メニュー

世界で戦う企業は当社と同じ製販一体型のビジネスモデル=神戸物産 沼田昭二 会長兼社長

「業務スーパー」をフランチャイズ(FC)方式で展開し、急成長を続けている神戸物産(兵庫県/沼田昭二会長兼社長)。同社は、ローソン(東京都/新浪剛史社長)やオークワ(和歌山県/福西拓也社長)といった有力小売業と合弁会社を設立するなど、流通業界で今、最も注目される企業の一つだ。同社の「食のSPA(製造小売業)」というビジネスモデルの本質や強み、そして今後の戦略について、沼田会長に聞いた。

製販一体型の製造小売業を展開する稀有な存在

神戸物産代表取締役会長兼社長 ぬまた・しょうじ。昭和29年4月26日生まれ、兵庫県出身。昭和48年4月、三越入社。昭和56年4月、食品スーパー創業。昭和60年11月、神戸物産設立、代表取締役就任。平成20年9月、代表取締役会長兼社長就任(現任)。

──神戸物産は自社グループ工場で商品を製造して、FC本部として業務スーパーやレストラン、総菜店などを展開する、製販一体型の製造小売業を展開しています。まずは、このビジネスモデルに着目された経緯から教えてください。

沼田 当社は1992年、中国の大連に工場を開設して、そこで製造したわさびや梅干をアメリカやヨーロッパで販売するというビジネスを本業としていましたが、その前の80年代から実は小さな食品スーパー(SM)を2店舗展開していました。

 日本における小売業のビジネスモデルは、バイイングパワーで安く仕入れて安く販売して店を強くしていくというやり方です。早く参入してバイイングパワーを手に入れたものほど強いわけですから、後発組が同じことをやっていては勝ち目がありません。

 そこで、どうすれば継続的に成長できるビジネスモデルが構築できるかを考えた結果、製造小売業じゃなければならないという結論に至ったのです。具体的な仕組みを考え始めたのが97年ぐらいで、ビジネスモデルの構築に着手したのが99年、そして翌2000年の3月に業務スーパーの1号店をつくりました。

──すでに業務スーパーの1号店を開設した時点から、製造小売業を志向していた。

沼田 そうです。海外の強い企業を見ていると、ウォルマートもマクドナルドも、ケンタッキーフライドチキンも製販一体型のビジネスモデルです。

 一方、日本では、商品を右から仕入れて、売買差益を付加して、左に流す、というまさに“流通”業を行っています。このやり方は、企業がどんどん出店して成長モードにあるときはよいのですが、出店が止まった伸び悩みの時期にはさまざまな負の資産が一気に噴出して企業を苦境に追いやってしまうことは、これまでの歴史が証明しています。

 海外の企業を相手にビジネスをする中で、日本の商売の仕方に大きな違和感を持っていましたから、ビジネスの仕組みを根本的に変えなければならないと思っていたのです。

──現在のビジネスモデルを構築するうえで、参考にした企業はありますか?

沼田 しいて言えば、ウォルマートとマクドナルドです。とくにウォルマートとは、実際に商談をしてみて、バイヤーがメーカーの人間以上に食品加工について詳しかったことに、いちばんびっくりしました。売上高販管費率(販管費率)重視の商売も参考になりました。当時、ウォルマートの販管費率は16%ぐらいだったので小売業は、その水準じゃないといけないと刷り込まれました。だから、当社の業務スーパーの販管費率は今14%ぐらいです。

赤字のメーカーを買収して短期間で黒字化

──92年、中国に工場をつくり、製造業に参入しました。製造に関するノウハウなどはどのように蓄積されていったのですか?

