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驚異のEDLPで快進撃、売上高2000億円を突破=オーケー 飯田勧 社長

首都圏に60店舗を展開するオーケー(東京都/飯田勧社長)の業績が好調だ。2010年3月期の数字をもとに株式未公開企業が今何を考えて、どの方向に向かおうとしているのかをレポートする。

異質のディスカウントストアづくりに努めるオーケーの飯田勧社長

 オーケーの2010年3月期決算が発表された。

 売上高は対前期比12.3%増の2148億6000万円と創業以来、初めて2000億円の大台を突破。営業利益は111億1200万円(対前期比15.3%増)、経常利益は112億7800万円(同14.8%増)と厳しい商環境をものともせず、2ケタの増収増益を達成、既存店舗の売上高は同2.5%増だった。

 しかしながら、飯田社長はこの好業績にも不満の表情を浮かべる。

 09年末から売上伸長が急速に悪化し、第4四半期の既存店は同0.3%減。新店を含めても、同6.7%増と不本意な結果に終わったためだ。

 「原因ははっきりしており、不景気、単価安、相場安、競争激化、自社競合などです。とくにここにきて、当社は同業他社から標的にされ始めました。不景気という社会的な逆風には正面から向かい合い、いかにして克服するのかが問われています。そして、順風は自らが創りだして、いかに優位性を持たせるかが大事です」(飯田社長)。

店舗開発の仕組みを見直す

 オーケーは、1999年から経営目標を「借入なしで年率30%成長」に据え、達成をめざしてきた。既存店舗で10%成長、国道16号線内側への新店の出店で20%成長を図っていくというものだ。このため、毎年総売場面積の20%に当たる新規出店を政策の要としてきた。

 ちなみに10年3月期末のオーケーの総売場面積は10万6058平方メートル。その2割というと約2万1300平方メートルになる。同社の標準店舗は、「売場面積2000平方メートル、後方面積1000平方メートル、駐車台数150台以上」なので、現状では毎年11店舗以上の出店が必然的に課されていることになるわけだ。

 しかし、10年3月期におけるオーケーの出店は、板橋大原店(東京都:売場面積1605平方メートル)、川口末広店(埼玉県:同1889平方メートル)、下期に幕張店(千葉県:同1896平方メートル)、南大沢店(東京都:同1934平方メートル)、浦和原山店(埼玉県:同2279平方メートル)の5店であり、目標にはあと6店舗足らない。

 「これまでの体制ではなかなかスムーズに開発を進めることができませんでした。結果として、出店速度の遅れが目標達成の足を引っ張ったのです」(飯田社長)。

 そこでオーケーは、店舗開発システムの抜本的な見直しを図り、09年末に新しい仕組みに切り替えた。詳細については、今のところ明らかにされていないが、契約締結日から開店までは18ヵ月を要するので、この成果は13年3月期からかたちになって現れるはずだ。

 なお、11年3月期の新店は足立小台店(東京都:同2681平方メートル)、川越店(埼玉県:同2413平方メートル)など合計6店舗を予定している。

最新技術も古いノウハウも導入する

 ただ、オーケーは、「借入なしで年率30%成長」の旗を降ろしたわけではない。14年3月期の達成に向けて、さまざまな仕組みを創り続ける。

 売りを支える仕組みも最先端の技術から浪花節調のノウハウまで次々と取り込んでいる。

 「他の小売業さんと同じことはやりません。違うことばかりやっています」と飯田社長は自信の表情だ。

 そして、その代表例は、革新的冷凍技術のCAS(Cells Alive System:キャス)を導入していることだ。食品の水分子を動かし、細胞組織を壊さずに凍結できる技術である。この活用によって、生鮮食品を解凍しても本来の旨み、食感、色、風味を維持することができるようになった。03年に導入を開始。全店舗のバックルームに約15平方メートルの保管庫を設置した。そしてCAS凍結による船上ワンフローズンのマグロを販売している。

