度の減収にとどまっている。これは商品構成を考えたら当然の結果です。価格訴求で集客を図るフォーマットは、価格競争が激しくなる中で商品価格そのものが下落していきます。また、価格が集客要素である限り、より低価格で販売できる店舗にお客さまを奪われます。その結果、売上全体も落ちてしまうことになるのです。

 一方、「キッチンコート」のように、商品価値をきちんとお客さまにお知らせし、提案できるフォーマットは、価格で他店に流れるお客さまが比較的少ない。京王線沿線は、それなりに購買力の高いお客さまが多いこともあり、「キッチンコート」の売上の落ち方が少ないのだろうと考えています。

ハウスカード会員が来店客の50%を占め、売上高の70%を握る

──京王電鉄グループは「京王パスポートカード」というハウスカードを展開しています。このカードからの情報や、グループシナジーも出ているのでしょうね。

内藤 これは相当に大きな武器になります。「京王パスポートカード」は、京王グループ全体で使えるカードです。電車やバスに乗る、タクシーを利用する、ホテルに泊まる、百貨店で買物をする……生活に密着した消費行動に、共通ポイントが付く。とくに沿線にお住まいの方には、使い勝手のよいカードですね。現在、カード会員は約100万人おりますが、京王ストアが出店しているエリアのカード保有率は高いですよ。

 ハウスカード利用分の顧客分析の結果、カード会員のお客さまの売上が全体の7割に達することがわかりました。カード会員のお客さまは、それほど“浮気”をしません。ですから、そうしたロイヤルカスタマーが求めている品質は守っていこうと考えています。そうした傾向がとくに顕著なのが「キッチンコート」なので、今後は積極的に出店していこうと考えています。ただし、「キッチンコート」はどのような立地でも成功する業態ではありません。都心から10km圏内のエリアなら成立すると見ています。

──ハウスカードは、販促にも効果テキメンですね。

内藤 ポイントカードは有力な販促ツールですね。ポイント5倍セールを実施すると、売上高、来店客数ともに2~3割は増えます。

 販促については今、チラシの効果を検証し、見直しを進めているところです。実は、この1年間、チラシ販促の効果検証に取り組んできたのですが、効果がはっきりしていません。そこで2月から実験的に、従来なら週に2度配布していたチラシを1回に減らして、動向を観察しています。チラシの配布回数を減らしても、実際にはそれほど売上に影響していないことがわかってきました。

 3月下旬からは、価格訴求で売るものと、品質を訴求するものの2パターンにチラシを分けています。価格訴求をする商品については日替わり商品を前面に打ち出し、一方、こだわり商品のように商品自体を訴求するためのチラシは、価格訴求のものとは別にしています。

──ハウスカードから吸い上げたデータを活用した商品政策(MD)などには取り組んでいますか。

内藤 MDに関しては、アイテム数の見直しに着手しました。

 当社の300坪タイプの店舗の場合、総アイテム数は家庭用品まで含めて1万3000~1万4000アイテムになります。食品だけだと7000~8000アイテムくらいはあると思います。ただ、実際には7000~8000アイテムというのは多過ぎると思うのです。

 そのため今は、品揃えを絞り込む方向にあります。お客さまの支持が高いカテゴリーについては品揃えの幅を確保しながら、商品回転率の低い部分はアイテム数を削減し、主力商品を強化しようということです。それがお客さまのニーズにこたえることになり、当社の経営効率の改善にもつながっていきます。

 食品の“こだわり商品”については、若干、惰性で増やしてしまった反省があります。現状の品揃えは10~20%程度は余分だと思います。ですから、お客さまに向けて何を売っていくのかを考えなくてはいけません。そのために、購買データを活用し、商品構成を見直しています。

──そうした取り組みは、いつごろから始めたのでしょうか?

内藤 2006年からスタートした前中期3カ年計画の期間に、新たな情報システム「新営業商品管理システム」を導入し、09年から全面稼働しました。

 新システムの導入によって、店舗ごとに週次レベルでの単品管理が可能となりました。すべての商品について、売上高、粗利益高、値引き額、ロス額、在庫数等を把握できるようになり、特売時の反応なども数字で管理できるようになりました。このデータを週次、月次で見てみると、売れずに動かない商品がわかります。このデータに基づいて売れ筋と死に筋に分けるABC分析を実施し、リピート購買率も加味しながら商品の改廃を実施していきます。リピート購買率が低くて、なおかつCランクの商品は無条件に排除する。こうすることで、2割程度は削減できると見ています。