沼田 当時は製造技術を持っていなかったので、日本のメーカー6社に工場を場所貸しし、当社の従業員を使ってもらいました。日本のメーカーが独力で中国に投資して事業展開するのはリスクが高い。しかし低コストで製品をつくり、世界中に輸出できますから、メーカーにとってのメリットは大きい。

 そこで、当社がリスクを持つことにしました。その代わりに、6社が何十年にもわたって蓄積してきた製造ノウハウや技術を学ぶことができたのです。

 その後も、M&A(合併・買収)を実施し、現在では国内メーカー10社、13工場を保有していますから、それらのノウハウや技術も当社に全部蓄積されています。

──国内メーカーのM&Aは、08年以降、とくに積極的に行っています。

沼田 欠如しているものをM&Aによって補うというのが基本政策で、すべて計画的かつ戦略的に行っています。本当はもっと早い時期からM&Aに精を出したかったのですが、私が04年に大病を患ってしまったこともあり計画よりも遅れてしまいました。ところが、08年ぐらいからメーカーの経営環境が悪化してM&Aをしやすい状況に変わってきましたので一気に進めることにしたのです。

──M&Aの対象はすべて赤字であり、短期間で黒字に転換させていると聞いています。具体的にはどのような手法を用いているのですか?

沼田 09年6月には子会社のメーカーで累計月間6100万円の赤字でしたが、それから1年後には、月間5000万円近い黒字になっています。ですから1年で1億円以上単月度損益が改善していることになります。

 立て直しは技術力さえあれば、さほど難しいことではありません。赤字になるには理由があるわけですから、そのおかしい部分を修正して、あとは各社の工場長に任せ、当社から従業員を派遣することはありません。

 当社グループに入ることで、メーカーのコストは上がります。残業代や賞与をしっかり支払いますから、人件費は平均で20%ほど上がります。その部分をカバーしてなおかつ黒字化させるわけですから、根本的な部分は全部変えています。

継続的に売れ続ける商品づくりが開発の勘所

──次に商品開発に関する基本的な考え方を教えてください。

沼田 万人受けするような無難な商品はつくらずに、常にこだわって「おいしい!」と自信が持てる味を追求しています。販売価格は多少高くなっても構わないから、おいしいものをつくるというのが基本的な考え方です。価格が安いだけの商品では、リピーターはつきません。お客さまは“ベストプライス”であれば絶対買ってくださるという信念を持っています。

 一般的な食品小売業は日替わり特売を実施することで売上を稼いでいます。しかし業務スーパーは毎日同じ低価格で提供するエブリデイ・ロー・プライス(EDLP)政策ですから、個々の商品が売れないとそれだけ売上が落ちてしまう。つまり、単品の売上不振を代替えできる要素がないということです。

 だから、リピーターをつくることが商品開発の重大な肝になるわけです。広告を打ちませんし、日替わり特売もしない、何にもしません。ただお客さまに一度買ってもらい、満足してもらい、またもう一度買ってもらう、それだけなのです。

──開発する商品はどのように決めているのですか?

沼田 最も大事なことはお客さまが必要とされる商品であるということ。次に工場の生産ラインとマッチしているかどうかということです。

 効率的な生産体制を構築できるかどうかが非常に重要で、1つの工場でたくさんのアイテムをつくれば非効率になりますし、工程数が多く手間ひまが掛かるものは一切つくらないという考えです。たとえば、肉の太公という子会社がありますが、M&Aした当時は、製造アイテムは約100ありましたが今はわずか3アイテムに絞り込んでいます。

独自の強み「パーツアッセンブル方式」

──神戸物産の商品製造における最大の特徴は、総菜などをいくつかの「パーツ」に分けて、それぞれを自社専門工場で生産し、店舗等で仕上げる「パーツアッセンブル方式」です。この発想はどのようにして生まれたのですか?

沼田 トヨタ自動車やキヤノンなど、日本の有力な製造業は、パーツアッセンブル方式で生産していますから、食品だけこうした仕組みがないのが不思議なくらいです。世界を舞台に戦っている企業は、食品でもすべてパーツアッセンブル方式です。

 ただ食品は、賞味期限が短いという特性があります。そこで、各々のパーツをいかに安定生産し、どこでどのように組み立てるかということが大事になります。

──食品小売業が今から「パーツアッセンブル方式」をやろうと思っても、実現は難しいと思いますか?