 産地で凍結したCAS商品以外にも、他の冷凍食材・冷凍食品の保管に使用している。海産物、農産物、畜産物のCAS仕様商品も増えおり、消費期限が延びるとともに廃棄ロスがなくなり、低価格訴求のための強力な武器となっている。

 「オネスト(正直)カード」の取り組みも見逃せない。

 「只今販売しておりますグレープフルーツは、カリフォルニア産で酸味が強い品種です。フロリダ産の美味しいグレープフルーツは2月中旬入荷予定です」

 「長雨の影響でレタスの品質が普段に比べ、悪く値段も高騰しています。暫くの間、他の商品で代替されることをお薦めします」

 「本日販売しておりますスイカは日照不足のため糖度が不足しています(糖度約10度)。お差し支えなければ、他の商品のご利用をお薦めします」

 などなど、あえてマイナス情報を記したPOPを貼り、できるだけ正確で正直な商品情報を消費者に知らせる仕組みだ。

 「もともと商店の発想なのです。商店街にあった八百屋さんは、『酸っぱいけど、蜂蜜をかければおいしく食べられる』という具合に、お客さまに対して会話の中で本当のことを話したものです。また、実際に品質の悪い品物を仕入れても売れないものです。結局、購入されたお客さまにご迷惑がかかります。品物の悪い日は仕入れない、仕入れた商品には『オネストカード』を付ければ、われわれもお客さまも得をするのです。それがまた安く売ることのできる原資になります」(飯田社長)。

「売上を上げることしか言っていません」

 値入れ率20%、売上高経費率14%、経常利益率は6%──。

 オーケーの経営方針は、「高品質・Everyday Low Price」だ。特売日がない分、同社の新店を認知してもらうまでには時間がかかる。そして、開店1年後くらいからグンと売上が伸び始める。その上、会員組織であるオーケークラブの会員には導入当初の消費税相当額(3%)を割り引き、EDLPに磨きをかけている。現在、会員数は実に198万人を数える。

 EDLPの前提条件はEDLC(Every day Low Cost)であるが、飯田社長は「オーケーは経費率が低いのではない」と言い切る。「全体の経費は高い。CASなどの設備も高額です。ただ、売上が大きいから、率が下がっているだけなのです。だから社内では売上を上げることしか言っていません」。

 実際、期末現在60店舗を展開する同社の1店舗当たりの売上高は、35億8100万円と非常に大きい。

 1平方メートル当たり売上高は202万円と上場食品スーパー企業との比較ではオオゼキ(東京都/石原坂寿美江社長)に次ぐ、第2位の高さを誇っている。

 拡大路線を支える従業員の強化にも乗り出しており、10年4月には大卒130人、高卒240人の合計370人を採用した。正社員の層を厚くして、新店出店による戦力低下を防ぐことを意図している。入社6年経過後、28歳で店長をめざす。

 「オーケーの社風『極めて謙虚で、極めて誠実、極めて勤勉』を守ってオーケーを支え、次世代につないでゆく社員に年収だけではなく資産形成も含め豊かな生活を確保する仕組みを創り、『オーケーで仕事をしてやり甲斐もあり豊かになって幸せだ』と社員に喜んでもらいたいのです」(飯田社長)。

 ところが人事面では、「10%ルール」という厳しい「ムチ」がある。営業部門の職種ごとに、評価順位で下位の10%を自動的に配置転換するものだ。たとえば、店長も10%は降格になり、1年間勉強して出直す。「外れた人には外れた人のコースがあります。もちろん、どこかで復活のチャンスもあるのです」(飯田社長)。

 厳しい制度がある一方で、「アメ」も持っている。店長、部門チーフ、部門バイヤー、営業各部門の統括責任者などの数値責任者には四半期ごとに業績に応じて特別賞与を支給している。年棒×60%×(4分の1)が相当額となる。

 こんなユニークで異質な仕組みがオーケーの快進撃を支えている。