 新営業商品管理システムは、値引きロスや廃棄ロスの削減に大きな成果を挙げています。

LSP導入で収益力を回復

──京王線沿線も含め、京王ストアの出店エリアは不動産コストの高いエリアです。そうした意味で、ローコストオペレーションについては何をされていますか。

内藤 前中期3カ年計画で課題となった中に「EDLC」、すなわちエブリデイ・ロー・コストの確立というものがありました。

 店舗段階の販売管理費で、いちばんコストがかかるのは人件費です。そこで、3年前から社内にLSP(レイバー・スケジューリング・プログラム)チームを立ち上げました。このチームが実際に店舗に入り、店舗作業の見直しを進めています。やみくもに頭数を減らすのではなく、人員配置の最適化に取り組んできました。

 縦割りの部門ごとに動いていた作業の体系を見直し、1人の従業員が部門の垣根を越えて作業ができる「多能工化」を取り入れたことも、人件費の削減に寄与しました。実際、05年度に1店舗当たり59人だった従業員数は、10年4月現在50人程度まで減っています。これが、LSP導入による作業の見直しと、多能工化を取り入れたことの成果です。

 また、経費も見直しました。たとえば、業務委託の際には相見積もりや競争入札を実施し、2カ所あった物流センターを1カ所に統合したことで、1億円程度のコスト改善になりました。

 05年時点では、当社の経常利益率は1%を割り込む水準でしたが、08年度には世間の上場各社並みの2%を超える水準まで回復しました。こうした作業の見直しと諸経費の改善が、3年間で利益を押し上げた要因です。

──デフレ環境に陥って久しいですが、京王ストアの価格戦略について改めて教えて下さい。

内藤 昨年10月から、客数が前年実績を割り込むようになりました。既存店ベースで3~5%減です。ハウスカードを分析すると、カード会員のお客さまの減少は、それほど大きくないことがわかりました。中でも売上高上位3割の上位顧客の減少は少なく、下位顧客が他社に流れていました。

 このことから言えるのは、競合店に比べて価格帯が多少高くても、上質でよい商品は支持されているということです。もちろん、ボリュームゾーンについては当社もきちんと品揃えしますが、品質への安心があって来店されるわけですから、品質を落としてはいけません。

 今、既存店客数が減少しているのは、価格で動くお客さま分の売上が落ちているということです。そこを意識しすぎると、今度は品質を落とすことになり、ロイヤルカスタマーが離反してしまいます。それでは本末転倒です。

 当社は価格競争をせずにきた分、利益率は向上しています。いたずらに価格を訴求すれば利益を毀損するし、商品構成も狂います。そしてその結果、売上も利益も落ちてしまうのです。

──そうした中で、八社会(東京都/玉置富貴雄社長)の開発商品「Vマーク」は、ボリュームゾーン商品の価格訴求という意味でも、また粗利益の確保という意味でも有効ですね。

内藤 八社会が開発する「Vマーク」商品は、今、価格競争力の高い商品開発に舵を切っています。八社会全体として単品で1億~2億円程度にロットがまとまるような商品に絞り込み、ナショナルブランド(NB)商品に対抗できる商品開発をしようという方向です。

 八社会加盟企業の交流も盛んで、どういう商品がどこで売れるか、といった分析情報も共有しています。

駅を“お客さまカウンター”にする
「京王ほっとネットワーク」

──今、業界内にはインターネットを活用した「ネットスーパー」に取り組む動きが広がっています。高幡(東京都)エリアではネットスーパーに取り組まれていますが、お客の反応はいかがですか。

内藤 インターネットについては、京王電鉄グループ全体で取り組もうとしているところですが、なかなか難しいものがあります。巷で言われているほどの反応はありませんね。

 もともと当社は、年齢層が比較的高いお客さまが中心ということもあり、当社のお客さまと、インターネット利用層との間にギャップがあるように思います。

 ただ、当社が長年にわたって取り組んできた宅配は、間違いなく伸びています。買い上げ単価も通常のリアル店舗で2000円くらいのところが、宅配になると8000~9000円になりますし、利用者も年に10%程度の割合で増えてきています。1日に数十件のオーダーがあり、確実にニーズが高まっているのを感じます。高齢社会という背景もありますし、坂の多い地区などは利用が多いですね。

──京王電鉄が沿線居住者に向けて、生活関連サービスを提供する「京王ほっとネットワーク」事業を展開しています。

内藤 「京王ほっとネットワーク」は京王電鉄グループで展開しているもので、たとえば住まいの小規模修繕、引越し、不用品の処分など住まいに関する「住まいのサポートサービス」、家事代行サービス、食料品を中心とした「宅配サービス」、ホームページからの注文による「お買いもの代行」や「シニアセキュリティサービス」に取り組んでいます。

 その一環として当社は現在、高幡店と桜上水店(東京都)の2店舗で、お客さまの生活のご不便を解消する「宅配サービス」や「お買いもの代行」を展開しています。

 京王電鉄グループは、少子高齢化が進む中で、京王線沿線が将来にわたって活力を維持できるサイクルをつくり上げようと考えています。当社もグループのSM企業として、高齢者世代が生き生きと暮らせ、子育て世代が暮らしたくなる街づくりの一端を担っていきます。