沼田 ローソンの新浪社長が新聞報道で「70億円投じて7年かけてもできなかった」という趣旨のことを言っていますが、それが事実だと思います。

──自社で「パーツアッセンブル方式」を確立するのが難しいからこそ、多くの小売各社が神戸物産の総菜分野における食品製造ノウハウに興味を持っているのだと思います。その総菜専門店「Green’s K」の1号店を09年10月にオープンさせましたが、この分野の成長戦略をどう描きますか?

沼田 当社にとって中食事業は、次世代成長事業という位置づけであるとともに、当社がいちばん得意としている分野でもあります。そもそも当社が物販小売業をFC展開しているのは、スピーディな多店舗展開が可能でスケールメリットを創出できるからです。ですからこれまでは物販小売業の展開による企業成長を優先させてきました。しかし最終的な当社の事業の落とし込み先は中食・外食事業であると考えています。

 一般的な総菜専門店は原価率が60~70%でロス率が5~10%だと思いますが、当社の場合、ロス率は1%しかなく、原価率も50%と低い点が特徴です。つまりお客さまに安く提供できるということです。またロス率が低いということは、利益を確保しやすいということもそうですが、最も大事なポイントは食あたりなどの事故のリスクがきわめて低いということです。実際に、過去に一例もありません。

 「Green’s K」は1号店の亀戸店(東京都)が、たいへん好調に推移しており、今後も同店をモデル店舗に継続出店していきます。亀戸店は、あえて駅から少し離れた、人通りのあまり多くない場所に出店しました。この立地で成功すれば、どこにでも出店でき、一気に多店舗化できると考えたからです。当面の出店計画としては、「Green’s K」は10年8月末までに6~7店舗つくる予定で、ローソンとの合弁事業である「神戸ほっとデリ」(兵庫県/沼田昭二社長)も25店舗ほどの新規出店が決まっています。

──今はローソンとオークワと合弁会社をつくっていますが、他にも多くの企業から話が来ていますか?

沼田 コンビニエンスストア(CVS)もSMも上位企業の数社から打診を受けています。ただCVSで組むのはローソンのみです。ただし駅構内ビジネスはまた別の電鉄系企業と組むということが決まっています。SMからも相当数の話がありますが、現段階で発表できる話はありません。

製販一体の食のSCMを構築する

──さて、神戸物産は工場のM&Aだけでなく、エジプト国内で大規模農業を行ったり、北海道でも次々と農地を取得されています。このねらいと今後の計画を教えてください。

沼田 当社の強みである製販一体の食のサプライチェーンマネジメント(SCM)を構築するためです。自社農園で農作物を栽培し、自社工場で加工し、原材料の生産から商品の加工・製造までを行い、業務スーパーと「Green’s K」で販売する。他社にはない仕組みをつくることにより、食の履歴を明確化した安全・安心な商品を圧倒的な低価格で販売できます。

 エジプトでは約3000ヘクタールの広さで農業をしていますが、国内ではまだ600ヘクタールぐらいの規模なので、1000~2000ヘクタールの規模にまで広げて行きたいです。また北海道では牧場を取得しましたし、畜産加工場と水産加工センターもこれから建設する計画です。

──食のSPA企業として、どんどん進化させていくわけですね。最後に、10年10月期の見通しについて教えてください。

沼田 10年10月期は、過去最高売上、最高益を達成するのはほぼ間違いありません。それだけでなく、先日、期初予想からの大幅な上方修正を発表したのですが、さらにもう一度上方修正を発表する必要性がでてくるかもしれません。今期も積極的にメーカーのM&Aを行い、製造技術・ノウハウを融合させることで、製販一体企業の当社のビジネスモデルをさらに磨いて行きたいと考えています。